第103話 スペリオル家の現状
ハワード・スペリオルは、スペリオル領立て直しのため領都の屋敷にいた。
領都の屋敷のあまりの豪華な姿に呆れたものの、先にスペリオル領の財政状況の把握に努めているところだった。
古くからスペリオル家に仕えてきた者達は、ハワードの当主への復帰に大いに期待していた。
逆に、ダニエルとエレンによって甘い汁を吸っていた者達は、顔面蒼白となっている。
「なんだこの財政状態は、ダニエルとエレンに任せる時にはかなりの金額を蓄えてあったはずだぞ。それが何も無いとはどうなっているのだ」
ハワードが隠居してスペリオル家をダニエルとエレンに任せた時は、災害などで数年税収などが無くてもやっていける程の蓄えがあった。
それが全く無い。それどころか市井の商家から借り入れが発生している。
ハワードが隠居する時に家宰であるハミルトンには、二人に浪費をさせないように指示していた。
長く家宰を務めハミルトンは、ハワードの時と同様にダニエルに何度も諫言をしたため、ダニエルから家宰を解任され追放されていた。
ハミルトンは、ハワードの下で長く家宰を務め、忖度せず諫言する人物であったためだ。
ハワードは、元スペリオル家家宰であるハミルトンを呼び戻し、再び家宰に据えて共に状況把握に努めていた。
ハミルトンはかなりの高齢ではあるが業務には支障は無く、恐ろしく早い速度で分厚い書類を隅々まで読み込んでいる。
「ダニエル様達の浪費を何度も止めようとしたのですが、力至らず追放されてしまいましたから、私の追放後は誰も止めるものがいなかったのでしょう」
「しかし、いくらなんでもこの浪費は信じられん」
「金の動きを見るとダニエル様が家宰に据えたボルンも、かなりの金額を自分のものにしておりますな。明らかにおかしな金の動きをしております」
「公金の着服か、ボルンの行方は分からんのか」
「ダニエル様が幽閉されたことを知り、すぐに逃げたようですから難しいかもしれません。残っていたのは、ボルン直属の小悪党どもだけ。そ奴らは、全員牢に放り込んであります」
「分かった。そ奴らは後々罪状を詳細に調べて鉱山送りにでもする」
「承知いたしました。ですがこの財政状況では、遠からず破綻いたします」
「やはり破綻すると思うか」
「間違いなく破綻いたします。自力で更生は無理かと思います」
「手立てが無いか・・ならば全て清算して爵位返上を」
「レン様にお助けいただくしか無いかと」
「レン・・あの子になるべく負担を与えたくは無いのだが」
「商人達からの借入もかなりございます。レン様であれば商人達も協力してくれると思います。レン様がウィンダー侯爵となってからのウィンダー領の発展は目を見張るものがあります。特産品も無く、発展性が無いと言われた領地を、帝国一豊かな領地へと変えて見せました。その手腕に注目しないものはおりません」
執務室でハワードが悩んでいると執務室のドアが開いた。
「今は立ち入りを禁じた・・・レン。どうしてここに」
執務室の入り口にニッコリと微笑むレン・ウィンダー侯爵がいた。
「ハミルトンさんからお爺さまが困っていると聞き、手伝いたいと思ってやってきました」
「ハワード様、出過ぎた真似をいたしました。申し訳ございません」
ハミルトンはハワードの頭を下げていた。
「スペリオル家とウィンダー家は別の家になっている。レンは助ける必要は無いのだぞ」
「このままでは破綻するのでしょ。破綻させてしまうのは簡単ですが、破綻させてしまえば多くの者達が困り、罪の無い多くの者達の人生も破綻させてしまいます」
「それはそうだが・・」
「ハミルトンさん。負債はどの程度ですか」
「精査の途中ですが・・金貨500万枚ほどになりそうです」
「分かりました。問題ありません。ウィンダー侯爵家で全て支払いましょう」
その言葉にハミルトンは驚いた。
「金貨500万枚ですよ。流石に無理では」
「問題ありません。ウィンダー家の預金だけでその10倍以上ありますから平気ですよ。2〜3日中に用意させます」
「10倍以上ですか」
「はい、ですからなんの心配もありません」
しかし、ハワードは苦渋の表情をしている。
「しかし・・・」
「ウィンダー領の資産は自分一人で稼いだ訳ではありません。お爺さま・お婆さまのお力添えがあったお蔭でもあります。お爺さま・お婆さまの助けがなければ、まず死んでいました。助けられた後に、色々な特産品を生み出し販売するときも、お爺さま・お婆さまの力が大きかったです。自分一人ではここまでのことはできませんでした。ウィンダー家のお金はお爺さま・お婆さまのお金でもあります。どうか使ってください」
「いいのか」
「はい、ぜひ使ってください」
「レン。ありがとう」
「それと一つお願いがあります」
「できることであれば、なんでも言ってくれ」
「妹と弟のことです。僕に関してありもしない事ばかり吹き込まれているようです。あの子たちの誤った情報を訂正させ、帝国貴族の良識を教え込んでやってください」
「そこは心配いらん。ルナがすでに始めている」
「お婆さまがですか」
「そうだ。少々厳しいが問題無いだろう」
「ありがとうございます」
「ならば、将来のことも頭に入れて置いて欲しいことがある」
「将来ですか」
「スペリオル公爵を継ぐことだ。障害は全てなくなる」
「ウィンダーの名にも愛着が出てきましたし、すぐには答えられません」
「すぐ出なくて良い。考えておいて欲しい」
「考えておきます」
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