第61話 触れるな危険

深夜遅くのウィンダー領。

果樹園の増築を行っている場所では,青龍騎士団による警戒が続いていた。

特に壁の出来上がっていない箇所は,厳しい警戒を行っている。

騎士団は,所々に魔石を使って強い光を放ち周囲を照らす魔法灯を設置。

一気に突っ込んでこれないように,いくつもの簡易的なバリケードも設置。

バリケードとバリケードの間には,バリケードを避けて突入してくる敵の動きを抑えるトラップ式の簡易魔法陣を設置している。

深夜にも関わらず青龍騎士団の厳しい監視が続いていた。

少し離れたところで隠れて様子を伺う20人ほどの男達がいた。


「これは厳しいな」

「頭。これは無理だぜ」

「わざわざここまで来て手ぶらで帰れるか。そんなことになったらグーフィー盗賊団の名折れだ。他の連中に舐められて,裏社会で生きていけねぞ」

「帝国内で最も潤っている土地と聞いたから,一稼ぎできると来てみたが,警戒が厳重すぎる。街中は監視の目がそこら中にある。侯爵の管理する畑やワイン蔵を狙おうにも,深夜でもこの状態だぜ。無理だよ」

「馬鹿野郎。ワイン1本を闇市に流せば,金貨5枚のワインが金貨20枚は硬い。狙うしかねえだろう」

「狙うと言ってもどうするんだよ。これだけ警戒が厳重なんだぜ」

「壁の方はどうやら警戒が緩いようだ」


男達は頭と呼ばれた男の言葉を聞き,出来上がっている壁の方を見る。

10mほどの高さで手をかける隙間も無いほどに滑らかに作られ,壁にウィンダー侯爵家の家紋が描かれている。

更にその手前には,高さ1mほどの木製の柵が作られ,その柵には‘’危険!立ち入り禁止‘’の文字が書かれた看板がいくつも下げられている。


「頭。連中は,壁の高さが10mもあるから簡単に越えられないと考えているんだと思う。実際,この高さだ。かなり厳しいぜ。手をかける隙間も無いぞ」

「だが,逆にそこが狙い目だろう」

「狙い目って。頭。本気かよ」

「向こうは,俺たち盗賊団が壁を越えてこないと考えているはずだから,壁のある場所の警戒が緩いはずだ」

「それは確かにそうだが,どうやってあの高い壁を越える」

「鍵爪を取り付けたロープを塀の上に投げ,鍵爪を塀の上に引っ掛ければどうにかなるだろう。そうしたら一人が塀に上がり縄梯子を取り付ければいい。準備を始めろ」


青龍騎士団の警備をしているところからかなり離れた壁の前に盗賊団はいた。

男達は急いで準備を始める。

準備が終わると男達全員が木製の柵を越えて,壁際へと駆け寄る。

一人が鍵爪の付いたロープを振り回し,勢いをつけて塀の上へと投げつけた。

鍵爪が塀の上で引っかかる。

男がロープを引っ張り少し体重を掛けて,しっかりと引っかかったことを確認している。

そんな様子を精霊達が見つめて笑っていた。


『ハハハハ・・・馬鹿が来た』

『このまま,やっちゃえ』

『使徒様から,捕まえろとのことだよ。殺しちゃダメだよ』

『生け取り・生け取りだよ』


当然,精霊達の笑い声は男達に聞こえない。

この場所にどんどん精霊達が集まってくる。

男達は精霊の姿は見えず,声も聞こえず,気配も感じられない。

精霊達の見張る中で堂々と押し入るための準備を進める。

一人の男が壁を登ろうとロープを片手に持ち,空いている片手で壁に触れた瞬間,一瞬の光と共に壁に設置されていた魔法陣から電撃が放たれた。

壁からの電撃魔法に精霊達が大喜びをしている。


『ヒョ〜,すご〜い。壁から電撃魔法だ!』

『この隙に足元を沼地にしちゃえ〜』

『ドンドン,水を入れてしまえ』

『やれ〜,やっちゃえ〜,沈めろ〜』

『水をいれろ〜』

『全員逃げられないように,体ごと沈めちゃえ!』

『沈めろ〜沈めろ〜ハハハハ・・・』


壁からの電撃攻撃を受けた男が倒れると同時に,盗賊団のいる場所が一瞬で沼地に変わり,全員が一気に体の半分以上が沈んでしまった。


「しまった罠か!」

「地面がいきなり沼地に変わったぞ。逃げろ」

「何だこれは」

「不味い。逃げろ」

「動けないぞ,身動きできん」

「ダメだ。体が沈んでいく。助けてくれ〜」

「周りが全て底なし沼に変わったぞ」

「助けてくれ〜,動けん」

「誰か助けてくれ」


精霊達による精霊魔法により,大地が沼地に変わったのである。

盗賊団は必死に逃れようとするが,周辺が全て沼地に変わり這い上がれない。

手で触れる場所が全て沼地に変わってしまい,手をかける場所が全く無い。

それでも盗賊団の男達は,沼地に変わった大地で逃げようと必死にもがいている。


『使徒様を困らせる連中だ。やっちゃえ!!!』

『仕上げだ。蔦で縛り上げろ〜』

『キャハハハ・・・・・』


更に精霊達の魔法で周辺から蔦が生き物のように動き始めて盗賊団を縛り上げていく。


「なんだこれは!」

「蔦が生き物のように動いているぞ」

「まさかトレントか・・魔物のトレントがここにいるのか」

「不味いぞ,蔦が体に絡みついてくる」

「動けねえぞ,逃げろ〜」

「壁際に逃げるしか・・・」


逃れようと壁に寄ると,壁に隠されている魔法陣から次々に電撃が放たれ,盗賊団が動けなくなっていく。


『キャハハハ・・・また電撃でやられてる』

『電撃だ。電撃・電撃!』

『電撃。カッコいい』

『馬鹿みたい』

『いっそのこと蔦で捕まえたまま,壁に押し付けて電撃を当てようよ』


盗賊団の騒ぐ声を聞きつけた青龍騎士団が現場にやってきた。


「な・何だこれは」


沼地のなかった場所に沼地が出現。

その沼地に多数の男達が嵌り,蔦に縛り上げられて動けなくなっている光景に,流石の青龍騎士団も驚いている。

そこに,精霊達から連絡を受けたレンがやってきた。


「レン様」

「サイラス団長。こいつらはワインと果樹園を狙ってきた盗賊団です。大地を沼地にする魔法を解除しますから,蔦に縛られたまま牢屋に連行してください」

「これはレン様の魔法ですか」

「あらかじめ仕込んで置いたものです」


沼地は精霊の仕業であるが,そこは秘密にしておくためレン自らの魔法としておくことにした。

沼地の水分を一気に抜いて,土魔法で大地を元通りにする。


『精霊のみんな,ありがとう』

『使徒様,また呼んでね〜』

『またね〜!』


半数以上の盗賊達は,蔦に縛られ電撃魔法で気を失っていた。

残りは,腰近くまで沼地に沈み,蔦で縛り上げられている。

青龍騎士団は全員を捉えて牢屋へと連行していくのであった。

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