第82話 個人戦予選

Aブロック,Bブロックの個人戦予選が終わり,いよいよレンが個人戦の予選に登場してきた。

レンを含めた五十人が予選会場になるステージに上がる。

予選ステージ上はまさに一触即発の事態であり,剣呑な空気がみなぎっていた。

決着は一人になるまで続けられる。

ステージから落ちれば負けが確定。

殺しを行うような行為でなければ特にルールは無い。

しかし,皇帝陛下,各貴族,帝国市民が会場もしくは魔道モニター越しに観ているため,露骨なまでの卑怯な真似は軽蔑されることになり,その卑怯な行いを生涯言われ続けることになるため,極端な卑怯な真似は行われないと言われている。

レンは周辺の雰囲気からおそらく全員が自分を狙っていることを感じ取っていた。


予選進行役兼審判役が登場してきた。


「ガキども聞こえているか〜」


魔道マイクを握りしめた金髪マッチョの男が登場してきた。


「この俺様が個人戦の審判役を任されたS級冒険者ランディ・トラウトだ〜」


会場からは一斉に歓声が湧き上がる。

広大な帝国領内にいるわずか三人しかいない冒険者の頂点の一人。

魔の森・辺境・迷宮で残してきた伝説は数知れない。

歩く伝説とも言われている。

例年だとA級冒険者が数人審判役としてくるのだが,なぜかこのCブロック予選からS級の伝説の男が登場して来た。

彼とそのパーティーメンバーは帝都学園の卒業生でもある。

後ろにはランディのパーティーである‘’栄光‘’のメンバーの内二名がいた。

一人は銀色に輝く鎧を身にまとっている剣聖ヴィラン。

もう一人は黒いローブを纏い,赤い髪の魔法使い灼熱のドーラ。



「俺様の後ろにいるのは,俺様の仲間だ。白銀の鎧は剣聖ヴィラン。それとその隣のネクラ女は・・」

その瞬間,そのパーティーメンバーがランディの頭を杖でおもっきり叩いていた。

「誰がネクラ女だ。一度,貴様を燃やし尽くしてやりたいと考えていたところだ。ランディ,ちょうど新しい魔法を考えていたところだ。実験台になり消し炭になってみるか」


痛さでうずくまっていたランディが立ち上がる。


「デリケートな俺様がバカになったらどうするんだ」

「既に手遅れだろう。これ以上馬鹿になりようが無い」

「なんだと!」


二人の周囲に膨大な魔力が湧き上がっていく。

その強大な魔力は周囲の者たちを威圧して,皆地面や床にうずくまってしまう。

この場で立っているのは,栄光の三人とアリシア学園長,担任のルミナス,そしてレン・ウィンダーのみであった。

そこにアリシア学園長が水魔法を放とうとした瞬間,剣聖ヴィランが二人をぶん殴った。


「頭を冷やせ」

「「何をする」」

「アリシア殿の攻撃を受けたいのか,それと周囲をよく見ろ」


ランディとドーラは周囲を見渡すと,巨大なウォーターボールを放とうとしているアリシアが目に入り,さらに人々が倒れているのが目に入った。


「あっ・ハハハハ・・やり過ぎたかな」

「あれ?彼だけは平気な顔で立っているじゃん」


ドーラが指さしたのは個人戦の会場であり,そこにはレン・ウィンダーだけが平気な顔で立っていて,他のCブロック予選参加者49名は全員倒れていた。


「ほお〜俺たちの魔力と闘気を受けて平気でいられるとは面白い」


何事なかったかのように会場を見るランディとドーラ。

そんなランディとドーラの背後からはアリシアの強烈な殺気が伝わってくる。

背後を見ないようにしているランディとドーラの顔が心なしか強張っている。

ランディがチラッと背後を見るとアリシアが巨大なアイスランスを用意しているのが見えた。


「ランディ」

「は・はい」

「ドーラ」

「は・はい」

「何か言うことは!それともこのまま串刺しになるか」


二人は素早く土下座をする。


「「師匠,すいませんでした」」

「帝龍祭だぞ!もう一度寝ぼけたことをしてみろ。許さんぞ」


二人にとって一番苦手な相手がアリシア学園長であり,在学中から魔法を中心とした戦いを指南されて来ていて,師匠とも言える存在であった。


「「すいませんでした」」

「動けない者たちが多い。1時間ほど休憩を挟んでから再開とする」

アリシア学園長の指示で1時間後に再開と決まった。


1時間後,Cブロック参加者の体調が戻った段階で再開された。

「諸君。すまなかった。ランディの一生の不覚である」

その時,アリシア学園長の呟きを魔導マイクが拾った。

『これで何回目の一生の不覚やら』

「ゴホッゴホッ・・え〜と・・これからCブロック予選を行う。勝ち抜けて本線に行けるは一名だ。殺しは厳禁。危なければこの俺様が介入するぞ。介入した時点で失格になる。これはあくまでも競技だ。堂々と戦え」


Cブロック参加者が集う競技場に緊張感が漂う。

「始め!」

ランディの掛け声でCブロック参加者は,レンを目掛けて殺到を始めた。


「くたばれや!」

「ハーレム野郎め」

「喰らえ!」


レンは焦ることもなく,新人王戦と同じ要領で氷壁のドームで自分の周囲を囲む。

そしてそこから放射状に水魔法ツナミを発動させてる。

高さ10mの水の壁が次々にCブロック参加者を場外に押し流していく。


「クソッ〜」

「ちくしょう」


Cブロック参加者の絶望にも似た声が響き,気がつけばそこにはレン・ウィンダーだけが立っていた。

「Cブロック予選突破が決まったぞ!話題の学生侯爵であり,氷結の魔王ことレン・ウィンダーがCブロック予選突破だ。おめでとう」

この時点でレン・ウィンダーの予選突破が決まったと同時に,嬉しくもない二つ名で呼ばれていた。


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