第97話 戦いの後始末(2)
レンは帝都にある精霊の湖に来ていた。
精霊の湖の辺りで地面に座り込む。
レンの周囲には次々に精霊たちが集まってくる。
『わぁ〜い、レンだ・遊ぼうよ』
『レン・久しぶり』
『遊ぼう・遊ぼうよ』
小さな下級精霊たちがレンの周辺を飛び回り喜んでいる。
精霊達はレンのことが何より大好きだからである。
「レン。食べようよ」
世界樹の精霊ユグがやってきた。
たくさんのパンの実を手に抱えていた。
思わず笑顔になるレンは、パンの実を一つ受け取る。
透明な袋を破ると香ばしくお美味しそうな匂いが溢れてくる。
「あ〜!僕を呼ばないなんてひどいじゃないか」
水の大精霊ウィンがゴールドマスカットを持ってきていた。
ウィンはゴールドマスカットのフレッシュジュースがお気に入りだ。
「ウィン。ごめんごめん。みんなで食べよう」
「あ〜、ウィンだ。わ〜い、一緒に食べよう」
精霊達は大喜びでパンの実とゴールドマスカットを食べている。
「レン。城で色々あったみたいだが、まあ気にするな」
「よく知っているね」
「どこにでも精霊はいる。特にレンに関わることはすぐに伝わるよ」
「そっか・・」
「元々関係がほとんどない相手だろう。考えても無駄だよ」
「ウィン・・。分かってはいるんだけどね」
「レンを疎ましく思い、憎んでいる者達よりも、レンを愛している人たちはそれ以上にたくさんいるんだ。レンは一人じゃない。少なくとも僕ら精霊は、君を見捨てない。もしも人間の世界で生きづらくなったらいつでも言ってくれ、みんなで精霊の森に帰ろう。外の世界と交渉を絶って皆んなで精霊の森で楽しく暮らせばいいさ」
「そうだそうだ。レンをいじめる奴らは許さないよ」
「ウィン。ユグ。ありがとう」
「僕らに言ってくれれば、レンに代わってお仕置きしてやるよ。この世界で精霊は人間には無関心なんだが、その精霊が怒ったらどうなるか教えてやるよ」
「そこまでしなくてもいいよ。そこまでする価値のある相手じゃない。僕が割り切れるかどうかの問題さ」
世界樹の精霊ユグが膨れっ面をする。
「言ってくれれば、その場所の作物を育たなくすることなんて簡単だよ。レンに酷いことをした奴らは報いを受けるべきだよ」
「僕言ってくれれば、水を干上がらせたり、洪水も大雨もお手のものだぞ。鉄槌を下す準備はいつでもできているぞ」
レンは、世界樹の精霊ユグと水の大精霊ウィンが本気で怒れば、数百年に一度の大災害を容易く起こせる存在であることを思い出してしていた。
このままなら本気でやりかねない。
それに、他の大精霊に伝われば同様に何をしでかすか分からない。
レンの背中に冷たい汗が流れる。
本当に大災害が吹き荒れる可能性がある。
「ダメダメダメ。絶対ダメ。そんなことは望んでないから」
「レン。冗談だよ。冗談」
ユグはそう言いながら不満そうにしている。
「ハハハ・・冗談だよ」
ウィンも明らかに不満そうにしている。
本気でやるつもりだったようだ。
「気持ちは嬉しいけど、そんなことは絶対やめて。そんなことをされても僕は嬉しくないよ。だから絶対やめてくれ」
「分かったよ。でも、レンの身に危害が及べば僕らは動くよ」
「そんな時でも、関係のない第三者は巻き込まないでくれ、お願いだ」
「レンは優しい。優しすぎる。だから僕らがそばについているんだけどね」
「面倒ばかりかけてごめん」
「きっちりと蹴りを付けておいで」
「分かった」
レンは、帝都の屋敷に戻って行った。
ーーーーー
レンが帝都の屋敷に戻ると部屋に聖女マリーが待っていた。
「使徒様。今回は私たちの手落ちで大変なご迷惑をおかしました。申し訳ございません」
聖女マリーが頭を下げた。
「待ってください。迷惑をかけたのはこちらです。身内がとんでも無いことをしでかした結果です。謝罪するのはこちらです」
「いいえ、使徒様の存在を把握することが遅れ、そのことが今回の遠因ともいえます。早く使徒様の存在を把握できていたら、ここまでの事態にはならなかったかと思います」
「事件を起こしたのは実の父と継母。僕にも責任はあります」
「いいえ、事件は謎のテロリストによる城への襲撃であり、ダニエル・スペリオル公爵は敵の襲撃を受けて大怪我を負い、この先全ての公務ができない体となりました。エレン・スペリオル公爵夫人は、魔物の襲撃を受けて死去。そのため、一時的にハワード前公爵様が復帰され公務をされます」
「えっ、それは一体・・」
「これは帝国と教会が正式に全ての国に対して通達されます。もしもこの先エレンの名を語る者がいれば、それは偽物であることになります。その上で、エレンには密かに過去に例がないほどの莫大な懸賞金がかけられることになるでしょう。そして、ダニエル・スペリオル公爵は治療名目で生涯軟禁状態となることが決まりました」
「それは」
「教皇様・皇帝陛下・前皇帝陛下・宰相閣下による協議で決まりました。つまり真実は闇に葬ることになるということです」
「ですがそれでは」
「真実をそのまま出せば、レン様だけでなくハワード様・ルナ様も連座の罪に問われます。そのほか多くの家臣達も連座の罪に問われます。あまりにも多くの方が不条理な罪に問われます。教皇様はそのようなことは望まれていません。被害を最小限に食い止め、多くの人々を罪に落とすことが無いように教皇様が動かれた結果です。これは覆りません」
「父は」
「既に近衛騎士団の監視のもと幽閉されております。お会いすることはできないそうです。レン様の義弟や義妹は帝国の厳重な監視下に置かれます」
「父はもう幽閉ですか、早すぎませんか」
「魅了の魔眼の支配が長く続いていたためか、魅了の魔眼がかけられてからの記憶が全て抜けております。その影響もあり、かなり精神に異常をきたしている部分が見られます」
「魔眼の影響ですか」
「父上のことはお忘れになることです」
聖女マリーは立ち上がり部屋から出て行こうとして立ち止まった。
「そういえば、魅了の魔眼が切れてから、レン様の母であるマリア様の名をよく呼んでいるとのことです。おそらく、心はその時の時間で止まっているのかもしれませんね」
聖女マリーが出ていくと、座っていたところに紙が一枚あった。
そこには南離宮と書かれていた。
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