第105話 土の大精霊

レンは、将来の側近となるロー・ウェルウッドとサラ・レンブラントの二人を伴い、スペリオル公爵領の領都から近い山の麓にいた。

乗って来た馬車はウィンダー家直属の騎士団の管理する馬車であり、騎士団の護衛が20人ほどいた。騎士団はレンに忠誠を誓う意思の強い者達で構成されている。

スペリオル公爵領の領都から近い山の麓であるここにも放棄された村があった。

しかもかなりの広さがある。

山の麓でもあるため、放っておけば確実に魔物の巣か盗賊のアジトになってしまう。


「レン様。ここで何をなされるのですか」


サラ・レンブラントは少し長くなった金髪を何故に靡かせながらレンに尋ねる。

ローとサラは何も知らされずここに着いて来ていた。騎士団も同様に何も知らされていない。


「ここで実験と同時に僕の力をみんなに知ってもらおうと考えている。当然、ここで見たことは騎士団も含め全員他言禁止だよ」

「承知いたしました」

「このロー・ウェルウッドも承知いたしました」

騎士団の全員も承諾した。


「ノーム。出て来てくれ」

レンが土の大精霊ノームを呼ぶ。

しばらくすると地面から筋肉隆々の体をした男が出てきた。

顔は一見老人のように見えるが体から溢れ出る力はとても老人ではない。

「レン様。なかなか呼んでくれんから暇で仕方なかったぞ。もっと儂を呼んでくれ」

「ごめん。なかなか忙しくてね。できるだけ呼ぶようにするよ」

ロー・ウェルウッド、サラ・レンブラント、そして騎士団の面々が驚く。

「レン様。そのお方は・・・」

サラが恐る恐るレンに尋ねる。

「みんなに紹介しよう。土の大精霊ノームだよ」

「ハハハハ・・貴様ら運がいいな。ただの人間で大精霊に出会えるなんて、まずありえない幸運だぞ。感謝しろ、感謝だ」


「え〜、大精霊様」

「初めて見たぞ」

「すげ〜」

「ありがたや、ありがたや」

騎士団の中に一人なぜかノームを拝んでいる奴がいるが、レンはあえて触れずにおくことにした。


「レン。儂を呼び出して何をするつもりなのだ」

「ここに新しい作物を作ろうと考えているんだ。そこでまず侵入者を防ぐ壁を作り土地を整備してほしい」

「承知した。壁はどこからどこまでだ」

「この赤い杭が打ち込んである所を結ぶように、壁を作ってくれないか。出来たら壁を越えて侵入できないようにしてほしい」

レンは赤く塗ってある木の杭を見せる。

事前に壁を作りたい部分に赤い杭を打ち込んでいた。

「高さは10メートルもあればよかろう。細かな部分はその都度言ってくれ」

「それでいいよ。出入りできる門の部分を2ヶ所空けておいて欲しい。そこに木で門をつけるから」

「承知した」


早速大精霊ノームは大地に魔力を流していく。

突如、次々に大地から壁が隆起していく。


「うぉ〜、スゲ〜」

「信じられん速さで壁ができていく」

「これが大精霊の力か」

「凄すぎる。人間の土魔法とは比べもんにならんぞ」

「人間の魔法使い達を動員して作ると数ヶ月かかるはずなのに、信じられん」


次々に大地が隆起して壁が出来上がっていく。

1時間もせずに総延長10kmほどの壁が出来上がった。

「次は土地を整備だったな。畑でも作るのか」

「そうだね。いろいろ新しい作物を作ろうかと思ったんだ。何か鉱物資源でもあれば良かったんだけどね」

「鉱物資源?例えばどんな物だ」

「ミスリルとか金や銀・魔鉄なんかあるといいけど、この土地には無いからね」

「あるぞ」

「ヘェ〜あるんだ・・・あるの!!!」

「裏の山の地中奥深くにミスリルがあるぞ。ただ深すぎて人間には採掘できんな。500メートルほどの地中の中だ。必要なのか」

「欲しいけど、そんなに深いなら無理だよ」

大精霊ノームが何やら魔力を大地に流し始めた。

すると大地から揺れを感じ始めた。

「えっ・・地震」

立っていることができず慌てて地面に座り込む。

しばらくすると揺れがおさまった。

「これで良し」

「何が良しなの」

「儂が鉱脈を移動させた」

「鉱脈を移動???」

「ミスリル鉱脈を山の地中奥深くから、レン様の足元近くに移動させた。手で掘れるぞ」

「エ〜、掘れるの」

レンは短剣で足元を掘り始めた。

すると銀色に輝く小石がいくつも出てきた。

「そこから鉱脈が始まるようにしておいた。欲張らなければ300年くらいは持つと思うぞ。それと人間がサファイヤと呼ぶ石が出てくる鉱脈もあったからそれも移動させてある。あの大きな岩の下から鉱脈が始まるようにしておいた」

ノームが指差す先の少し離れたところに大きな岩が見えた。

「誰かすぐにお爺さまを呼んで来て」

レンの声に応えて騎士団の一人が領都へと馬を走らせた。

「後は土地を整備して畑にすればいいのか」

「ちょっと待って、ミスリルが取れるならここは畑にできない。畑は他で同じように壁を作ってから作ることにするよ」

「分かった。儂は一向に構わんぞ」

「ノームは鉱脈の移動なんて簡単にできるの?」

「儂に任せれば地中深くにある鉱脈や水脈を地表近くに移動させることは簡単だ。ただ、その周辺に無いものは、流石に移動させることは難しいぞ」

「ノームは凄いんだね。ありがとう」


土の大精霊ノームは、レンの言葉に少し照れていた。

帝国内ではミスリル鉱床が無く。全て他国からの輸入に頼っていた。

このミスリル鉱床発見は、帝国内において非常に重要な出来事であり、でスペリオル領は息を吹き返すキッカケを得ることができ、それがレンの名声をさらに高める結果となったのだ。

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