第95話 教皇ハロルドの暴走

謁見の間に侵入してきたのは、緑の肌をした身の丈3mほどの一つ目のトロール3体と漆黒のシャドウウルフ10体。

外では、さらに多くの魔物の気配が溢れている。

ハワードがすぐさま雷魔法のライトニンボルトを放つ。

トロールの巨体に巨大な雷が撃ち込まれた。

焦げ臭い匂いが辺りに立ち込める。


「ハワード、まだだ!」


アリシアの声が謁見の間に響く。

破壊された壁の塊がハワードに向かって投げつけられていた。

間一髪避けて床を転がる。


「魔法耐性を強化されたものなのか」


アリシアが巨大な氷の槍を打ち出す。


「アイスランス」


だが、トロールは氷の槍を避けることもなく平然とその身に受けるが、傷ひとつつかない。

その隙にシャドウウルフが襲いかかってくる。


「ファイヤーウォール」


ハワードが炎の壁を作り出し、シャドウウルフの半数が燃え尽きる。


「魔物どもを討ち払え、いくぞ」


近衛騎士団が剣を抜いて魔物たちと戦いを始める。

魔法師団は、近衛騎士団の後方支援を始める。

近衛騎士団と魔法師団はシャドウウルフは倒したが、トロール3体に苦戦している。


「ハワード。今のうちに愚息を連れて下がれ、戦いの邪魔だ」

「教皇様こそ危険です」

「君に心配されるほど衰えておらんよ」


教皇ハロルドの目からは、若い頃を上回る気迫と力強さを感じ、思わず後ずさる。


「ハワード。ささっと動かせ、邪魔だ。死んでもいいならそのままでも良いが。愚息が戦いに巻き込まれるぞ」


教皇ハロルドに言われ、ハワードは息子のダニエルを後方の壁際へと連れて下がる。

近衛騎士団と魔法師団はトロール3体をどうにか倒すことができたが、すでに満身創痍であった。

破壊された壁がさらに破壊される。

先程までのトロール上回る5mを超えるトロールが棍棒を片手に入ってきた。

大きく破壊された壁。

そこから見える外では5mを超えるトロールやオークが暴れ回っているんのが見えた。


「ハァ〜!仕方ありませんね。また、私が君たちの後始末ですか」

「教皇様。ここは危険です下がってください」

「ジェラルド。私があの程度のものに遅れをとると思っているのかい」

「そ・それは・・ですが、危険です」

「貸し一つだ」

「えっ・また・またですか」

「貸し一つだ。あっ・そう言えば、今までたくさん貸し一つと言って助けたが、まだ何も返してもらってなかったな。ジェラルド。そろそろどうにかしないと貸しが増える一方だぞ」

「えっ・それは・お手柔にお願いします」


教皇の言葉に思わず顔が引き攣る前皇帝ジェラルド。

そんな前皇帝の表情を見て意地悪く笑顔を見せる教皇。

教皇ハロルドが魔道具である収納指輪から一際大きなメイスを取り出す。

先端にいくつもの突起がついておりさらに微かに光を纏っている。

その場にいるものたちは、滅多に目にする事のない魔道具に驚き、さらにそこから現れた淡い光を纏ったメイスに驚いている。

教皇ハロルドはメイスを片手に構える。

とても片手で持てる様に見えない巨大なメイスを片手で持っていた。


「魔性のものたちよ。教皇ハロルドが特別に相手をしてあげましょう」


教皇ハロルドが神聖魔法をメイスに流し始めるとさらに強い光を纏い始める。

その姿を見たジェラルドが叫ぶ。


「不味い。あれは本気だ。全員早く下がれ!巻き込まれるぞ、下がれ下がれ、急げ!絶対近づくな、巻き添えを食うぞ」


教皇ハロルド豹変した雰囲気に危険を感じたトロールが教皇に棍棒を振り下ろす。

だが、教皇ハロルドは片手のメイスで軽く受け止める。


「この程度か、弱い弱い弱い。弱すぎるぞ」


思わず恐怖を感じ後退りするトロール。

教皇は、片手で祈りの姿勢を見せる。


「魔性のモノよ。もし慈母神アーテル様が生まれ変わることをお許しになるなら、善なる人間として生まれ変わるがいい。天魔覆滅!」


教皇ハロルドはトロールの棍棒を払いのけ、身体強化魔法で一気に加速。

脳天にメイスを振り下ろす。

トロールは棍棒で防ごうとするが、メイスは棍棒を粉々に破壊してそのままトロールの脳天に直撃した。

トロールはその一撃を受けて後ろに倒れた。


「聖炎」


教皇は神聖魔法の聖炎を発動。

トロールは純白の炎に包まれ消滅していく。

その場にいたものたちは、教皇ハロルドを昔から知っているものたちは渋い表情。

聖女マリーや近衛騎士団・魔法師団の者たちは、教皇ハロルドのあまりの強さに呆気に取られていた。


「弱い。話にならんな。こんやつらに手こずるとは、帝国近衛騎士団と魔法師団は鍛えなすべきだろうな。儂が特別に鍛えてもいいが・・・そうなると人間として壊れそうだからやめておくか」


教皇ハロルドは、謁見の間にいる者たちをそのままにして、壊れた壁から外に出ていく。

外に出てみるとちょうど一体のトロールが誰かに討伐され倒れてきた。

そこには白銀の木刀を手にしたレンが立っていた。


「おぉぉ〜、流石は使徒様」

「あ、危ない」


別のトロールが棍棒を教皇に振り下ろすが、再び何事もなくメイス片手に軽く受け止める。

トロールは渾身の力を込めて棍棒で押し潰そうとしているが、教皇は何事もなく笑顔である。


「使徒様、お気遣いいただきありがとうございます。使徒様とはゆっくりとお茶でもしたいものですな」

「だ・大丈夫なんですか」


教皇がレンに挨拶している間もトロールが必死に棍棒に力を込めている。


「ハハハハ・・少々騒がしい様ですのですぐに片付けます。お待ちください」

「は・・はぁ・・」

「聖炎」


一瞬にして白い炎に包まれるトロール。


「トロールは残りは4体か」

「僕が半分持ちます」

「承知いたしました。使徒様の忠実なる下僕であるハロルドは、トロールの半数である2体を倒し、ついでに他の雑魚どもを残らず始末いたしましょう」

「えっ・・下僕とは・・」


レンの問いかけには答えずに笑い声を上げながら喜び勇んでトロールに向かっていく教皇ハロルド。

しばらくして城に召喚された魔物は全て教皇ハロルドとレン・ウィンダー侯爵により全て討伐された。

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