第64話 商談

果樹園と倉庫・ワイン蔵の強化が終わったため、アリシア学園長とルミナス先生たちは、先に馬車で帝都に帰ることになった。

当然、お土産付きである。

二人には、予約殺到で手に入らないゴールドウィンダーワインそれぞれ20本。

スペシャル版のワインをそれぞれに2本。

おまけでチョコレートも渡すことにした。

二人は錬金術もできるため、ワインやチョコレートを自前の魔法袋に収納していく。

二人にしてもらったことは、この数倍の価値がありむしろお土産が安く思えるほどだ。

おかげで盗賊団も被害無しで捉える事ができ、他の盗賊団や野盗に対する牽制にもなった。


「私たちは先に戻りますから」

「ありがとうございました。お陰で助かりました」

「ハハハ・・何かあったらいつでも頼るが良い。喜んで手を貸すぞ」

「分かりました。その時はよろしくお願いします。アリシア学園長・ルミナス先生」


アリシアは、目的のワインを大量に手に入れる事ができて大満足の表情。

ルミナスはレンの手助けができて大満足の笑顔である。


「レンはどれぐらいで帝都に戻るのですか」

「僕はまだ、領主としての仕事が残っていますので、終わりしだい大精霊のウィンに送ってもらいますから、お二人とそれほど違わないと思いますよ」

「分かりました。くれぐれも、大精霊ウィンのによる転移は秘匿しなさいよ」

「分かっています」


ルミナスが大精霊との転移に関して忠告してくる。

レンは自力で転移魔法もすでに使える事ができ、空間魔法ルームを経由しての移動もできるが、情報漏れに備えて、念の為大精霊が手伝ってくれる時だけ転移できることにしてあった。

レンは、まだ領地で領主としての仕事が残っっているため、遅れて帝都に戻ることになる。

二人が馬車が護衛の騎士団を伴って出発すると、さっそく執務室に籠もることになった。

レンは、ウィンダー領内における政務の決裁に追われていた。

特産品の開発や領内での政策の実行に伴う書類が増えている。

定期的に処理をしているが、少しの間放っておけばあっという間に溜まっていく。

決済の承認のため、ウィンダー侯爵である自分の決裁が必要になる。

これだけは、お爺さまもお婆さまも手伝ってくれないというか、領主である以上は決済だけは自分ですると言ったからであった。

そのため、決裁に関しては相談があれば乗ってくれるだけだとなっている。

レンは、決済を始める前に呼吸を整え、心を沈めて頭脳強化魔法を発動。

頭脳強化魔法は、記憶力だけで無く、判断力・推理力・考察力などの能力を大幅に引き上げてくれるからであった。

頭脳強化魔法で引き上げられた頭脳の力をフルに働かせ、書類を読み解いて必要な質問をセバスに出して、その答えを聞いてから、決済するか、保留とするかを素早く決めていく。

山のように積まれていた書類がみるみるうちに減っていった。

普通ならば、3日はかかる山積みの書類が半日ほどで無くなってしまった。

総執事長であるセバスは、驚きのあまり立ち尽くしている。


「セバス。どうしたの」

「このセバス。今猛烈に感動しております。政務の書類を短時間にこれほどまでに完璧処理できるかたはレン様以外にはおりません。レン様のお父上は何と言いましょうか、とても・・・」


あのオーク親父。仕事もろくにしていないようだ。


「父はもはや別の家だ。放っておけばいい。気にしなくてもいいよ」

「はい、承知いたしました」


政務書類の処理が終わったため、お茶を飲んで一息つくことにする。

お茶と一緒にチョコレートが出てきた。

チョコレートを少し口に含む。

滑らかな舌触りと甘みが口の中に広がる。

頭脳魔法を使うと糖分が欲しくなるみたいだ。


「美味しいね」

「チョコレートは素晴らしいものですね。これは帝都で大人気となります」

「レン。政務の決裁は終わったかしら」

「お婆さま。いま終わって休んでいるところです」

「丁度今ほど商人ギルド長のモーガンが来たから一緒に会いましょう」

「はい、分かりました」


しばらくすると執務室に商人ギルド長のモーガンさんが入ってきた。


「レン様。お久しぶりでございます」

「モーガンさん。久しぶりだね。座ってください」


レンは、ソファーへ座るように促してからルナの座る隣に座る。


「この度は、何か新しい商品があると伺いましたがどのようなものでしょうか」


モーガンの前に白い皿に乗せられた茶色の10センチほどの板が出てきた。


「これは一体・・」

「これはチョコレートと言う新しいお菓子です。この状態であれば長期保存も効きます」

「これがお菓子ですか」


驚きながらも皿の上を見つめる。


「少し割って食べてみてください」


レンに勧められて、チョコレートを少し割り口に入れる。

口の中に入れるとチョコレートの香ばしさとコクのある風味、そして甘さが口一杯に広がる。


「これは、初めての味だ。この独特の風味と甘さ。一度食べればクセになる」


モーガンはチョコレートの残りをどんどん食べてしまい。

チョコレートが無くなってから、我にかえった。


「これは、凄い」

「気に入ったかいモーガン」

「凄いですよ姉御・・ルナ様」

「これを次の新しい特産品として売り出します。庶民向けと貴族や富裕層向けの商品と分けて作ることを考えています」

「庶民向けと富裕層向けですか」

「庶民向けは、高価な砂糖は少し控え、富裕層向けは砂糖・ミルク・果汁を混ぜたものなど作ろうと考えているのよ」

「価格的に庶民向けとしての高級品であれば板チョコ1枚で銅貨1〜2枚、富裕層むけの高級品なら銀貨1枚だと思いますが」

「そうね。下は銅貨1枚ぐらい、上は銀貨1枚と言ったところかしら」

「同じものが他にありませんから、その価格であればいけると思います」

「分かりました。商人ギルドに任せましょう。手数料は他の物と同じ20%とします」

「ありがとうございます。まずは帝都にて販売を始めて、生産量に応じて他の国への輸出も致しましょう」


この後、1ヶ月後に帝都でチョコレートブームが巻き起こり、帝都のお菓子職人たちの間で、チョコレートを利用したお菓子が作られるようになり、それがさらに話題となり、チョコレートが売れまくることになる。

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