第62話 驕れる弟子

翌朝,レンは朝食をとりながらお婆さま・ルミナス・アリシアに昨夜の出来事を話していた。


「昨夜,果樹園とワイン蔵を狙ってきたのは,20人ほどの盗賊団でグーフィー盗賊団と名乗っていました。帝都や他領でかなりの被害を出していた凶悪な連中でした。帝都から身柄の引き渡しを要望されたので,帝都で裁かれ鉱山送りでしょうね」

「ほほぅ・このアリシア様の作った壁に挑む愚か者がいたとは,馬鹿な連中だ」


アリシアが自慢げに偉そうにしているが,昨夜はただ酒ならぬただワインをしこたま飲み,寝込んでいて騒動に気が付かぬまま朝まで寝ていのだ。

ルミナスを含めた他のものは,異変と同時に気がついて,起きて万が一に備えていた。

ルミナスは,アリシアの言葉に多少呆れたような顔をしたが,何も言わずに放っておいた。

この後,しっかりとこき使うためである。


「壁に仕込まれた撃退用の魔法陣が働き,盗賊団が身動きできなくなっていたところを青龍騎士団が捕縛しました」

「流石は,アリシア学園長とルミナス様です。お陰で大きな被害を受けることなく済みました」


持ち上げる時はしっかりと持ち上げる。

流石はお婆さまである。


「ハハハ・・そうだろう。そうだろう。今日も任せておけ」


アリシアは,お婆さまの言葉にすっかり乗せられてご満悦。


『主,あのエルフ大丈夫なの。あれだけ大騒ぎしていたのに,昨夜は熟睡していたみたいだけど』


レンのテーブルの横では,セイントレッドバードの姿をしたフェニクスのラーが,念話でレンと話しながらメメロンの実を食べている。


『あれだけワインを飲めばそうなるよな』

『でも,魔法は得意みたいだからその分使ってやればいいんじゃないの』

『そのつもりだよ。人気のワインを報酬として渡すからその分働いて貰わないとね』

『主,流石に主の作り出したメメロンは美味しいよ。いくら食べても飽きない』

ラーはすっかりレンの作り出した果物が大好きになり,他のものは食べなくなっている。

『これからも色々作り出すつもりだから,ラーにもたくさん食べてもらうよ』

『やったね。味見は任せてよ』


フェニックスのラーは神鳥であり,特に食事は必要ないが,食べ物は嗜好品的な感じになるそうだ。

だが,レンの作りだす果物の美味しさに毎日食べるようになっていた。

「盗賊がやって来たなら,急いだほうがいいわね。この先,他の盗賊達も狙って来るでしょうから。特にワイン蔵の警備を固めた方が良いわね。壁が出来上がったら,取り掛かることにしましょう」

「ルミナス先生よろしくお願いします」

「レン君。任せておきなさい」


ルミナスはレンに頼られることが嬉しくて満面の笑みで応えるのであった。


ーーーーー


朝食が終わるとレンはさっそくカカカオの木を育成に取り掛かることにした。

カカカオの木を育てる予定の場所に到着すると,一定の間隔で豆を植えていく。

豆を植え終えるとスキルを発動させる。

スキル木の派生スキル‘’木と森と大地の恵み‘’を発動。

植えた場所を中心に緑色の魔法陣が広がる。

しばらくすると魔法陣の中心から小さな芽が出てきた。

木と森と大地の恵みの力を受けて芽は成長を始める。

小さな芽はみるみる成長を始めて,あっという間に高さ2mほどまで伸びる。

次に枝が伸び葉は生えてきて、枝に緑色の小さな実ができたと思ったら、その緑色の実がみるみる大きく成長。

成長しながら色が赤くなっていく。

やがて枝には長さ15㎝ほどの赤い実が10個,枝に実っている。

レンは,念のため神眼で一つ一つ状態を確認していく。


カカカオの実

品質:

 ・最高品質・完熟

効能・味

 ・赤い実の中に詰まっている豆を使う。

 ・苦味や渋味がわずかにある。

 ・乾燥させ粉末にして砂糖とミルク

 と合わせると絶品の味となる。

 その味は,香ばしく独特の旨みに砂糖の

 甘さが加わると,誰もが病みつきになる。

 ・血流を改善して,冷え性の改善に効果

 が期待できる(弱)


「良し。問題無い。どんどんいくぞ」


昨日のゴールドマスカットを増やすよりも,早い速度でカカカオの木を増やし始めていた。

瞬く間に,カカカオの木のためのスペースが埋まっていく。

昼までには100本のカカカオの木が出来上がり,レンも外壁作りに加わるのであった。


その頃,果樹園の外周部では,すでにアリシアが息も絶え絶えになっていた。


「師匠・少し・・・休憩・・休憩を・・」

「何を寝ぼけたことを言っているのです。昨夜,高級ワインを浴びるほど飲んだでしょ。その分しっかり働きなさい。私は休憩はなくとも何ともありませんよ」


ルミナスは,アリシアよりも早い速度で壁を作り上げていく。


「師匠は・魔力お化け・一緒にされても・・」


思わずアリシアは小声で呟いていた。


「アリシア。誰が魔力お化けですか。弛んでますね」

「えっ・・何も言ってません。気のせいですよ。気のせい!ウガ・・・」

ルミナスから容赦ない電撃魔法が放たれ,悶絶するアリシア。


「やれやれ,かなり弛んでますね。昔はもっと出来たはずなんですが,後日鍛え直しですね」

「そ・そんな〜」

「気合を入れてやりなさい。緩んでいると見たら,アリシアのために特別強化メニューを組んであげますよ」

「まさか・・エルフ近衛兵ですら根を上げるという」


ルミナスの冷たい微笑みを見たアリシアは必死に取り組むのであった。

そこにレンも加わり,夕方までには外壁作成が完了したのであった。


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