第63話 備えあれば憂いなし

カカカオの木が100本出来上がり,果樹園外壁も出来上がった翌日。

空いているワイン蔵の一角を使いチョコレートの製造を開始。

ワイン蔵そのものはかなり大きく,余裕を持って複数作ってあるため,未使用で空いている1棟を丸ごと使うことにしたのだ。一緒だと香りが混じるからである。

お婆さまの指示で屋敷の使用人達が集まり,手早く役割を決めて制作に取り掛かる。

収穫済みで焦げ茶色の豆だけになっているカカカオの実が,いくつもの籠に入れられ用意されている。

すでに魔法で余計な水分は抜いてあり,すぐにでも使用可能だ。

石臼でカカカオの実がどんどん粉にされていく。

あたり一面に香ばしい香りが漂ってくる。

粉末になったカカカオの実を砂糖とミルクを加え,ゆっくりとかき混ぜながら加熱していく。

よく混ぜ合わせたら用意してある型に流し込み,氷魔法の弱い冷気で固めていく。

出来上がった板状のチョコレートを神眼で確認してみる。


チョコレート

品質:

 ・最高級品

効能・味

 ・独特の香ばしさにミルクの滑らかさ

 そして砂糖の甘さが加わり,他に真似

 の出来ない美味しさを作り上げている

 ・血流を改善して,冷え性の改善に効果

 が期待できる(弱)


チョコレートが出来上がった。


「レン。製造と販路は任せておきなさい」

「お婆さま。商業ギルドでしょうか」

「販路は商業ギルドに任せます。後でギルドマスターであるモーガンを呼びましょう」

「モーガンさんであれば大丈夫ですね」


これからの製造と販路に関しては,お婆さまに任せておけば大丈夫だろう。

レンはワイン蔵とチョコレート製造工場のセキュリティ強化に乗り出すことにした。


「ワインとチョコレートの製造工場と倉庫である蔵をどう守るかが重要です。カカカオの実は、盗み出しても同じ品質のものを育てることは出来ないだろうから、この先、狙われるとしたら完成品を保管しておくこちらになるでしょうね」


レンは、アリシアとルミナスに自分の考えを伝えた。


「盗みと嫌がらせの攻撃を防ぐことを目的にする以上は、建物の外壁と出入口の強化。出入りする者達に契約の魔法を課すことだ」


アリシアは、当然だと言わんばかりだ。


「製造に関わる者達は、当家の使用人ばかりでウィンダー侯爵にとって不利になる行為はしないように、魔法契約もしているから大丈夫ですよ」


レンは神眼で全ての使用人を見ているが、裏切る恐れのあるものはいなかったため、侯爵家の使用人は大丈夫だとアリシア達に伝えた。

使用人達が何らかの弱みを握られ、もしくは人質を取られるなどの可能性もあるため、定期的に重要な役職の者達から神眼で見るようにしている。

神眼の表記に異常があれば、早期に手を打てば最小限の被害で、その使用人と身内を助ける事ができると考えるからであった。


「そうであれば、建物の外壁と出入口の強化。ならばそんなに悩む必要はないだろう。ここは果樹園に併設されているから、すでに土地を囲む壁に囲われている。同じレベルで大丈夫だ。むしろこれ以上強化して一体何と戦うつもりなのだ」

「心配性ですから、やれる事があればやっておこうかと」

「ハァ〜、精霊達も協力してくれているから大丈夫だ。目に見える形でやりすぎると叩かれる原因にもなるぞ。お前さんの足を引っ張りたい奴らは山ほど居るだろうからな。嫌がらせ目的で完成品を蔵ごと完全に破壊してしまおうと考える輩も出るだろう」

「ですから目に見えない形での強化ですよ」

「隠蔽系魔法か・・まぁ・果樹園の壁ぐらいのレベルにはしておく。そもそも果樹園であそこまでの備えをしているのは、帝国の中でここぐらいだぞ。下手な城よりも圧倒的に強固だ」

「大切な特産品ですから、しっかりと守る事が必要ですよ。学園長も当家のワインが手に入らなくなったら困るでしょ」

「ウグッ・・それは確かにそうだが」

「よろしくお願いしますよ。アリシア学園長、ルミナス先生」

「ワインのためだ。任せておけ」

「レン君。任せてください」


アリシアとルミナスは果樹園を囲む壁と同じ魔法陣を設置していく。

耐久力強化と電撃魔法陣。

ルミナスが最新研究で作り上げたばかりの反射魔法陣を組み込んでいく。

壁を壊そうとする魔法と物理的破壊力をそのまま相手に反射する魔法陣である。

反射魔法陣を見ていたレンは、魔法陣設置の手際の良さに感心していた。


「魔法陣の設置が早いな。澱み無くどんどん設置していく。あの反射魔法陣は初めて見る。後で教えてもらおう」


アリシアとルミナスの魔法陣を設置する様子を見ながら、レンは果樹園の方に移動して行った。

以前に作った果物の木々のスキル効果が切れているので、再びスキルの効果をかけるためである。

メメロン、ゴールドマスカット、べリューと順番にスキル木の派生スキル‘’木と森と大地の恵み‘’を発動していく。

緑色の光を放つ魔法陣が次々に現れ、大地と木々を包み込んでいく。

その光に包まれた木々は、再び神々しいまでの輝きを取り戻し、多くの実を枝に実らせる。

スキル木の派生スキル‘’木と森と大地の恵み‘’の力を受けた木々は、木々の持つ存在感そのものがが違って見えている。

再び活力を取り戻した木々の周りを妖精達が嬉しそうに飛び回っていた。

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