第72話 騙される
競技場では同級生だけでなく他のクラスや上級生達までも集まって来た。
帝都で話題のレン・ウィンダー侯爵の戦いを一目見ようと多くの人だかりができている。
そんな中、悠然と赤いロングヘアーをなびかせてカレン・ユーラシオンが登場。
レン・ウィンダーの待つ競技場中央に進んでくる。
堂々と進むその姿はまさしく戦乙女。
凛々しくも美しいその姿は、男女問わず虜になることは確実。
帝国西部を守るユーラシオン辺境伯の長女であり、文武両道との呼び声の高い才女である。
立ち会う審判役として学園教師二名、生徒会役員一名、冒険者ギルド職員二名もすでに来ている。
学園教師は、入学式でレンと戦ったルーサー・マクレガー講師。一応次期公爵である。
もう一人が槍の名手と言われるモーリス・デオン講師。
生徒会役員は、ルーサー講師の妹で冷血なる貴公子と呼ばれるシャーリー・マクレガー。
冒険者ギルド職員は、帝都ギルドの受付にいるお姉さんがいた。確かミオンさん。
あのお姉さん。済ました笑顔でかなりの猛者である。
揉める冒険者を一喝して抑え込むだけの力量があるから当然か。
問題はもう一人だ。
何くわぬ顔で冒険者ギルド総本部長のおっさんがいた。
そんなに暇なのかと突っ込みそうになったが面倒臭いのでやめておく。
何か言って欲しいのかチラチラこちらを見るが無視である。
きっと冒険者ギルド総本部長の肩書きで呼んで欲しいのだろうがあえて無視しておく。
自分の中の緊張感が完全に台無しである。
深呼吸してもう一度、意識を高め緊張感を高めていく。
帝龍祭参加希望1年生の序列一位は自分レン・ウィンダー。
序列二位がカレン・ユーラシオンである。
二人揃って無言のまま審判役の前に立つ。
使う木剣は、すでに学園が用意してある木剣の中から自分の使う木剣を選び携えていた。
レンは、スキル木で作り出せるが人前でスキル木を使いたくないため、学園の用意した木剣を使うことにしていた。
試合は、魔法・武術のどちらも使って構わない。
魔道具などを隠し持っていないかチェックが入る。
審判役に鑑定の魔眼持ちが二名おり、その二人が魔眼で調べていた。
「魔道具を隠し持っている痕跡はありません」
「同じく魔道具は認められません」
ルーサー講師が前に出た。
「これより、帝龍祭参加者1年序列一位レン・ウィンダーと1年序列二位カレン・ユーラシオンの試合を行う。危険であると判断したら試合途中であっても試合を中止させる。双方正々堂々と己の全てを尽くして戦う事を誓うか」
「「誓います」」
「両者中央に」
レンとカレンが木剣を構える。
「試合 初め!」
ルーサー講師の声で試合が開始された。
お互いに木剣を構え様子を見ている。
ユーラシオン辺境伯家の剣術はかなり激しい攻撃力と聞いているがどの程度なのか。
先に仕掛けたのはやはりカレン・ユーラシオン。
身体強化魔法を使い一気に距離を詰めて木剣をレンの頭上に振り下ろしてきた。
ここまで早く動けるとは思っていなかったため一瞬の隙を突かれた格好だが、どうにか木剣で防ぐことができた。
「クッ・早いじゃないか」
「それはどうも」
カレンの笑顔と裏腹に木剣にのしかかって来る力・いや、重さが急激に重くなってくる。
まずいと判断して木剣を強く振り払い大きく距離を取る。
斬撃を受け止めた瞬間から、カレンの木剣からのしかかる重さが急激に増加した。
あのままなら木剣ごとへし折られ腕がやられていたかもしれん。
「レン。考える時間なんてやらんよ」
すぐにカレンが距離を詰めてくる。
まともに撃ち合うのは危険だと判断して、剣聖スキルの力でカレンの剣を受け流しながら1ヶ所に止まらずに動いていく。
「どうしたどうした。反撃してこないのかい。このままあっさりと一位を明け渡してくれるのかな。それなら大助かりだけど」
「それはないでしょ。やられたままではいられないから、やり返さないとね」
「おお、怖。レディにいう言葉じゃないわ」
「これだけ恐ろしい力を振るうレディはいないと思うけど・・」
レンは周囲の温度が高くなっていることに気がつく。
「いつの間にか気温が暑い」
試験会場の地面から陽炎が立ち上り、景色が揺らめいて見える。
同時にカレンの方から巨大な魔力の高まりが発生している。
カレンの赤い髪が炎を纏っているのかのように錯覚してしまうほどの濃密な魔力をカレンが纏っている。
その濃密な魔力がこちらに向かって放たれようとしている。
「いかん」
「もう遅い!フレアバースト」
大小幾つもの炎の渦がレンに襲いかかり激しい爆発が起こる。
「やりすぎたかしら・・」
カレンはレンであれば大丈夫であろうと火魔法を思いっきり打ち込んでいた。
普通の相手なら黒焦げになる威力。
爆発が収まるとそこには、氷のドームが立っていた。
その周辺の地面は大きくえぐれて吹き飛んでいるが、氷のドームは傷一つ無かった。
「氷のドーム?」
氷のドームが消えるとそこには無傷のレンがいた。
「いや〜危なかった。咄嗟の氷壁が間に合ってよかった」
「氷壁如きであの魔法が防げるはずない。どうやって」
「温度を下げるには分子の運動を止めればいいのです。この氷壁には触れたものの分子運動を瞬間に止める力がありますから触れた瞬間全てのものは凍りつく。魔法であれば、その素である魔素も凍りつきその力を保てず霧散していきます」
「分子運動???」
「簡単に言って仕舞えば、このぐらいの火魔法では僕の作り出す特別の氷壁は破れないということです」
カレンは負けを認められないため、身体魔法で強化して再び斬りかかる。
しかし、魔力を消耗しており動きが鈍くなっていた。
レンが振るう木剣の一振りでカレンは打ち払われ倒れた。
カレンの頬が大きく傷を負い血が流れる。
「強すぎる。どうすればそんなに強くなれる」
「努力です」
「ハァ〜降参。うちの負けや」
ルーサー・マクレガー講師が宣言する。
「この試合、レン・ウィンダーの勝利とする。そのため順位の変動は無しである」
シャリー・マクレガー生徒会役員が前に出てきた。
「カレンさん。怪我を治しましょう」
「このぐらいの怪我大したことない」
「いえ、お顔の怪我です」
「えっ・顔」
カレンの顔に大きな傷ができていて多量の血が流れ出ていた。
シャリーさんが手鏡をカレンに渡す。
「えぇぇぇ〜」
カレンはレンの方を向いた。
「レン。乙女の顔に何してくれてんの」
「こ・これは試合の結果ですし、傷は浅いので回復魔法で綺麗に消えるはずです・・・」
「レンに傷物にされてしまった。もう嫁には行けん。責任をとってもらわんと」
「傷物・・責任??」
「シャーロット様が第一夫人。なら第二夫人で手を打とうか」
レンは思わずルーサー講師を見る。
「すまん。男女の仲は不介入だ」
「これは試合ですよね」
シャーリー生徒会役員の方を向く。
「女性の顔にあんな大きな傷をつけたのだ。責任は持つべきだろう」
ほくそ笑むカレンの顔を見て悟った。
仕組まれたのだと。
「やられた〜」
レンの叫びが試合会場にこだました。
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