第92話 秘密はバレるもの
帝龍祭会場貴賓室の入り口には帝国近衛騎士団が警戒していた。
その横を陛下の執事長と共に通り、室内へと入っていく。
部屋を見渡すといくつかのソファーと落ち着いた調度品が置かれている。
神眼に映る部屋は、いくつもの防御魔法陣が用意されており、外部からの魔法攻撃・物理的攻撃を防ぐように作られている。
魔法陣はおそらくアリシア学園長が作ったものだろう。
魔法陣がオリジナルになれなるほど、作成者の個性が出てくる。
個性と言うかクセと言った方がいいかもしれない。
学園に設置されている各種魔法陣によく似ている。
にこやかな笑顔の陛下がソファーに座っており、その向かい側に高位の司祭らしい年老いた男性。柔和な笑顔をした品の良さそうな感じがする。
その隣に亜麻色の長い髪をした少女がいた。
肌は透き通るような白い肌をしている。
背の高さは自分よりも少し高いくらいだろうか、純白の聖職者の服を着ている。
レンが頭を下げ貴族式の礼を取ろうとする。
「ここは公式の場では無いから、普通にしてくれ。レン・ウィンダー侯爵のおかげで、大惨事にならずに済んだ」
「陛下。勝手に会場に乱入してしまい申し訳ございません。処罰はお受けいたします」
「いや、学生の大会であり、その中の参加者が暴走した行動を止めただけだ。処罰なんてありえんよ。それどころかオレガノの暴走をよく止めてくれた。ありがとう」
「寛大なる御心に感謝いたします」
「早速だが紹介しよう。こちらにおられるのは、ハロルド枢機卿と聖女のマリー様だ」
レンは、紹介されたハロルド枢機卿と聖女マリーの方を向いて頭を下げた。
「レン・ウィンダーと申します」
「ハロルドと申します。有名なレン・ウィンダー侯爵にお会いできて光栄です」
「マリーと言います。レン・ウィンダー侯爵様にお会いできて嬉しく思います」
「有名ですか」
「次々に新しい商品を生み出して、世の中に驚きを与えその商品がどれも素晴らしい。さらに魔法の腕前も他を圧倒するほど。これで有名で無い方がおかしいでしょう」
「恐縮です」
会話の間中、聖女マリーはジッとレンを見つめていた。
突如、立ち上がるとレンの方に数歩前に出る。
「あ・あの〜聖女様何か・・」
「使徒様、お会いできて光栄でございます。まさか慈母神アーテル様の使徒様がご降臨されているとは思いもせず申し訳ございませんでした」
聖女マリーはゆっくりと頭を下げた。
「ちょ・ちょっと待ってくだい。何かの間違いです。僕は使徒様ではありませんよ」
聖女マリーの発言に貴賓室内が凍りついたようになる。
皇帝フレッドの表情はひきつり、ハロルド枢機卿は驚愕の表情のまましばらく動きを止めていた。
「何かの間違いです」
「いいえ、私の天眼に映るレン様には、称号として慈母神アーテル様の使徒との記載がございます。天眼は鑑定の魔眼の上位であり、慈母神アーテル様により与えられているものです。いかなる隠蔽・欺瞞も無効にする力がございますから間違いございません」
レンはその言葉を聞き、はるか昔の記憶が蘇る。
聖女・教皇、教会の主なもの達には、天眼が与えられているもの達が複数いると慈母神アーテル様が言っていた。
教会の腐敗を防ぐため、傲慢・腐敗・汚職などに染まり始めたら天眼が消滅。他の聖職者にすぐにバレる仕組みになっていて、洗脳や精神魅了などから本人を守る働きもあるとも言っていた。
「い・・いや・間違い・・何かの間違い・」
「いいえ、間違いございません。さらに言わせていただければ、使徒様しかお持ちでないはずの神眼をお持ちになっていますね。それに、先ほどオレガノ相手に神聖魔法を使っていましたね」
神眼と神聖魔法と聞きレンの表情に焦りが浮かぶ。
「いや、あれは・・」
「神聖魔法は限られたもの達のみが使える魔法。教会に所属していなければ使えません。他にその神聖魔法を使えるのは使徒様しかございません」
聖女マリーはにっこりと微笑む。
それと同時にハロルド枢機卿も興奮した表情で駆け寄ってくる。
「お〜、間違いない。私の天眼にもマリー様の言われた通りに出ています。何と言う幸せ、私の代で使徒様にお目にかかれるとは思いもしませんでした」
「私の代?」
「あ・いえ、何でもありません」
レンは自分のことを天眼で見られたなら、神眼で見てもいいよなと考え神眼を発動。
ハロルド枢機卿を見るとどんでも無いことが書かれている。
「えっ、・・・教皇様ですか」
レンの神眼に、慈母神アーテルの僕・教皇と描かれてるのが見えた。
「あっ、神眼でご覧になられたのですね。偽っており申し訳ございません。私がこっそりと市井を回る時には枢機卿として街に出ております。教会内にいる時や公式行事には教皇としての役割を果たしております。教皇ハロルドと申します」
教皇ハロルドは優雅にゆっくりと頭を下げた。
「ハァ〜、お願いですから他で話さないでください。本当に困るんですよ」
「それは勿論。伝承では使徒様は自由を愛されると聞き及んでおります。何かを強要したりなどございません。できればで結構ですが、年に1〜2回位程度帝都にある教会本庁においでいただければと思います」
教皇ハロルド・聖女マリーは満面の笑みで返答を待っている。
「本当に何かを強要したり、私の名前を利用したり、私を使徒であると広めたりしないのであれば、顔を出すくらいならいいですけど。それ以上はお断りです」
「承知いたしました。お待ちしております」
「ハァ〜」
「ところでどうやら陛下はご存じだった様ですね」
教皇ハロルドが陛下の方を向く。
「・・父から聞いて知っていただけだ。そのことを話せば大騒動になる。だから黙っていた」
「前皇帝陛下はどこで知ったのでしょう」
「知らん。父に聞いてくれ」
「ホォ〜、ジェラルドの奴、儂に黙っているとは、ならば久しぶりにジェラルドとお話し合いが必要な様ですね。クククク・・・」
先程まで好好爺な雰囲気が一変。
とても恐ろしい気配を漂わせる教皇であった。
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