第96話 戦いの後始末(1)
教皇ハロルドは、城で暴れる魔物を討伐し終えると、周辺で魔物召喚の魔法陣を探し始める。
魔物が出てこないことから魔力を使い果たして止まっていると考え、すぐに破壊してしまおうと考えたのである。
「また、周囲の魔力を集めて召喚を始めたら面倒ですからさっさと壊すとしますか」
周辺はメイスにより粉砕された魔物たちの死体が散乱していた。
美しいはずの庭が、飛び散った魔物の血や肉片でまさに地獄絵図の有様である。
「おや、こんな所にありましたか、また魔物を呼ばれると面倒ですね」
庭の片隅の壁際に隠されていた魔法陣を見つけた教皇ハロルドは、神聖魔法で消滅させる。
「聖炎」
白い炎が魔物召喚の魔法陣を消滅させていく。
そして、教皇ハロルドはレン・ウィンダーのところにやって来る。
レンも魔物召喚の魔法陣を破壊するところであった。
「聖炎」
レンの放つ神聖魔法が魔物召喚魔法陣を消滅させていく。
「流石はレン様。コンパクトでありながら私の聖炎より強い威力」
「教皇様。僕の魔法の威力は大した事はありませんよ」
「ご謙遜なさらずとも、分かるものが見れば一目瞭然」
「どうやら魔物は全て片付いた様ですね」
教皇ハロルドはメイスを収納魔道具に指輪にしまう。
「レン様のお力もあり、どうにか全ての魔物を倒すことができました」
「教皇様がここまでお強いとは思いませんでした」
「レン様。私のことはハロルドとお呼び下さい。様は不要です」
「えっ、いや・それはまずいでしょう。教皇様をそのように呼んだだら大問題になります」
「問題ありません。慈母神アーテル様の使徒であるレン様の下僕である以上、私に様はつけないで下さい」
「その様なことをしたら世間に知れ渡ります。困ります。それに・・下僕とはいったい何ですか」
「私は問題ありませんよ」
教皇ハロルドは、にこやかな笑顔のままである。
「僕には大問題なんですよ。それこそ教会関係者から不敬だと言われます」
「その様な輩は、きっちり締め上げますから問題ありません」
「街中を自由に歩けなくなります」
「護衛付きで動かれていますから、さほど変わらないのではありませんか」
「問題ありすぎなんです」
「ハァ〜、使徒様は自由を愛するのでしたな。仕方ない。周囲に人が居ない時で妥協しますか」
「妥協も何も呼び捨てなんてしませんよ。教皇様。それに、下僕とは」
「お気になさらずに」
「気にしますよ」
「お気になさらず、私個人の心情ですから」
「心情ですか」
「はい、心の中でその様に考えております。心の中は自由ですから」
「使徒であることは言いふらさないで下さいよ。しかし、この魔物は一体どうしたのです。城に魔物が湧き出るなんて異常です。誰がこんな魔法陣を置いたのです」
「レン様の継母であるエレンの仕業です」
エレンの名前を聞き思わず顔を顰める。
「エレンの仕業ですか」
「レン様。レン様のお父上は、正室でありレン様の継母になるエレンの魅了の魔眼により、操り人形となっておりました。それを私により白日の下に晒されたため、ここから逃げるために、事前に仕掛けておいた召喚魔法陣により魔物を召喚。魔物たちが暴れる隙に逃げたのです。いつの間に召喚魔法陣を仕掛けて隠しておいたのか不明ですが、かなり以前から何か良からぬ企てを立てていたのか、その切り札として準備していたのでしょう。現在は、エレンは逃げ、お父上の魅了は解けていると思います。お父上の側にはハワード様とルナ様が付いておられます。会われますか」
教皇ハロルドからの突然の話しにレンは言葉が出てこない。
「・・・・・魅了の魔眼・ですか」
「はい、魅了の魔眼は非常に強力です。大概の人間はあがらう事はできません。魅了の魔眼にあがらう事ができるのは、とびきり魔力の強い者か、私たちの様に神から特別な加護を受けた者、上級精霊以上の加護をもつ者、状態異常耐性のスキルか、手に入れることが難しい状態異常耐性を付与する魔道具を持つ者だけです」
教皇の話を聞きながらレンの表情が歪む。
レンの心の中には様々な想いが去来する。
物心つく頃の優しかった父の顔。
期待したスキルを持っていないことが分かると怒りの表情で無能と罵る父の顔。
自分のことを空気の様な扱う無関心な父の顔。
自分に対して視線で射殺すかのような表情をする父の顔。
自分に辛くあたる父の家臣。
寝室に邪法の魔法陣を仕組まれ殺されかけた事。
その全てから逃げるための命懸けの逃避行。
様々な出来事が心を締め付ける。
そんなレンを教皇ハロルドは優しい眼差しで見つめている。
「レン様。今は止めておきましょうか。少しだけ、心の整理をする時間が必要でしょう。いま会っても何も前に進めないかと思います」
「教皇様」
「少なくとも数日は時間を空けましょう。その間に自分の心と向き合いましょう。いま会っても激しい憎しみしか湧いてこない。それでは悲しいだけではありませんか。どうしても許せなかったら、1発ぶん殴ってやれば良いんですよ。皇帝には貸しがたくさんありますから、何なら2〜3発ぶん殴る権利を教皇の名において認めさせますよ」
「・・・・・」
「マリー」
聖女マリーは名前を呼ばれ慌てて二人のところにやって来る。
使徒であるレンのとても辛そうな表情を見てしまう。
教皇は聖女マリーに小声で声をかける。
「レン様は心身ともにとても疲れておいでだ。護衛として聖騎士5名を付けます。レン様を屋敷までお送りしなさい」
「いえ、一人で大丈夫です」
「ですが」
「一人にさせてください」
それだけ言うとレンは一人で城の外に向けて歩き出した。
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