第60話 秘密がいっぱい
朝からゴールドマスカットの木を増やし続けている。
ひたすらスキル木の派生スキル‘’木と森と大地の恵み‘’を発動させていた。
ゴールドマスカットの種をある程度植えたら,‘’木と森と大地の恵み‘’を発動させることを繰り返す。植えた場所を中心に緑色の魔法陣が広がる。
しばらくすると魔法陣の中心から小さな芽が出てきた。
木と森と大地の恵みの力を受けて芽は成長を始める。
次々に種を植えてはスキルを発動させゴールドマスカットの木を増やし続けている。
レンのスキルの影響もあり,1ヶ月で収穫できるほどに成長する。
ゴールドマスカットの木1本とレンのスキルの力があれば毎月収穫できることになる。
ゴールドマスカットの果肉に入っている種を使って,他の地域で育てようとした者がいたが,レンのスキルの恩恵はないため,ほとんど育たず。育っても収穫量と味がガタ落ちとなり売り物にならなかったそうだ。
レンが木を増やし続けているその外周部では,果樹園を守るためにルミナスとアリシアによる高さ10mほどの壁が魔法で作り出されていた。
今回増やす木々を植える場所よりも少し広い範囲を囲む様に作っていく。
出来上がった壁には,手早く幾つもの防御魔法陣が組み込まれていく。
破壊できないように壁の強化魔法陣。
飛び越えたりよじ登ろうとするものは電撃攻撃を加える魔法陣。
更に壁に施した魔法を隠すように隠蔽魔法をかけていく。
壁にはウィンダー侯爵家の家紋である,左右に伸びる月桂樹の葉の上に剣と魔法杖が交差している図柄が所々に描かれている。
ルミナスはレンの頼みのため見返りを求めずに喜んで手伝っていたが,アリシアはワイン20本で手伝っていた。
定価金貨五枚のワインを20本である。
更にプレミアム版1本がおまけとしてもらえると聞いて張り切っていた。
レンの作り出した特殊なタルの影響で1ヶ月で出荷可能になるのだが,それとは別に3ヶ月寝かせた特別版を作っていた。価格は1本につき金貨15枚である。
「フフフフ・・・」
アリシアは,壁を魔法で作りながら不気味な笑い声を上げている。
そんなアリシアをルミナスは呆れた目で見ている。
「アリシア。気味の悪い笑い声を出さないようにしなさい。魔法の発動が遅くなってますよ。しっかりしなさい」
「ワイン・・ワイン・・!!!」
ルミナスの注意も聞こえぬほどに,謝礼として貰えるワインのことをばかり考え,思わずニヤけてしまうアリシア。
そんなアリシアに向かってルミナスがため息を吐きつつ弱い電撃魔法を放った。
「ギャ〜〜〜!!!」
完全に油断し切っていたアリシアは,想定外の電撃に叫び声をあげて倒れ込む。
「師匠。いきなり酷いです」
「アリシア。もっと気合を入れてやりなさい。ワインを全て没収しますよ」
「エ〜,師匠それはやめて〜!私の楽しみなんですよ」
「なら,しっかりやりなさい。手を抜いていると見たら,次はもう少し強い魔法を使いますよ」
顔を引き攣らせながら再び壁作りに精を出すアリシア。
ルミナスたちの反対側では,青龍騎士団の魔法師の精鋭10人が壁作りを行っている。
だが,壁を作り出すのはルミナスとアリシアのコンビが圧倒的に速い。
レンがゴールドマスカットの木を100本育成したところで,夕暮れになってきたので作業を終わりにして,続きは翌朝から行うことにした。
青龍騎士団が交代で警備を行うが負担を減らすために,隠蔽魔法で隠してある世界樹の木の場所に行きユグを呼ぶ。
「ユグ」
「は〜い。レンどうしたの」
「今,ワインの木と新しい種類の木を増やしているんだけど,そこを守るために魔法で壁を作っているんだ。だけど,まだ作りきれないんだ。精霊達に警戒してもらえたら助かる」
「簡単だよ。任せて。ところで新しい木は何の木なの」
「チョコレートと言う新しいお菓子の材料となる豆ができる木だよ。今度チョコレートを持ってくるよ」
「やった〜。新しいお菓子だね。期待しちゃうよ!!」
レンの言葉に嬉しそうにするユグ。
そんなレンとユグのやり取りをアリシアが呆然と見つめていた。
世界樹の精霊であるユグの姿は普通の人には見えない。
アリシアはエルフであり高位の魔法使いであるためその姿が見えていた。
そんな世界樹の精霊はエルフ相手でも滅多に姿を見せない。
親しく話をするなど夢のまた夢の相手である。
そんな存在がレンとまるで友達のように親しげに話をしていた。
「そんな・・なぜ,世界樹の精霊であるユグ様がここに・・・」
「アリシア。このことは秘密です。いや,このウィンダー領で目にしたこと全てが秘密だと思いなさい」
「師匠。これは一体」
「エルフの国に世界樹はあります。しかし,使徒様であるレン様が現れたためユグ様がレン様に頼んで,世界樹の苗木を極秘の内に新たに数ヶ所植えられたのです。そのうちの1本がここの庭に隠蔽魔法をかけられた状態で隠されています。そしてユグ様は世界樹の苗木があれば,苗木のある場所に一瞬で自由に移動できます」
「そんな馬鹿な。世界樹は清涼なる場所でしか育たぬはず。こんな人里で,しかもここは屋敷の庭先ですよ。こんな人里で世界樹が育つはずが・・・」
「レン様が慈母神アーテル様の使徒であることはすでに知っていますよね。使徒様から慈母神アーテル様の神力が周囲に溢れてきます。そのため,使徒様の近くに大精霊様は居たいのです。使徒様と大精霊様の絆はそれほどまでに強いのですよ。アリシア。絶対に秘密を守りなさい。そうでないと全ての精霊の怒りを買いますよ」
「もしや,レンのスキルは」
「慈母神アーテル様の神気・神力が含まれています。それゆえの奇跡なのです。ここの庭・畑には使徒様であるレンのスキルにより豊穣の神気・神力に溢れています。更にユグ様もいますから草木の精霊達が多数います。ユグ様の指示で上級精霊や中級精霊達も多数来ています。よほどのことがなければここを害することはできません。更に水の大精霊ウィン様もいますから水の精霊達も来ています」
「何と!」
「師匠として,元エルフの女王として命じます。ここの秘密は漏らしてはなりません。いいですね」
「承知しました」
「このこと知ったら,明日からはもっとしっかりとやるべきことをやりなさい」
「このアリシア。ルミナス様の弟子であり,エルフの一員として恥じぬようにいたします」
「よろしいでしょう。明日は期待しますよ」
ルミナスはアリシアに微笑んでいた。
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