第56話 噂話は程々に!

深夜スケルトン軍団の帝都襲撃から丸一日以上経過して,事件のあらましが帝都中に広がり,学園の中でも生徒たちはその話題で盛り上がっていた。

校内の至る所に人の輪ができ,各々が自分なりの推論を述べて推理を披露している。


「もの凄い音がしたよね」

「かなり大きな爆発音がしたのは聞いたよ」

「こっそり家を抜け出して見に行ったんだよ」

「何がいた」

「スケルトンの軍団」

「この帝都のど真ん中でスケルトンかよ」

「しかも骨が光ってるんだぜ」

「ウヮ・・なんだそれ。気味が悪い。でも退治できたんだろ」

「冒険者と衛兵隊が凄かったんだよ」

「やはり剣術などの武術における強さこそ全てだな」

「いや,魔法だろ。上級魔法を操れることこそ強さの証さ」

「やはり帝国に恨みを持つ者たちかな」

「それしか無いだろ。噂では新しく広がってきている悪魔教とか犯罪者ギルドとか言われてる」

「こっちは敵対しているグレイン王国の可能性があると聞いたよ」


レンは,校舎の廊下を噂話を聞きながら教室へと向かう。

教室に入ると教室に中でもそれぞれが仕入れてきた噂話をしているようだ。

教室にレンが入るといつものメンバーから手招きされる。

その場所は,自分の席である以上呼ばれずとも行く訳ではあるが,席の主がいないのにそこでたむろする必要は無いと思うが,そんなことはどうやら関係ないようだ。


「シャーロット。おはよう」

「レン。おはよう」


カレン,ロー,サラとも挨拶を交わす。


「レン。どんな事件だったの」

「シャーロット。僕は,現場に行ってないのに事件の詳細なんてわかる訳ないだろう。噂程度しか知らないよ」

「嘘でしょ。レンのことだから事件現場に真っ先に乗り込んだじゃないの」

「流石にそんなことはしないよ」

「本当かしら」

「お爺さまから怒られてしまうよ。屋敷で万が一に備えていたよ」


周辺でクラスの同級生たちがこっそりと聞き耳を立てている。

皆,現職の侯爵の言葉と情報に興味津々なのだ。

素知らぬふりをしながらしっかりと耳と意識をこちらに向けている。

流石に本当のことを言うわけにもいかず,とぼけるしかない。

うっかり余計なことを言えば,現職の侯爵家当主の言葉として流れてしまう。

ここは知らぬ存ぜぬの一択。

どこまでもとぼけるしかない。


「ホンマか。大人しくしてたなんて怪しいわ」


カレンが目を細めて疑いの眼差しを向けてくる。


「カレン。僕をなんだと思ってるんだよ」

「いやいや,あれだけの剣術の腕前と魔法の実力。大人しくしているはずが無い。レンの行動から言ってすぐさま戦いに向かうはずや」

「戦いの場にどこでも顔を出すみたいなこと言われても困るんだけど」

「実際は行ったんでしょ,ここだけの話。どうなの。行ったんでしょ。白状したら」


みんな聞き耳を立てているこの場でここだけの話で済むはずが無い。

カレンはしつこく聞いてくる。


「いやいや,行って無いですよ。本当!」

「怪しい〜」

「怪しく無い・怪しく無い。カレンは自分が戦いたかったからでしょ。冒険者たちや衛兵隊に体験談を聞けばいいじゃない」

「もう聞いた」

「えっ・・もう聞いたの・早い」

「スケルトンとの戦いの場には,それらしき人はいなかったそうだ」

「当たり前でしょ。行ってないんだから,人を疑うのはやめようね」

「しかし,スケルトンとは別にどうやらそれを操っていた連中との戦いが別の場所であったらしい。遠くから見ていた冒険者が,一人の人物が三人を相手に戦っていたと言っている」

「ヘェ〜」

「かなり激しい戦いだったらしく,冒険者達は近づけないため遠くから見ていたそうだ。そのため戦っていたのはどんな人かは分からずじまい。ただ,いくつもの魔法使われたそうだ。特に氷魔法の冴えが凄いと言っていた。レンは氷魔法が得意だったと聞いたが」

「それは入学試験でアイスランスを前方に大量に打ち込んだからでしょ。動かない的に時間をかけて準備して打ち出すことと,動き回る敵を相手に氷魔法で戦うことは全くの別物。僕には無理だね。お爺さまだったらやれると思うけど!」


表向きのレンの氷魔法はレベル4となっている。

中級レベルに相当することになる。


「カレンも分かるよね。動かない的と動く敵との違い」

「それは分かる。分かるけど」

「そんな高度な魔法操作はできません」


その時,教室のドアが開いた。

担任のルミナスが入ってきた。


「皆さん。何を騒いでいるのです。席に着きなさい」


全員慌てて席に着く。


「全く,何をそんなに騒いでいるのです」

「先生。スケルトン軍団の話を何か知りませんか」


男子生徒が急に質問を向ける。


「それは,衛兵隊・冒険者ギルドの仕事です。皆さんがやる事はここで学ぶ事です。以前,模擬テストが近いと話していましたが,そんなに事件のことが知りたいなら,模擬テストの予習は必要無いと言うことですね。それで正解率が半分なら,それがそのまま成績に直結しますよ。いいのですか」


その瞬間,教室に静寂が訪れた。

みんなの顔には,驚愕の表情。

どうやらみんな模擬テストのことを完全に忘れていたようだ。


「やばい・・」

「あかん・・」

「忘れ・・・」

「何もやって・・」


クラスメイトたちの悲鳴にも似た呟きが聞こえてきた。

担任のルミナスは,さらにとても恐ろしいことをサラリと言ってみんなを黙らせた。


「どうしたのです。どっちにするのか,選びなさい。私はどちらでもいいですよ。念のため言っておきますが,今回は難しいですよ。今のままならこのクラスであっても,7割近い人が半分も正解出来ないでしょうね」

「先生。授業をお願いします」

「レン君。分かりました。それなら授業を始めますよ」


この日の授業は,今までに無いほどみんなが集中していた。

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