第94話 魔眼

皇帝フレッドは憂鬱そうな表情をしていた。

長い間、前皇帝の時代から問題視されてきたスペリオル公爵の問題に、蹴りをつけなければならなくなったからである。

万が一に備えて密かに近衛騎士団、魔法師団らに全軍招集をかけ待機させ、帝国騎士団にも待機命令を出していた。

問題のスペリオル公爵夫妻には、教皇との会談の三日後となる今朝になってから、突如直ちに城に来るように通知していた。

教皇との会談から今朝まで、逃亡や新たなる企みや関係の深いと見られているグレイン王国との接触を見張るために、スペリオル公爵と関係が深いと見られる場所には多くの監視がつけられていた。

帝都にある公爵の館は皇帝の隠密たちが密かに監視している。

領地の館の方も厳重な監視下においていた。

帝都の治安維持を行なっている衛兵隊にも訓練を名目に総動員を掛けていた。

謁見の間には、現皇帝フレッドと前皇帝ジェラルド・宰相ジェイク・教皇ハロルド・聖女マリー・前スペリオル公爵であるハワードが揃っている。

さらに何らかの魔法攻撃があった場合に対処するため、帝国一の魔法使いと呼ばれる帝都学園のアリシア学園長も魔法師団長・近衛騎士団長と共に同席することになった。

謁見の間では、多くの近衛騎士団と魔法師団が警戒して物々しい雰囲気となっている。

「スペリオル公爵がお見えです」

近衛騎士団の一人が告げた。

「入れよ」

謁見の間の扉が開かれると、オークと見紛う巨体の男と、金髪で透き通るような白い肌の女性が謁見の間に入って来た。

ダニエル・スペリオル公爵とその妻であるエレンである。

ダニエル・スペリオル公爵は、歩くのも大変そうに見える。

ゆっくりと歩いているのに息が切れ切れで額には汗が浮かんでいた。

謁見の間の中央付近で立ち止まると、片膝をゆっくりと床につけて礼の姿勢をとる。

「ダニエル・スペリオル公爵急な呼び出しによく来てくれた」

「陛下。お呼びにより参上いたしました。どの様な件でしょう。見ればそうそうたる方達がお揃いのようで、最近顔を合わせてくれない我が父もおられますな」

「ここに呼ばれた理由がわからんか」

「さっぱり分かりませぬが」

「お主は息子のレン・ウィンダーが余程憎い様だな」

「あの無能に何を吹き込まれたか知りませぬが、身内の問題でございます。陛下のお手を煩わせる問題ではございません」

「お前には色々な容疑がかけられている」

「容疑?」

ダニエル・スペリオル公爵は、怪訝な表情をする。

「暗殺ギルドを利用したレン・ウィンダー侯爵への殺害未遂、昨今帝都を騒がせたスケルトンを操る者たちとの関係、他国の者達と手を組み帝国の安寧を損ねる行為だ」

「ハハハハ・・・なんの証拠があってそのような戯言を言われるのです」

宰相ジェイクが一つの書状をダニエル・スペリオル公爵の前に投げる。

その書状を手に取り広げると顔色がみるみる悪くなっていく。

「それをよくご覧なされ、貴殿が暗殺ギルドにレン・ウィンダー暗殺を依頼した依頼書の写しだ」

驚きの表情に変わるダニエル・スペリオル公爵。

「これは誰かが私を貶めるために偽造したもの。この様なものを間に受けるなどおやめください」

「これは昨日暗殺ギルド本部を近衛騎士団で強襲して入手したものだ。原本は教会立ち合いで正式鑑定済みだ。そこに残された魔力はダニエル・スペリオル公爵の物であり、印章は正式なスペリオル公爵の印章である。偽造は有り得ない」

その様子を黙って見ているハワード前公爵はとても複雑な表情をして見つめている。

「私はこの様なものを書いた覚えは無い。仲が悪いと言っても、いくら何でも実の息子の暗殺依頼など出すはずがないだろう」

その時、教皇ハロルドが一歩前に出た。

「エレン・スペリオル。魅了の魔眼で人を操り楽しいのか。どれだけその魔眼で人を不幸にして来たのだ」

エレンは俯いていた顔を教皇に向けた。

「教皇様。何を言われるのです。魅了の魔眼とは一体何のことです」

「あくまでも知らぬと言うのか」

「私には人を操るような力はございません」

「素直に認めれば、陛下に助命を願い出るつもりであったが、あくまで知らぬと言われるのか」

「ですから知りません」

「調べる手立てがないと思っているのだろうが、教会にはそれを調べ公開できる手立てがある」

教皇の言葉に怪訝な表情をする。

「ごく一部の者しか知らぬことであるが、教皇や聖女・一部の高位聖職者は、慈母神アーテル様から天眼と呼ばれる魔眼を授かっている」

「天眼?」

「あらゆる人物の名前・才能・スキルなどを知ることができ、さらにその人間の状態を知ることができる。そしてそれを空間に転写して第三者に見せることができる」

「そんな馬鹿な」

「ならば見てみるがいい」


何もない空間に二人のステータスが浮かび上がった。


氏名:ダニエル・スペリオル

年齢:35歳

種族:ヒューマン

職業:公爵

状態:魅了の魔眼による精神誘導状態

   エレン・スペリオルによる精神操作状態

スキル:

  火魔法Lv3

  水魔法Lv2  

  生活魔法Lv3

称号:

  操られし道化


氏名:エレン・スペリオル

年齢:30歳

種族:ヒューマン

職業:公爵夫人

状態:魅了の魔眼発動中

スキル:

  魅了の魔眼Lv5

  召喚魔法Lv5

称号:

  人心の支配を渇望する者

  魔に魅入られた者


「馬鹿な・・こんなことが・・」

エレンは信じられないものを見る表情をしていた。

「そんな・・この私が操られているだと・・」

ダニエルは、自分の状態を見せつけられ驚愕して床にへたり込んでいる。

「エレン。さらに言っておくとこの部屋にいる者には魅了の魔眼は効かんぞ。事前に妨害の魔法陣を仕込んでる。新たに魔眼の餌食になる者はいない」

「クククク・・・ハハハハ・・・どうも詰めが甘かった様ですね」

「エレン」

ダニエルはすがるような目でエレンを見上げる。

「丁度いい手駒だったんですけどね。使えないわね」

そんなエレンとダニエルを厳しい目で見つめる人々の中から皇帝フレッドが厳しい声をあげる。

「エレン。貴様の目的はなんだ」

「陛下。今更意味がないでしょう。それにそろそろですか」

「そろそろ?」

部屋の壁が突如爆発して魔物たちが入り込んでくる。

巨大なトロールが3体、シャドウウルフが10体以上部屋に入り込んでくる。

「謁見の間に入った瞬間から妨害の魔法陣が発動している様でしたから、以前から仕込んでおいた魔法陣を使いました。周囲の魔力を吸い込み無限に魔物を召喚しますよ。城に設置されている魔法陣の魔力もありますし、この場所は魔力が豊富ですからどんな魔物が出てくるか楽しみですよ。ハハハハ・・・・・」

笑い声を残してエレンは消えた。

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