第108話 温泉といえば(1)
レンはスペリオル領の温泉リゾートの屋敷で考えていた。
温泉は出来た。
泉質も癒しの力も最高。
しかし、何かが足りない。
そして、結論が出た。
スィーツが足りない。
温泉のスィーツといえば温泉まんじゅう。
だが、異世界にそんな物は無い。
ならばいっそのことパンの木のように出来ないだろうか。
そう考えてそこからかなり長い時間スキルを動かして試行錯誤してみたが、無理であるとの結論になった。
あまりにも工程が複雑すぎて一つの木に組み込むことが無理であった。
ならばスペリオル領の屋敷にいる料理人に依頼して作ってもらことにした。
料理長にまんじゅうというものを事細かく説明して、三日後に試作品を持ってきてもらうことになった。
そして三日ほどすぎて、目の前にいくつもの試作品がある。
それはどうみても地球の日本にあった中華まんであった。
ジャスト掌サイズの大きさ。
説明が悪かったのだろうか、いや大きさも言った。
ならばこれは一体?。
考えても仕方ないため一つ手に取り割ってみた。
「何、中身が白い!」
中には白いクリームのようなものが詰まっている。
恐る恐る少し食べてみた。
恐ろしいまでにメチャクチャ甘い生クリームのような食感。
どれだけ砂糖を注ぎ込んだのやら。
仕方なく次の物を割ってみた。
角切りの肉がゴロゴロと出てきた。
「肉まん?」
温泉まんじゅうを説明したのに中身が肉ですか。
あんこはどこに行った。
恐る恐る食べてみた。
肉はオーク肉の角煮のようだ。
肉は美味しいけど違うよね。
再び別の試作品を割ってみた。
「えっ、野菜ですか」
中から出てきたのは炒めた野菜。
日本のどこかの郷土名産品に近いけど違う。
もはや温泉まんじゅうとは言えないほどかけ離れている。
途方に暮れたレンは試作品作成を中止させた。
温泉まんじゅうとは全く違うものばかりが出来上がってきる。
温泉まんじゅうとして考えなければ、これはこれでいいのかもしれないが、温泉まんじゅうをリクエストしている以上、これは失敗作だ。
またしばらくレンは考え始める。
「なら、もっとシンプルにすればいいんだ。皮は工夫すればもっと近づけることができそうだ。あとは中身のあんこ。スキルであんこを作り出す植物、もしくは小豆を作り出す植物を作ればいい」
スキルを動かし、しばらく試行錯誤を始める。
「小豆は作れる。あんこは・・・・・行けるか。こしあんだけであれば近いものができるか」
眉間に皺を寄せてしばらく考え込んでいる。
「まずは小豆の木を作ろう。そのほうが確実だ」
レンは、最終的に小豆を作り出すことにして、温泉まんじゅうの木は諦めることにした。
屋敷の裏にはに出るとスキル木を発動。
地面に魔法陣が現れその中心から芽が現れる。
スキル木の派生スキル‘’木と森と大地の恵み‘’はすでに発動させている。
その芽がどんどん成長をして、レンの身長と同じ高さにまで成長する。
そして枝を伸ばしいき、徐々に葉が生え、そして小豆の入ったさやが生えてきた。
小豆の入った緑色のさやは、枝にどんどん生えていき、すでに枝に鈴なり状態になる。
さやを一つ収穫してさやを開いてみた。
中にはあずき色となっている豆が入っている。
念のために、その豆を神眼で確認する。
アズーキ
品質
・最高品質
効能・味
・煮て柔らかくしたところに砂糖を加える
と絶品のあんこになる。
その美味しさは誰もが絶叫するか、思わず
言葉を失うかである。
・栄養価は高くミネラル分が豊富。
・荒れた心を落ち着かせる鎮静作用。
・食べるだけで幸福感が押し寄せてきて、
幸せいっぱいの気持ちになる。
・傷ついた心を癒す働き。
「ウ〜ン。また地味に見えるが中身はとんでもない品質だ。まあ、今更だな」
メメロンなど先に作り出したものと比較すれば地味に見える、和のスィーツには欠かせないから仕方ないことだと自らに言い聞かせる。
レンは屋敷の使用人を呼びアズーキを収穫させ、料理長に渡して細かく指示を与え、再び試作品を依頼した。
そして翌日。
レンの目の前には色は白いが小ぶりのまんじゅうがあった。
手に取り割ってみると見た目には完全にあんこである。
恐る恐る食べてみた。
その瞬間、幸せが押し寄せてきて美味しさに感動。
あまりの美味しさにしばらく言葉が出て来ない。
しばらく感動したままのレンがやっと言葉を口にする。
「美味すぎる。最高の出来だ。よし、これを量産するぞ」
レンが庭に出てアズーキの木を、さらに量産しようとすると待ったがかかる。
いつの間にかハワードが立っていた。
「レン。ここでこれ以上は不味い。やがて多くの人々がやってくるから目につくことになる。別の廃村となっている場所に、公営の畑を作ってそこで栽培するようにした方がいい。そうすれば、ある程度情報の秘匿ができる」
あんこと小豆に夢中になっていてすっかり忘れていた。
ここを温泉リゾートとして売り出し始めており、徐々に人も集まり始めている。
確かにここで大っぴらにアズーキの木を広めるのは不味い。
「お爺さま。うっかりしていました。さっそく、廃村でアズーキの畑を作ろうと思います」
「レンを力でどうこうできるものはいないと思うが、その力を使うときは、十分に注意を払ってくれ」
「はい、気を付けます。お爺さま」
夢中になりすぎていたことを反省するレンであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます