第69話 盗賊団ホイホイ

レンの新たなる眷属であるゴールデンスライムのキンちゃんは、レンの屋敷の中ですっかり馴染んでいた。

「これがゴールデンスライムなのね。とても珍しいものを手に入れたわね」

食堂のテーブルでは、フェニックスのラーとゴールデンスライムのキンちゃんが仲良くメメロンを食べていた。

レンの祖母であるルナは、その様子を楽しそうに見ている。

「はい、お婆さま。とても運が良かったです」

「ウィンダー家以外の者達の目に触れないように気を付けなさいよ。欲に目が眩んだ者達が狙ってきますからね」

「ルミナス先生やアリシア学園長からもそのことを注意されました」

「この屋敷の中であれば、忍び込むことは不可能でしょうから安心ですけどね」

元々恐ろしく強固な備えをしている帝都の屋敷であるが、ウィンダー領での盗賊達襲撃を受けてより一層強化されていた。

多くの魔法陣・警備の魔道具が追加で設置されたそうだ。

すでにこの屋敷の備えを破るには、戦争を起こすだけの軍勢と武器が必要なほどになっている。

魔法陣と魔道具を喜び勇んで嬉々として設置していく祖父母を見ていたレンは、祖父母は何と戦うつもりなのか不安になるほどであった。

帝都の魔王と氷結の魔女と呼ばれる二人が、嬉々として魔法陣という名の罠を設置する様子は、実にシュールである。

ウィンダー領では、グーフィー盗賊団の襲撃の後、いくつもの盗賊団が罠にハマり、捉えられていた。

長いこと捕縛できなかった盗賊団が、ウィンダー領の果樹園やワインを狙ってきて、その盗賊団の全てがことごとく罠にハマり捉えられていた。

ウィンダー領の果樹園とワイン蔵は、さながら盗賊団ホイホイである。

それは、ウィンダー家の騎士団の有能さを知らしめるだけでなく、多くの盗賊団が危険を覚悟してまで狙うだけの価値があることになり、それがより一層ウィンダー領での特産品の価値を高めることになっていた。

テーブルの上ではラーとキンちゃんが黙々とメメロンを食べている。

すでに体の体積の倍以上食べている。

一体どこに入るのか不思議なほどだ。

『ラーもキンちゃんもそんなに食べて大丈夫なの』

『大丈夫さ。メメロンは別腹』

『そうそう』

『べ・別腹なの・・』

『『ウン!』』

食べっぷりを見ていたレンは、メメロンの作付けを増やすことを考え始めるのであった。


深夜になり、暗闇中から帝都ウィンダー侯爵家の屋敷を見つめる男達がいた。

「やはり、ウィンダー領の警備に騎士団の大半を割いているために、帝都の屋敷の警備は手薄のようだな」

「ワインはとんでもねえ高値で取引されてますから、たっぷりと金貨を溜め込んでるに違いねえですよ」

「おい、鑑定の魔眼で調べろ」

盗賊団の一人が目に魔力を集めると、目が怪しい光を放ち始める。

「正面にはかなりの数の罠があるが、右奥の方は罠が少ししかない。そこからなら屋敷の中に楽に入れる」

「良し。そこから入るぞ。ルートを指示しろ」

「分かりました。任せてください」

盗賊団は罠が少ない場所を狙って屋敷の敷地へと入っていく。

そこはハワードとルナがわざと罠を少ししか設置していない場所である。

つまり、簡単に分かる罠が少ないだけなのだ。

そこは、ハワードとルナが特に嬉々として罠を仕掛けた場所である。

特別仕様の凶悪な罠がいくつも用意されていた。

「おい、このルートで大丈夫なのか」

「魔眼に映る罠を避けるとこのルートになります。このルートで間違いないはず」

「警戒が無さすぎる。いくら何でもおかしくないか。無警戒すぎる」

急に濃霧が出てきたと思ったらすぐに濃霧がおさまった。

「おい、目の前に屋敷がないぞ」

いつの間にか盗賊団の目の前からウィンダー侯爵家の屋敷が消えていた。

そして、盗賊団の目の前には荒涼とした墓地が広がっていた。

月の光が照らし出す墓地が何処までも果てしなく続いているのが見える。

そこに生暖かい風が吹き込んでくた。

「ここは何処だよ。帝都のウィンダー侯爵家の屋敷じゃないのかよ」

「やばいぞ、戻るぞ」

盗賊団が振り返ると後ろも荒涼たる墓地に変わっていた。

乗り越えて侵入してきたはずの屋敷の塀が消えて、こちらも地平線まで墓地で覆い尽くされている。

「ど・どうなってるんだ」

「周りが全て墓になっているぞ」

「ここはどこだ」

「おい、墓から何か出てくるぞ」

墓の土が盛り上がるとゾンビが次々に這い出てきた。

「ゾ・・ゾンビだ」

周りの墓という墓からゾンビが這い出してきた。

そして盗賊団の周辺をぐるりとゾンビが囲む。

その奥には首なしの鎧の魔物デュラハンがいた。

「デュラハンがいるぞ」

「そんなバカな。Aランクの魔物がどうしているだ」

「あんな魔物倒せる訳ないだろう」

「火だ。ゾンビには火魔法が有効だ。火魔法を使え!奴らを焼き尽くせ」

魔法を使える者達が火魔法を使い始める。

放たれる炎で次々に燃やされるゾンビ。

だか、そんなことは関係ないと言わんばかりに、ゾンビ達はゆっくりと包囲の輪を縮め迫ってくる。

「来るな。来るな〜」

どんどん火魔法を放つがやがて魔力が尽きて、火魔法が放てなくなる。

「寄るな寄るな寄るな〜」

半狂乱になり、ゾンビに切り掛かる。

しかし、すぐさまゾンビ達にしがみつかれ、ゾンビの海に飲み込まれていく。

少し離れたところでハワードがその様子を見ていた。

盗賊達のいる場所には、精神に強力に作用する幻覚魔法を放つ魔法陣が用意され、強力な隠蔽魔法で隠されていた。

幻覚魔法は、侵入した者達の魔力を強力に吸い上げて、侵入した者達にリアルな幻覚を見せるの魔法陣である。

盗賊達は幻覚の中でゾンビに襲われていたのであった。

盗賊達は魔法を放っているつもりでいたが、その魔力も全て魔法陣に吸い取られ、現実世界ではただ単に立ち尽くしているだけであった。

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