第73話 裁かれる

レンに戦いを挑んだものはカレン以外におらず、そのまま帝龍祭校内予選が終了した。

そして、1年Sクラスの教室で、シャーロットからはかなり文句を言われることとなった。

それはまさしく弁護人無しの公開裁判のようである。

裁判長兼検事のシャーロット第一皇女。

被告人 レン・ウィンダー。

弁護人 無し。

参考人 カレン・ユーラシアン。

傍聴人 1年Sクラス生徒。


「被告人レン。あれが不可抗力と言うのですか」

「これは、裁判なのですか」

「既に判決は決まっています。レン・ウィンダーは有罪。今これから行うことは、大切な事柄をはっきりさせるためです」

教室の中央に一人座り、正面にシャーロット。

教室の左右にカレン、ロー、サラが控える。

他の1年Sクラスの生徒は、教室の後ろに控えている。

「有罪だなんて、あれは不可抗力で・・」

「乙女の顔を傷つけずに制圧できる力がありながらそうしなかった。ここのどこに不可抗力があるのですか」

「カレンはかなりの強者。手を抜く訳にはいかなかったもので」

「剣術Lv7のルーサー講師と互角以上に戦える剣術の腕があり、魔法で防御されている校舎を破壊できる魔法を操る。カレンの剣術Lvはいくつだったかしら」

「シャーロット様、私の剣術はLv3です」

「なるほど、剣術Lv7とLv3。圧倒的な差ですよね」


背中に冷たい汗が流れる。


「レンに申し渡します。これ以上、婚約者・妾を増やすことは禁止です。違反したら・・・」

「違反したら・・・」


シャーロットはそこから先は何も言わず微笑むだけである。

その笑顔が逆に怖くなってくる。


「今回はカレンだけで済みましたが、もう少ししっかりしないと婚約者が大量に増えていきますよ」

「そう言われても・・・」


シャーロットの強い物言いに少し焦るレン。


「その言い方と態度で既にダメです。自覚が無さすぎます」

「エッ・そう言われても」

「試合のルールや事前の取り決めにも無いから、そのような申し出は受けられないと突っぱねるだけでよかったはずですよ。周りが悪ノリで加担した部分もありますけど、レンがあたふたしているからつけ込まれるのです」

シャーロットの厳しい視線と言葉に冷や汗が止まらない。

「気をつけます・・」

「毅然とした態度が取れないと本当に大変なことになりますよ」

「はい・・」

「ウィンダー領は活況を呈していて狙われているという自覚をもう少し持ってください。盗賊や魔物だけでなく、貴族たちは搦手で攻めてきますよ。今回の件でレンの弱い部分が見えましたから同じ失敗をしないようにしてください。この先他の貴族たちは、女性を使ってレンを攻めてきますよ。硬軟織り交ぜてね」

「はい」


シャーロットは、カレンの方を向く。


「カレン。今回のことは目を瞑りましょう。あなたもレンを支える一人として自覚を持って、これ以上虫が湧いてこないようにしてください。レンは魔法や武術、領地運営に圧倒的な力を発揮しますが、女性には弱いようです。その部分は、私たちがカバーしなくてはいけませんよ。レンのお供の役割をしているローとサラもよく自覚してください。二人はしっかりとレンを監視しなさい」

「承知いたしました。シャーロット様とレン様をしっかり支えさせていただきます」


カレンからいつもの軽いノリの口調が消え、貴族らしい口調でシャーロットに答えていた。


「シャーロット様からの指示は、すぐさま学園内にいる家臣団子息たちに通知いたします」


ローはすぐに反応して答えている。

なぜか、ローとサラはシャーロットの指示に従っている姿を見てレンは慌てた。

僕の指示よりもシャーロットの指示なのか。


「ちょっと待て、ロー、サラ、監視するとは一体どういうこと。君たちは僕の家臣団では無いのか。僕の指示が優先でしょ」

「レン様がシャーロット様に抗えるなら別ですが、今の状況でそれは悪手かと、未来の奥方との関係は良好にしておかれることをお勧めします」

錯覚なのか、シャーロットの背後に炎が揺らめいているの見える。


「・・・確かに・・無理だね」

レンに対してローが小声で呟く。

「レン様、シャーロット様のご機嫌をうまく取っておかないといけませんよ。これ以上は危険です」

「分かったよ。後で知恵を貸してくれ」

「承知しました」

レンとローが小声で話しているとシャーロットとカレンが何やら話し込んでいる。

『虫は・・殲滅・・・』

『厳重に・・・』

『陛下にも・・・』

『・・監視・・・魔道具・・・』

レンの耳に何やら物騒な言葉が途切れ途切れに聞こえてくる。

当分の間、ウィンダー領特産品のお菓子やフルーツでご機嫌を取るしかないと密かに覚悟するレンであった。


クラスメイトからのひそひそ声が聞こえてくる。

『もう尻に敷かれてるよ』

『私たちもカレンのように戦いを挑めば良かったかしら』

『殺気を当てられてそのまま終わるから無理だよ』

『第一皇女様と辺境伯家長女で両手に花だ。羨ましい』

『俺なら胃が痛くなりそうだよ』


シャーロットがこちらを向いた。

「レン。可能な限り私とカレンのどちらかが同行いたします。不可能な場合は、必ず複数の家臣と同行する。絶対に単独では動かないこと。いいですね」

「全てとはいかないかと」

「はぁ?よく聞こえませんね。もう一度聞かせてください」

「いえ、なんでもありません」

「陛下にも報告をしておきますから」

シャーロットの言葉にガックリと首を項垂れるレンであった。


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