第81話 ドナドナ
新人王戦一回戦前4試合が終わった翌日,会場では個人戦の予選が行われる。
四百人近い参加者がいるため,五十人づつ8ブロックに分けられ,それぞれのブロックで一人の勝者が決まるまで戦うことになる。
レンはシャーロットとカレンに連れられて会場貴賓席に向かっていた。
貴賓室には皇帝陛下はいないが,出場する貴族関係者は来ている。
連れ立って歩くというよりは,左右をガッチリと掴まれ,逃げられないように連行されているかのようにも見える。
そんなレンの姿は,黒を基調とした貴族が着る略礼服姿。
シャーロットは淡いピンクのドレス姿。
カレンは,濃いめの青のドレス姿であった。
そもそもレンは個人戦に参加はしないため,今日は来るつもりは無く屋敷でダラダラとしてのんびり過ごすつもりであった。
朝になり,突然二人がやってきて問答無用で会場に連れて来られて,現在会場にいる。
ローとサラもお供として付いてきていた。
「流石はレン様,両手に花でございます。周辺の者達が皆羨望の眼差しで見ています。臣下として嬉しい限りでございます」
ローは嬉しそうにしている。
しかし,レンは周辺を見渡すと帝龍祭参加者からの殺気を孕んだ視線が感じられた。
帝龍祭個人戦参加者の目からは,殺気・殺気・殺気のオンパレード。
視線で射殺さんばかりの憎しみが強く感じとれるほどだ。
『両手に花だと・・』
『あいつばかりなぜだ・・』
『あいつを潰す・・』
『このハーレム野郎め・・』
『あいつがハーレム野郎の二つ名を持つ男か・・』
『羨まし・・いや,けしからん奴だ』
聴覚強化を使うと碌でも無い呟きが聞こえてくる。
その中にはとんでもない二つ名まで含まれていた。
彼らの眼差しは,どこをどう見ても羨望の眼差しでは無い。
「ロー。僕に向けられる眼差しは,どこをどう見ても羨望の眼差しでは無いように思えるけど,それどころかあれは殺気だよね。どこを向いても殺気だらけだよ」
「一角の武人であれば,殺気も羨望の眼差しと同じようなものではありませんか。腕が立つ武人であればあるほど目標とされ戦いを挑まれるものです。それこそ強者の証。まさに帝龍祭個人戦の頂点に立たんとするレン様であれば当然のことかと」
「個人戦の頂点?僕は個人戦には参加しないよ」
「いえ,すでに申し込みをされておりますよ」
ローはCブロックの参加者名簿を差し出してきた。
慌ててローが手渡してきたCブロックの参加者名簿に名を通していく。
Cブロック参加者名簿の最初にレン・ウィンダーの名前があった。
「申し込みしていないのになんで名前が載っているの・・まさかローが」
「いいえ,個人戦の申し込みは基本的に本人,代理での申し込みの場合は肉親のみしかできません。先々週ルナ様がレン様が申し込みを忘れているみたいだからと申されまして,代理で申し込みをされたそうです」
「エッ!お婆さまが申し込みをしたの」
「はい,そのように聞いております。個人戦でのレン様の活躍を楽しみにしておられるはず。おそらくもうしばらくしたら会場貴賓室にお見えになるかと思います」
「まさか!」
レンの左右の腕をガッチリと掴んで離さないシャーロットとカレンを交互に見る。
「ごめんね。レン。ルナお婆さまからレンを迎えに行ってほしいと頼まれたの」
「シャーロット様と同じくルナ様から頼まれた」
そんなレンのところによく知った二人が近づいてきた。
祖父母のハワードとルナであった。
「今日という日は,我が愛すべき孫であるレンの覇道が始まる記念すべき日だ。レンの活躍を楽しみにしているぞ」
「フフフフ・・・個人戦の申し込みを忘れていたようでしたから,私が代わりに申し込みしておきましたよ。頑張ってねレン」
レン最大の弱点である祖父母の悪巧み,そこに二人の婚約者も加担。
もはや何も言えず従うしかない状況である。
「ハハハハ・・頑張ります・・」
顔を引き攣らせ返事をするレン。
「そういえば,多くの人がレンのことを‘’水の魔王‘’と呼ぶのよ。失礼よね」
祖母ルナの思いもよらぬ言葉で,世間で余計な二つ名が広がりつつあることを知る。
「そんな二つ名が広がっているのですか」
「そうなのよ。本当失礼よね。私が氷結の魔女なんだから,せめて‘’氷結の魔王‘’と呼ぶべきよね」
「えっ・・それは・・」
「少なとも氷の魔王よね。そう思わないレン」
無邪気な微笑みでレンを見つめる祖母のルナ。
「二つ名はいらないかと」
「重要よ。二つ名は絶対必要よ。わかりました。私が氷結の魔王の二つ名を広めてあげます」
「いえ,お婆さま。そこまでしなくとも」
「私に任せておきなさい。レンの希望通りに氷結の魔王と呼ばれるようにして見せます」
「いや,希望してないのですが・・ですからそこまでしなくとも」
「任せなさい」
もはやどうにもできずに祖父ハワードを見ると,諦めろと言わんばかりに首を横に振る。
帝都の魔王と呼ばれるハワードの姿を見ただけで,帝都の闇の組織の者たちが裸足で逃げ出すほどの力を示す存在であっても,氷結の魔女には何も言えない帝都の魔王であった。
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