第101話 忍び寄る闇

ファーレン子爵の館からは、違法奴隷や違法薬物の売買の証拠が次々に出てきた。

その犯罪に関わる貴族・商人なども芋蔓式に判明して厳しい処分が下された。

ファーレン子爵は取り潰し、加担した貴族も取り潰しとなり、領地は皇室預かりとなった。

全員死罪と決まり即日実施された。

ただし、城での魔物召喚は謎の組織の仕業として、今回捕らえられた者達の中で関わりのある者達も全員死罪となった。

騒々しかった帝都もやがて静かになり、日常のありふれた日々に戻っていた。


「帝都もやっと静かになりましたね」

「そうですね。ところでなぜ教皇閣下はここにいるのですか」


帝都のレン・ウィンダー邸の客間では、教皇ハロルドが優雅に紅茶を飲んでいた。


「お気になさらずに」

「いや、気にするなと言われても無理でしょ」

「ここにいるのは使徒様の下僕たるハロルドです」

「それはあの時だけの話しでは・・・」

「いえいえ、生涯に渡りお仕えいたしますぞ」


教皇ハロルドの言葉に困り顔のレン。

柔和な笑顔の教皇が真面目な表に変わる。


「レン様。グレイン王国の裏には暗黒魔導士と呼ばれる者達がいます。暗黒魔導士達がグレイン王国を牛耳り暗躍しております。おそらくその者たちが出てくる可能性があります」


教皇ハロルドの口調が変わったことでレンの表情も厳しいものに変わる。


「その暗黒魔導士が表に出てくるのですか」

「おそらく」

「何のために」

「理由はわかりません。ですが、以前に起きた謎のスケルトン騒動、今回のスペリオル侯爵を魅了の魔眼で操ること、城での魔物召喚、違法薬物の帝国内での密売、帝国の民を攫い奴隷として売り払う、この全ての裏で暗黒魔導士が暗躍していると噂されております」

「あ〜、確かに全てに関わっていますね」

「全てレン様が潰していますから完全に敵として見られたのでしょう。特に取り潰しになったファーレン子爵家はグレイン王国と深い繋がりがあった言われています。つまり、暗黒魔導士との繋がりが深いと思われます」

「ファーレン子爵家の取り調べでその部分は何か出たのですか」

「記憶に強力な封印がかけられていて、封印魔法をかけた術者以外が封印を外そうとすると廃人となってしまいます」

「廃人、封印を外したのですか」

「帝国騎士団と魔法師団が封印解除に取りかかりましたが、ことごとく失敗してしまいました」

「失敗ですか」

「残念ですが、ただ分かったことは、昔は暗黒魔導士は7人いたそうですが、徐々に数を減らして、現在確認されている暗黒魔導士は3人だけ、それぞれ大罪の名を付けられ、大罪を称号として名乗っているそうです」

「別に暗黒魔導士と分かってやった訳ではないのですが」

「ですが、実質的にレン様が暗黒魔導士の策謀をことごとく潰しています。狙われるかと思います」

「面倒なことになりますね」

「レン様のお力であれば暗黒魔導士を退けることは、造作も無いことと思いますが、周辺を狙われる恐れもございます。十分周辺にも注意を払っておく必要があります」

「お爺さま・お婆さま達にも伝えておきます」

「大精霊様やフェニックスもおられますからレン様自信は大丈夫ですから、騎士団にも伝えておかれたら良いかと」

「大精霊のことは知っている人はいますが、フェニックスですか?どこでそんな噂話を・・そんな話は初めて聞きましたけど」

「大丈夫ですよ。全て分かっております」

教皇ハロルドはニッコリ微笑む。

『レン。このお爺さんんは僕のことを分かっているよ』

「えっ、あ〜、天眼ですか」

部屋の片隅で、赤い体に緑と黄色の2本のラインが入ったセイントレッドバードの姿の鳥がいた。

ファニックスのラーが擬態した姿であるが、教皇ハロルドはそのセイントレッドバードを見つめて微笑んでいる。

「大丈夫です。このことは他に言いませんよ。このハロルドの胸の内にしまっておきますから」

レンの秘密の一つを知れて上機嫌の教皇ハロルドであった。


ーーーーー


月明かりに照らされた帝都の闇に一つの影が浮かび上がった。

何も無いところに突如人の姿をした漆黒の闇ができたのだ。

その闇に一匹の野犬が反応して激しく吠える。

するとその闇が一瞬にして伸びて野犬を飲み込まんとする。

瞬間飛び跳ね避けるがすぐに巻きつかれ口を塞がれ、吠えることもできないようにされた。

ゆっくりとその闇は捕らえた野犬を飲み込んでいった。

「やれやれ帝都に入り込んで早々野犬ごときに見つかるとわね」

「暴食のデクスターも焼きが回ったんじゃないか」

人の形をした闇の後ろにいつの間にかもう一つの人型の闇があった。

「なんだ嫉妬のテッドか、これは不可抗力だ。貴様こそ普段からだらけてばかりいるから使い物になるのか、俺様の足を引っ張るなら失せろ。俺様一人で十分だ」

「ハハハハ・・・そう怒るなよ。久しぶりに面白そうな相手じゃないか」

「何が面白いだ。我らの計画をことごとく潰した相手だ」

「その相手が子供だというじゃないか、面白い、実に面白い。どんな才能を秘めているのか想像しただけでゾクゾクしてくる。フフフ・・早く壊してみたいよ」

「チッ・・狂人の考えていることは分からん」

「狂人呼ばわりは酷いな。君も僕以上の狂人じゃないか」

「てめえと一緒にするな」

二つの人型の闇は再び帝都の夜に消えていった。

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