第57話 ウィンダー領の政策

帝都の屋敷でウィンダー領の特産品に関して,総執事長であるセバスから評判を聞いていた。

ウィンダー領で作り出されている物はどれも大評判になっている。


「レン様。ウィンダー領で作られる特産品は,どれも大評判でございます」

「そんなに評判なの!」

「はい,超最高品質のヒール草はその高品質から大評判となり,薬師の間で争奪戦となっております。メメロンの実は,果物としての評判はもちろんですが,どうやら魔力回復効果があるとの噂が出ておりまして,魔法師たちの間でかなり評判になっており,魔法師たちが買い漁っています。魔力を使い切った時にメメロンを食べると,それだけで魔力が少し回復すると言われております。さらに,べリューの実で作られたジャムはその美味しさはもちろんのこと,淑女の間では肌に潤いを与える効果があると言われ始めており,美容品としての効果も期待されております。特に凄まじいのは,ワインでございます」

「特産品のゴールドウィンダーワインだね」

「はい,その見た目の素晴らしさはもちろん,あまりの美味しさに一度飲めば他のワインが水に思えるほど違いを感じるとの評判。さらに解毒作用と若返りの効果があると噂がでおり,それが評判に拍車をかけております」

「そんなに」

「はい,ワインは出荷するとすぐに売り切れてしまい。予約のお客様が大量に出てしまい。現在のペースですと2年待ちとなっております」

「2年先まで予約が埋まっているの」

「はい。予約待ちがさらに増加傾向にございます。このままでは,やがて3年待ちになりそうです。そのため良からぬことを考える輩も出てきております」

「コソ泥達が出てきているのかい」

「沸き始めておりますが,問題無く対処できております」

「領民達に怪我人は出ていないのかい」

「それは大丈夫でございます。ウィンダー領の兵士は精鋭揃い。領民たちもかなり鍛え上げられた者達が多いですから,コソ泥程度では相手になりません」

「それは心強いね」

「不届者の中には,ゴールドマスカットの実から種を取り出して栽培をするものもいますが,ことごとく枯れてしまうそうです」

「あれは僕のスキルの恩恵を受けた土地でなければ無理だからね」

「レン様にはぜひ増産できるようにお願いしたいと思いまして」


今までも時々ウィンダー領に戻り,それぞれの作付け量を少しづつ増やして来ていた。

急激に増やしすぎると需要と供給のバランスを崩してしまう。

そうなると値崩れにつながるため,大幅に増やしすぎないようにしてきていた。


「準備はできているの」

「はい,最大で今までの5割り増しまでできるように場所を押さえ,警備体制も強化可能なように準備しております」

「それなら,この週末にでも戻ってやってしまおうか。ゴールドウィンダーワインを手土産にして,学園長に自領に戻ることをお願いに行くか」

「それでは,2本ほどご用意いたしますか」

「そうだね。それでお願いするよ。学園長もゴールドウィンダーワインの愛好者だ。手に入らないとだいぶ怒られたからね。生産量を増やすことに協力してくれるはずだ」

「承知いたしました。すぐに用意いたします」


レンは,ウィンダー侯爵家当主であるため,学園から領地運営などで学園を休む権利を与えられている。

ただし,中間テストや期末テストでの忖度は無い。

休むのは構わんが,成績は自分の責任でどうにかしろというスタンスである。

しかし,頭脳強化魔法が使えるレンにとっては,テストは何の障害にもならなかった。

それよりもウィンダー侯爵である以上は,特産品の供給量を過剰にならないように適度に増やしていくことが,ウィンダー領の発展には重要だと考えていた。

同時にお金を必要以上に溜め込まずに適度に使う必要もあった。

ウィンダー侯爵領ばかりに富が集中しすぎると,それはそれで問題になる。

他領にお金が回らなくなるからである。

他領にお金が回らなくなるとウィンダー領以外が不景気になり治安が悪化。

そうなると帝国の治安に悪化にもつながるからである。

そのため,お金を使いながらも将来のためになるいくつかの政策を実行していた。


「帝都とウィンダー領を繋ぐ街道の整備の進みぐあいはどうなっている」

「順調に推移しております。ウィンダー家だけでは無く,近隣のウィンダー侯爵家に近い関係の貴族領からも土魔法使いや職人を多く雇い実施しております。あと3ヶ月ほどで完成かと思われます」


帝都との街道整備にウィンダー家が資金を出し,馬車が2台は楽に並走できる幅で完全舗装の街道を整備している。

街道整備の一環で親しい関係にある貴族家などから,できるだけ人を雇い他領にもお金が回るようにしていた。


「訓練校の運営はどうなっている」


ウィンダー領では,教会と手を組んで孤児院への支援だけでは無く,領内の子供達の職業訓練に資金を出していた。

文字の読み書き,簡単な算数,それぞれの適性を調べて必要な教育を与える。

特別なスキルの無い子には,性格や希望などを加味して,いくつかの職業訓練をさせるようにしていた。

料理,裁縫,鍛治,木工,事務処理,武術,簡単な魔法の手解きなど多種多様な訓練を行なっている。


「スキルの無い子にも職業訓練を施されることで,手に職を持つことができるようになってきております。将来的にも領内の安定につながると思われます」

「医学薬学学校はどうだ」

「医学薬学学校は,まだ始まったばかり。これに関してはまだ時間がかかるかと思います」


この世界はどうしても魔法に頼りがちの部分が多い。

魔法以外の分野で,怪我や病気に対抗できるようにするため,帝国内で初めての医学薬学の専門校を作った。

今までは薬師に弟子入りすることだったが,非常に効率が悪い。

しかも,薬師の育成にとても時間がかかる。

命に関わる医療面の改善はいつかやらねばならない問題。

数年がかりの事業だ。少しでも結果が出てくれればと思っている。

今回は,ゴールドマスカットの栽培場所を増やすついでに,新しい特産品をいくつか作ってみるつもりであった。

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