第70話 帝龍祭の季節
チョコレートブームが巻き起こり、連日多くの人々が商人ギルドの直営店に押しかけ大盛況が続いている。
供給量を増やしているが即完売が続いていた。
そんなチョコレートブームに沸く帝都に帝龍祭開催の季節が近づいて来ていた。
年に一度開催され、帝国内での学生達による最強を競うお祭りである。
帝国内の各地にある学園8校による競技会でもあるため、どこが帝国最強かを競う大会でもある。
全学年を含めて武術と魔法をおり混ぜながら戦うことになる。
種目は個人で戦う個人戦と団体戦。
ただし、団体戦に関しては,全学年混成の団体戦の他に,1年生だけで構成する団体新人王戦がある。
帝都学園は全学年混成の団体戦を10年間一位の座を守り続けていた。
帝都学園でも出場選手の選考会の開催が近づいてきていた。
ここにきてレンは非常に悩ましい問題に直面していた。
「出ても問題ないですよ。この際、レンの使徒としての力を世界に見せつけましょう」
ルミナスはソファーに座り、ゴールドマスカットのフレッシュジュースを飲みながら力説していた。
ここは、レンの時空魔法ルームで異空間に作られた部屋。
ここにエルフの国で使われていなかった小さめの屋敷を移設して使っていた。
ルームの出入り口はレンの決めた場所であれば自由に設置できる。
現在設置してあるのは、帝都の屋敷とウィンダー領の屋敷、精霊の森、そしてルミナスの部屋である。
ルミナスの部屋には設置するつもりはなかったが、あまりのしつこさに根負けして設置していた。
その代わり、第三者が入れないように制限を設けてある。
「出たらそれはそれで問題ありでしょう。ルミナスは僕の魔法レベルは知っているよね」
「強者の余裕というやつで、手加減してあげればいいでしょう」
「そんなことしてたら手を抜いているように映るでしょ。相手の怒りを買うし、それで負けたら味方の怒りを買いますよ」
「ウ〜ン。人間は面倒ですね。素直に力を見せつけてやればいいのに」
「見せつけたら、それはそれでいらぬ嫉妬を買うことになるんだよ」
「人間というか、貴族社会は面倒くさいに尽きますね」
「それは否定しないよ。僕もそう思うからね。だから出来るだけ目立ちたくないのさ」
「でも、入学試験での剣術・魔法の実技で力がバレているから今更じゃないのかな。それに,あれだけ色々な特産品を売り出せば,いやでも目立つでしょ。ウィンダー侯爵を知らない人はいませんよ。チョコレートがさらに追い打ちをかけてます」
「それは・・・」
レンは、学園の入学試験で剣術でつい剣聖スキルを使って戦ってしまい、魔法の試験では魔法で防御されていた壁を破壊したことを思い出していた。
「出なかったらみんなが納得しないと思いますよ」
「僕は平穏に気楽に過ごしたいんだよ」
「う〜ん。あっ・いいことを思い出しました」
ルミナスの言葉に少し胡散臭そうな表情をするレン。
「何を」
「魔力の出力を多少制限する指輪があります。これを着けておけば使える魔法が少しは制限できますから使えばどうです」
「ルミナス先生。魔道具は禁止ですよ。着けているだけで失格です。判定員は三人います。全員から厳しいチェックを受けますからごまかせませんよ」
「ハハハ・・そうでした・・」
「隠蔽魔法を使っても,隠蔽魔法使っていることが分かった時点でアウトでしょう。そんなリスクは帝国の威信に傷をつけることになりますからまず無理です」
「もう諦めるしかありません。素直に出場ですね。みんなが納得しませんよ」
「ハァ〜分かりましたよ。出ますよ」
ため息をつきながら渋々出ることにするレンであった。
翌日,学園に登校してくると,さっそく帝龍祭のメンバーに関しての話になっていた。
「おはようレン。帝龍祭開催のこと聞いたかしら」
シャーロットがさっそく帝龍祭の話題を振ってきた。
「聞いているよ」
「当然,出るよね」
「ハハハ・・出るしか無いでしょうね・・」
「あなたが出なくて誰が出るのです。当然でしょ。お父様も楽しみにしていますから」
「陛下もですか」
「毎年,楽しみにしているのですよ。今年はレンがいますから,レンの闘いを楽しみにしているそうですよ」
シャーロットから純粋に出場を喜ぶ顔を見せられたら,もはや逃げることはできないと観念するレンであった。
そこに担任のルミナス先生が入ってきた。
全員が席に着くと帝龍祭のメンバーに関してであった。
「帝龍祭に向けて,メンバーを決めなくてはなりません。出場にあたっては校内予備戦が行われます。予備戦は個人戦のみ行われ,個人戦上位の者達で個人戦と団体戦に参加となります。1年生の団体戦は,各校の1年生同士で戦う新人王戦ですから個人戦よりはハードルは低いでしょう」
「ルミナス先生。いつからこうな予備選は行われるのですか」
シャーロットの質問にルミナス先生はニッコリと微笑む。
「明日からです」
「「「「エッ〜,早すぎませんか」」」」
「そうよね。その反応は当然よね。実は学園長がすっかり忘れていたのよ。ごめんなさいね」
「忘れていたのですか」
「ワインやチョコレートなど新作のお菓子などに夢中ですっかり忘れていたそうなの」
クラスメイトの目が一斉にレンに向く。
「エッ・・僕の責任?」
「美味しすぎるのも罪ですわ」
「シャーロット・・」
「全てを忘れて夢中にさせる。ほんまに罪作りな男やで」
カレンが赤いロングヘアーをかき上げならレンの方を見る。
「いやいや,カレン。世間を誤解させるようなこと言わないで」
そんなレンの叫びを無視するかのようにクラスメイトの呟きが聞こえてくる。
「恐ろしいな」
「全てを虜にするだと」
「うらやま・・」
「勝てんのか・・全てを持っているだと」
「罪作りな男だと・・言われてみたい」
波乱の校内予選が目の前に迫っていた。
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