第65話 チョコレートブーム
レンは、ウィンダー領での仕事もひと段落して帝都に戻った。
1週間ぶりの学園である。
教室にはいつもの顔ぶれが揃っている。
「レン様、ウィンダー領での政務お疲れ様でした」
学園内でのレンの補佐的役割を持つロー・ウェルウッドが教室に入ってきたレンを出迎えた。
「なかなか有意義だったよ」
「盗賊団まで捕まえられたと聞きました」
「特産品であるワインを狙ってきた盗賊団だったが、青龍騎士団の働きで上手く捉える事ができてよかった」
「グーフィー盗賊団と聞きましたが、他の貴族の領地でかなり荒らしまわっていた様です」
「そうみたいだね。捕まえる事ができてよかったよ」
レンは、魔法陣の設置や精霊達の働きについては、どこで漏れるか分からないため学園内では話さないことにしていた。
既に、教室内のクラスメイトは興味津々で聞き耳を立てている。
こんなところで大事な事を話せばたちまち拡散してしまうことになる。
「かなりの人数と聞きましたが」
「20人ほどだから大した事はないよ。うちの青龍騎士団は盗賊如きにに負けるような事はないからね」
「ウィンダー領の特産品は大人気ですから、この先も狙われることになりますから大変ですよ」
「警備を大幅に強化してきたから大丈夫だろう。あの備えを突破するのはまず無理だ。戦争を起こすくらいのつもりで無いと突破出来ないよ。最もそんなことになったら激しい戦いでワインも破壊されてしまうから、そこまでして襲う意味はないだろう。痛い目に遭う奴らが晒者になり、そのうち狙う馬鹿はいなくなるだろうさ。それと特産品のワインの増産にも着手したから、ワインの品不足は多少は改善されると思うよ」
「ですが、2年待ちが半年待ちになる程度かと」
「そこは仕方ないよ。それでも待ち時間が大幅に短縮されることにはなる」
「そう言えば、父から新しい特産品が売り出されると聞きましたが」
「今日から帝都で売り出されることになる」
「父も私も実物を知らないのですがどの様なものなのですか」
「チョコレートと言う新しいお菓子さ」
新しいお菓子と言った瞬間、聞き耳をたてていた女性達の顔色が変わった。
シャーロットとカレンが真っ先に詰めよって来た。
「レン。新しいお菓子とは何ですか!そんな話は聞いて無いですよ。説明してください」
「そうや!新しいお菓子のことを説明して」
「えっ・・シャーロットは知らないの?陛下には献上しているからてっきり知っていると思ったんだけど」
「な・何ですって・・これは、帰ったら問い詰めねばなりませんね。私に黙っているなんてお父様といえども許せません」
「いや〜、陛下もお忙しいから伝え忘れたかもしれないじゃないか」
「いいえ、数日前にお父様とお母様の様子がおかしかったですから、おそらくその時に2人で全て食べてしまったに違いありません」
シャーロットはかなり怒っている。
食べ物の恨みは怖いからな。
シャーロットの様子から周囲で離れて様子を見ていたみんなの期待が高まりる。
そのみんなの視線が怖い。
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。ウィンダー領で新しく作られることになったお菓子は説明するよりも食べてみることが一番だよ。それじゃ、試食品を持って来たからみんなで・・」
「「「「「新しいお菓子の試食品!!!」」」」」
その言葉と同時に他の女子生徒も一斉にレンの下に駆け寄ってきた。
「えっ・・・!あ・あわてないでくれ。このクラスの人数分持って来たから順番に渡すからゆっくりと試食してくれ」
甘さを変えたもの。
果汁を少し加えたもの。
ミルクを多く加えたもの。
数種類を持って来ていた。
レンは、用意してある全ての種類を全員に配っていく。
受け取ったクラスメイト達は皆無言となり、黙々と食べていく。
やがてみんなの顔が幸せそうな表情になる。
「初めての味です。この美味しさは素晴らしい」
「この甘さと口溶けの滑らかさ」
「甘く芳醇な香り」
「甘さの中にあるかすかな苦味が素晴らしい」
「果汁との絶妙なバランスが最高」
クラスメイト達は幸せそうな表情で呟いている。
食べ切った後、みんなはレンの方を向いていた。
「流石にもう無いですよ。あとは帝都のお店で買ってください」
「「「「「どこで売ってるの」」」」」
「えっ・・え〜と・・今週は商人ギルドの直営店のみのはず」
「「「「「商人ギルド直営店ね」」」」」
クラスメイトの女性達の目が怖い。
獲物を狙う目になってるように見え、レンは少し恐怖を覚えるのであった。
ーーーーー
商人ギルド直営店は、割とのんびりしていた。
新商品売り出しの日であっても、いきなり混雑するほど売れることは今まで無いからであった。
受付には若い女性職員と年配の男性職員の二人がいた。
「今日からこのチョコレートとか言う新しいお菓子を先行販売することになった」
男性職員の言葉に女性職員が疑う様な眼差しで呟いた。
「主任。これは高すぎませんか、こんな板切れの菓子で安いもので銅貨1枚、高いもので銀貨1枚なんて。見た目は綺麗に包装されてますが、高すぎでしょう。たかがお菓子ですよ」
「そうか、そういえば君はまだ試食していなかったな。今までにない新しいお菓子だ。その味は絶品だ。1度食べたら病み付きになること間違いない」
「こんな板みたいなものがですか」
「ハワード前公爵とうちのギルド長が先ほど、このお菓子を陛下に献上され、陛下から大絶賛だったそうだぞ」
その言葉に思わず唾を飲み込む。
「私の試食は無いのですか」
「・・・・・すまん!俺が全部食べてしまった。一口食べたら止まらなくなり、全て食べてしまった」
「ひど〜い。信じられない」
女性職員が怒りの声をあげる。
「美味すぎるんだ。口にした瞬間から止まらなくなり、気がついたら無くなっていたんだ。すまん」
その時であった。
商人ギルドの入り口から貴族家の執事や使用人・メイドたちが大挙して雪崩れ込んできた。
「「「「「チョコレートを売ってくれ」」」」」
瞬く間に商人ギルド直営店の売り場は、チョコレートを求める人で溢れかえることになった。
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