第106話 新たな産出物

スペリオル領はミスリルとサファイヤの発見で大騒動となっていた。

ミスリルは、白銀の希少金属で魔力の伝導率がよく、魔道具や武具の生産に欠かせない。

ミスリルは、帝国にでは産出されない為、全て輸入に頼っている。

唯一、ダンジョン内で高位の魔物を倒すと、稀にミスリルで出来た武具などを手に入れることぐらいだ。

そのため、ミスリルの価格は非常に高く、並の貴族程度ではおいそれと買えないほどである。

サファイヤは、どうやら地球のサファイアの事らしい。

仮試掘でかなり濃い青の宝石が出てきているそうだ。

サファイヤも帝国内では鉱床が無いため、かなり貴重なものになる。

噂を聞きつけた者たちが鉱床のある場所に近づこうとするが、既に鉱床の周辺は高く厚い壁に覆われている為、部外者は近づくことが出来ない。

出入り口は騎士団がしっかり見張っているから、おこぼれを盗もうとしても無駄である。

壁の内側では、ハワードが陣頭指揮を取ってミスリル本格採掘の準備が進められていた。

ミスリル発見の報告を受けた皇帝は調査団を派遣してきた。

「いや〜、素晴らしい」

調査団はその品質の高さに驚き、そして驚きの声をあげていた。

調査団は調査魔法を使い鉱床の深さや量を調べている。

「これほど高品質のミスリルが、少なくとも100年以上は採掘可能とは、いや〜驚いた」

「ハハハハ・・我が孫のレン・ウィンダー侯爵のお陰だ」

「サファイヤも最高品質でこちらも100年以上は採掘可能と思われる。この二つだけでもスペリオル領は潤う。羨ましいことだ。儂に娘がいれば縁談を考えるのだが娘はおらんからな」

調査団の責任者であるブランは少し残念そうな表情をする。

「レンが考えることであるが、既に婚約者は二人いる。これ以上は揉める元になる」

「確かに、懸命なご判断ですな」


ーーーーー


ミスリルの本格採掘の準備が進む中、レンはスペリオル公爵領の館で土の大精霊ノームと地図を見ていた。


「ノーム。この地図に印が打ってある場所に何か鉱物は無いかな」

「う〜ん。せいぜい鉄があるくらいだ。ただ、掘ると1年ぐらいで終わる程度の量しか無い」

「その程度しか無いのか、残念」

「水脈はいくつかあるな」

「水・・水か・・ノーム。温泉を探し出すことはできる」

「温泉?」

「地中で温められた水のことだよ」

「あ〜、あれか、簡単だぞ」

「それを鉱物と同じように移動させたり、地表に湧き出すようにできないかな」

「そんなことは造作も無い。簡単!」

「この地図の中に印がついているところがいくつかあるけど、この中で温泉を湧き出すことが可能な場所はあるかい」


しばらくノームは地図を見ながら考え込む。

そして、おもむろに一つの印を指差す。


「ここであれば温泉が湧き出すようにすることは可能だ。ただ、けっこう熱いと思うぞ。いいのか」

「問題無いよ」

レンがその場所についてローとサラに聞くと領都から馬車で1日ほどの場所。

「行ってみよう」

「儂は構わんぞ。承知した」

「ロー、サラ、出かけるよ。準備をお願い」

「「承知しました。すぐに用意いたします」」


レンは護衛の騎士団をと共に、ノームが温泉を出すことができると言う場所に向かう。

ミスリルの噂を嗅ぎつけたならず者たちが、レン達一行の動きを知り馬車の向かう方向を見定めて後を追いかける。

レン達一行と付かず離れずの距離を維持しながら追いかけてくる。


「後をつけて来る者達がいる。どうする。処理しておくか」

「ノーム。向こうが何もしてきていないなら放っておけばいい。そろそろその場所に近いかな」

「あと5kmほどかな」

「もう少ししたら、ミスリルが出た場所と同じように壁を作って」

「なら、一度馬車を止めてくれ」


ノームの要望で馬車が止まる。

ノームは姿を消した状態で馬車を降り、大地に魔力を通していく。

レン達一行の後ろに高さ10mを超える巨大な壁が出来上がっていき、そのままその壁が周辺を取り囲んでいく。


「今回は出入り口用の穴は開けておかなくて良い。僕らが帰るときに開けて」

「承知した」


ノームはついでに警告文を壁に刻み込んでおく。

【この先、スペリオル公爵管理地。勝手に立ち入ったものは処罰する】

護衛の騎士たちは、大精霊による壁構築を再び見せられ、再びその強力な魔法に驚いていた。


「壁が完成した」

「流石!ノーム」


レンの言葉に少し嬉しそうな表情をするノーム。

壁が出来上がるとレン一行は悠々と先へと進む。

しばらく進むと昔農村であった場所に到着した。

既に建物は全て倒壊しておりまさしく廃墟。

何もなく開けた場所に行く。


「このあたりでいいかな」

「ここに温泉を出せばいいのか」

「ちょっと待って、これから土魔法で大きな浴槽を作るから、その後にして」

「浴槽?」

「露天風呂というものを作ろうと思うから」


レンは自ら土魔法で大きな浴槽を作ることにする。

人が座って温泉に浸かれる深さにして、浴槽の壁になる部分を魔力で超高圧をかけて押し固めながら、30m四方の大浴槽を二つ作った。

出来上がったものをローとサラが触る。

「すごい。まるで陶器のような硬さと手触り」

サラの声を聞き、ローも手で触れてみる。

「本当だ。まるで陶器のようだ」

二人の言葉にレンも満足そうにしている。

「そろそろ温泉を出せばいいのか」

「ノーム。浴槽の横に獅子の置物がある。あの中は空洞にしてあるからあの中に温泉を通して」

それぞれの浴槽の横に、高さ2mほどで大きく口を開けた獅子の像があった。

「承知した」


ノームが再び大地に魔力を通していく。

ミスリルのときほどの揺れではないが微かな揺れを感じる。

獅子の像の口から白濁した温泉が噴き出してきた。

浴槽にどんどん白濁した温泉が流れ込んでくる。

レンは神眼でその温泉をみる。


温泉

品質・効能

・最高品質

・肌に優しく、肌に潤いを与える

・胃腸、その他内臓疾患、ストレスに効果あり

・体を芯から温める


「よし!最高に体にいい温泉だ!」

「この白く濁ったお湯が体にいいのですか」

サラが思わず疑問を口にする。

そこでレンが神眼でみた効能を説明する。

「そんなにすごい効果があるんですね」

「ここに一大温泉施設を作り、お客を呼び込めば観光地として発展するぞ」

帝国に温泉ブームを巻き起こすことになる温泉施設が、こうしてここから始まろうとしていた。

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