第55話 露見

レンは,三人組を取り逃した後三人組のいた周辺を調べていた。

砕けた魔石と魔法紙の破片を見つけた。

魔法紙は,1回限りの魔法を使うためのよく使われる。

せいぜい初級から中級の魔法に限られる。

上級魔法以上では,魔法紙が耐えられないからだ。


「これはもしかして使い捨ての転移門に使ったのか。後で調べてもらおう」


レンは砕けた魔石と魔法紙の破片をバッグに保管する。

遠くで爆発音がする。

スケルトン軍団との戦いが続いているようだ。


「ラー,様子を見に行こう。危ういようなら手助けをするよ」


レンは身体強化を発動させラーと共に現場に向かう。

レンは建物の屋根の上を飛び移りながら向かう。

戦いがめる場所まで来るとしばらく止まり状況を確認する。

どうやら衛兵隊と冒険者がスケルトン軍団を相手に有利に戦っているようだ。

万が一衛兵隊と冒険者で手に追えなくなるようなら,バレる事を覚悟で参戦するために様子を見ていた。

少し離れたところに,叔父で冒険者ギルド本部長のブラッドリーがいた。

ラーを離れた場所に止まらせて,そこにすぐに移動する。


「そこのおっさん」

「うぉ〜!!!」


ブラッドリーは誰もいないはずの背後からいきなり声をかけられて慌てた。


「レン君か・・脅かさないでくれ」

「何を言っている。俺はそんな者では無い」

「レン君。何かの遊びか?その銀の仮面,どこに売ってるんだい」

「いや・・売り物では・・」

「レン君。この非常事態だ。遊びなら明日にしてくれ」

「・・ハァ〜!なんで分かるの」

「銀の仮面は何かのまじないか。何でかと言われてもね。そんなお子様の姿で莫大な魔力を持っている奴は他にいないと思うぞ」

「ウグッ・・・やはり身長なのか」

「それに一応血縁者の一人だしね。魔力の持つ雰囲気で何となく分かる」

「・・・・・」

「他に何かいて戦ってたんだろ。離れたところでレン君の魔力で戦っているのが分かった」

「あのスケルトンの軍団を連れ込んできた連中さ」

「何」

「もう逃げたよ。もう少しで捕縛できたんだけと,使い捨て転移門で逃げられた」

「逃げられたのか。残念。何か手掛かりは無かったかい」

「う〜ん。あるにはあるが,この場合,帝国に出すべきでしょ」

「直接出すと色々問題があるんじゃないの。こっちで上手くやるから任せなよ」

「ウ〜ン・・そこはお爺さまに正直に言うさ」


二人の背後から声がかかる。


「ほ〜。何が手に入ったのだ」


慌てて二人が振り向くとそこには,レンの祖父ハワードが立っていた。


「「ゲッ・・・」」

「二人して,ゲッとは何じゃ,ゲッとは・・レン,ブラッドリー,こそこそ動くのは感心せんな。それとレン。その銀の仮面程度では知り合いにあったらすぐにバレるぞ。そんな幼い体つきで強力な魔法を使えばすぐバレるに決まっている。しかも,屋敷から近い場所なら尚更だ」

「・・・また身長なのか。エルフの血のせいだ・・・」


少し落ち込むレン。


「仮面とマントに認識阻害系の魔法を付与できるようになった方がいいな。認識阻害系魔法を付

与してあれば,簡単には見破れんから大丈夫だろう。それで何を見つけた」


レンは,バックの中から砕けた魔石と魔法紙の破片を取り出した。


「レン。それはなんだ」

「襲撃してきた三人組がいた場所で見つけた」

「襲撃者の特徴は」

「一人は赤い髪の女で仲間がパメラと呼んでいた魔法使い。火魔法を使っていた。残りの二人のうち一人はマーカス。体に刺青を入れていて顔にまで刺青があった。その刺青が召喚魔法陣の役割を果たしている。最後の一人がナダルと呼ばれていた。スケルトンを操っていた」

「どうせ偽名だろうが,ナダルとか言う奴がスケルトン軍団を操っていたと言うことか」

「おそらくね」


「これは,儂が預かりすぐに帝国の魔導研究所に回して調べてもらうとするか」


レンは魔石の破片と魔法紙の破片をハワードに渡した。

レンはすぐにここを離れようとした。


「待て,レンどこに行く」


ハワードの声に動きを止める。


「こんな時間に黙って出歩くのは感心せんな。剣術ができ,強力な魔法を使えるといっても不覚を取る危険は常にある。しかもレンは侯爵家当主だ。万が一のことがあれば取り返しの付かぬことになる。当主としての立場を自覚して,屋敷を出る時は必ず屋敷のものに伝えて数名の護衛をつけなさい。いいね」

「お爺さま,申し訳ありません。以後気をつけます」


ーーーーー


朝日が昇る前には戦いは終わっていた。

どうにかスケルトン軍団を壊滅させることができた。

特殊個体のスケルトン100体と衛兵隊と冒険者が必死の戦いの結果である。

重軽傷者は多数出たが幸い死者は出なかった。

後方で回復職の冒険者や教会関係者の必死の努力の賜物だ。

後始末は任せて屋敷に戻り学園に向かうことにする。

眠い目を擦りながら授業を受けて夕方帰ろうとしたら,担任のルミナス先生に呼び止められる。


「レン君。学園長がお呼びだ。これから学園長室にきてくれ」

「これからですか」

「これからすぐにだ」


帰って休みたかったが,仕方なく担任のルミナス先生の後に従って学園長室に向かう。

学園長室に入ると学園長のアリシア様がソファーで寛いでいた。


「来たか,部屋に入って座ってくれ」


勧められるままにソファーに座る。


「さて,レン・ウィンダー侯爵殿。昨夜はかなりの活躍だったようだな。ご苦労さん」

「さあ,何の話でしょうか」

「昨夜の戦いは,遠見の魔法で見ていたよ。流石に銀の仮面とマントだけでは感の良い相手ならすぐにバレるぞ。どうせやるなら実体を誤魔化せる魔法を覚えて併用するべきだな」

「・・・・・」

「襲撃者の情報を知りたいのじゃないかな」

「クッ・・またか・・・やはり原因は背の低さか」

「モロバレだな」

「ハァ〜,それでどんな情報があるのですか」

「昨夜,レン君が手に入れた魔石の破片と魔法紙の破片についての調査結果が,帝国の魔導研究所から届いた」

「何で帝国の魔導研究所から学園に何で情報が来るのですか」

「魔導研究所は儂が所長になっている。学園長と兼務というわけだ」

「そんな重要情報を漏らしていいんですか。職権濫用ですよ。学生にそんな重大情報を漏らさないでください」

「陛下には許可はとってあるし,そもそも既に当事者であろう。それに,学生であると同時にレン・ウィンダー侯爵でもある。聞いておくべきであろう」

「巻き込まれたくないのですが・・分かりました。それでどんな情報ですか」

「十分に巻き込まれていると思うが。まあ,よかろう。まずは魔石の破片だ。砕けていた魔石の破片を解析した結果。その魔石には特殊な技術で魔法陣が描かれていた。その魔法陣はスケルトン軍団を操るための指令を送ることができるものだ。最大100体まで操れる。魔法紙は転移門を使うために使ったようだ」

「ちょっと待って。使い捨ての転移門はAランク以上の魔石を使うはず。それを魔法紙でなんて有り得ないでしょう」

「魔法紙の破片しか残っていないため,正確なところまでは分からんが通常の魔法紙とはかなり違うとの分析だ。そして,微かに残っていた魔力から転移門であり,短距離の転移が可能な程度であろうとの結果だ。あと1日遅ければ,残っていた魔力も残らず消えてしまい何も分からなかっただろう」

「ウ〜ン。短距離と言いましたが,どの程度ですか」

「500m程度であろう。一時的に逃げる。もしくは身を隠すには十分使えるだろう」

「周辺をよく探せば見つけられたかもしれなかったのか」

「いや,無理はしなくて正解じゃ。追い込めば逆に何をするか分からん。多くの市民が犠牲になっていたかもしれんのだ。怪我人だけで済んだことが奇跡だ」

「確かに,言われてみればそうですね。敵の正体は分かったのですか」

「おそらく,グレイン王国であろう。グレイン王国の暗部に,召喚陣を刺青にして体に入れているものがいると噂で聞いたことがある。レンの報告にあった敵の特徴に当てはまる」

「グレイン王国か」


その国名を聞いてレンは顔を顰める。


「レン君。ちゃんとした証拠は無い。君も侯爵であるなら無茶な真似だけはしないことだ。君にも大切な者達が多くいるのだ」

「それは分かっています」

「今は静かに守りを固め,力を磨くことだ」

「・・・分かりました」


レンは,大切な者たちをどう守ればいいのか考え始めていた。

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