第54話 薄氷の壁


「クッ・・走れ、止まるな」


パメラは慌てて指示を出す。

パメラ、マーカス、ナダルの三人は一斉に走り始める。

気温の急激な低下を受けてその場にとどまる事は危険と判断。

薄氷のはっていない方向に走るが、三人の走りに合わせるかのように薄氷が現れていく。

必死に走る三人の動きを嘲笑うかのように薄氷は次々に現れている。

三人が広場のような場所に出ると、そこには小さな噴水があり噴水の水は凍らずに流れていた。

そこには銀色の仮面を付けたレンがいる。

噴水の淵に座り三人を見ていた。

三人は走ることをやめ、いつでも魔法が使えるように準備する。


「貴様、何者だ。この氷と気温の低下は貴様の仕業か」


パメラは油断なく周辺に気を配りながら声をかけた。

だが、銀色の仮面を付けたレンは、パメラの問いかけを無視して逆に質問をぶつける。


「お前たちは、何のために帝都に侵入した。目的は何だ。他の場所に現れた光るスケルトンの軍団はお前たちの仕業か」

「この急激な気温低下は貴様の仕業か」

「そうだとしたらどうする」

「そうなら・死ね!ファイヤーランス」


レンの問いかけを無視して一斉に攻撃を始める三人。

パメラは火魔法の炎の槍をレンに向かって大量に打ち込む。

同時にレンの前に氷の壁が現れ、炎の槍が氷の壁に激突する。

その瞬間、激しい爆発が起こった。

爆発が収まると、無傷の氷の壁の向こうに無傷のレンが現れる。


「馬鹿な!低級魔法のたかが薄氷の壁程度を破壊できないだと」

「魔法でダメなら俺に任せろ。行け!」


ナダルの使役するスケルトンは、人間だった頃は剣聖と人々から呼ばれるほどの剣の達人。

その力はスケルトンになっても変わる事は無く、スケルトンとなった剣聖が操る剣はあらゆる物を切り裂くと言われていた。

だが、ナダルの使役するスケルトンが剣を薄氷の壁に叩きつけるが傷一つ入る事なく弾かれた。


「何だと・・!そんな事が・・そんな事があるのか。剣聖の剣撃でも壊せない氷の壁だと。あんな薄い氷の壁がなぜ壊せない」

「ヘェ〜。そのスケルトンは元は剣聖なんだ。冗談でしょ、僕の作り出したこの薄い氷でさえ破壊できない剣聖なんて名前負けじゃないですか。実際は剣術初級者だったんじゃないですか」

「何だと!貴様。後悔させてやるぞ」


レンの言葉に挑発され、ナダルは剣聖のスケルトンに連続攻撃をさせるが、氷の壁を壊せずにいた。

「なら、俺の様の出番だ。任せろ。俺様のシャドーウルフならどんな障壁も無駄だ」


マーカスは漆黒のシャドーウルフを召喚。

マーカスの召喚したシャドーウルフは,敵の防御を通り抜けて敵を攻撃できる特殊なスキルを持っている。


「行け。喉笛を食い破れ!」


召喚されたシャドーウルフはスキルを発動させ氷の氷壁に飛びかかるが、氷の壁を通り抜けることができずに弾かれてしまい,傷ひとつ付ける事はできなかった。


「馬鹿な、あらゆるものを通り抜けて敵本体を攻撃するスキルを持つシャドーウルフが弾かれるだと。スキルを弾くあの氷の壁は一体何だ。おいパメラ。お前、魔法使いだろう。あれは何だ。何の魔法だ。俺様のシャドーウルフが通り抜ける事ができないなんて初めてだぞ」

「単なる氷魔法にしか見えん。しかも低級の単なる薄氷の壁にしか見えない」

「低級の薄氷の壁にこんな威力があるか!別の魔法だろう」

「見たことも聞いたこともない氷の壁だ。あの薄さでどうしたらこれほどの力があるのだ。帝都にこれほどの氷魔法の使い手がいるとは聞いていないぞ」

「帝国の秘匿戦力か・・・」


三人がレンの作り出した氷の壁を壊す事ができず次の攻撃をためらっている。


「わざわざこの帝都に侵入してくるほどの賊。どれほどかと思えば、大したことはなかったな。さっさと捕縛して衛兵隊に渡すとするか」


レンはガッカリだと言わんばかりの態度をとる。


「舐めるな。俺たちを捕まえられるか」


その時、上空から何かが落ちてきた。

マーカスの召喚した漆黒の烏であった。

地面に叩き付けられたその姿は、完全にボロボロであり戦闘不能であった。

羽や足は逆方向に折れてしまっている。


「馬鹿な・・一方的にやられただと・・こいつは魔法と錬金術で特別に強化された個体だぞ」


マーカスは自ら召喚した烏の魔物が、一方的に叩かれ地面に落とされた事に驚愕の表情を隠せなかった。

上空を飛んでいた白いフクロウ姿のラーは,優雅に降りてきてレンの肩に止まる。

ラーは念話でレンに話しかける。


『主。こいつら弱すぎ。ガッカリだよ』

『空での空中戦。フェニックスのラーと戦える相手は限られるさ。単なる魔物の烏程度じゃラーの敵じゃないだろう』

『それは分かるけどさ。擬態して力を押さえてるから、もう少し歯応えが欲しかったよ』

『仕方ないさ』

『主。何ならあの三人も僕が相手をしようか』

『大丈夫さ。この薄氷の壁を壊せないようだから大丈夫大丈夫』

『いや、主が使っている薄氷の壁。主が手を加えて改造して,初級魔法に見せかけた上級魔法でしょ。それをさらに神力を使って強化してるから、それを見抜けない以上、壊せる訳ないじゃん。普通の魔法や剣撃で壊せるはずもないし、神力を使って強化しているからスキルも弾くし、相手が途方に暮れちゃうよ』

『誰が見ても初級魔法。その実態が上級魔法だから面白いんだよ。実戦で試すには丁度いいだろう』

『いやいや・・えげつないでしょ。相手が可哀想になってくるよ』


レンとラーがのんびりと念話で話している間も、三人は攻撃を加えてきていたが、氷の壁にはヒビひとつ入らない。


「マーカス,ナダル,無理だ。撤退する」


三人が逃げようとしたため、周辺を覆うように氷の壁を作り出す。

氷の壁の高さもかなりあるため、飛び上がっても乗り越えることはできない。


「飽きずによく攻撃するね。そろそろ諦めてくれたかな。もうすぐ衛兵隊がくるから大人しくしてくれるかな。それまではこの氷の壁は残しておくから・・衛兵隊相手に暴れられても困るか」


氷の壁は唯一空いていた上空も塞ぐ。

その氷の壁の中をさらに気温を下げていく。


「不味い。このままだと動けなくなるぞ。仕方ない。あれを使え」


パメラはの言葉と同時に三人の体が薄らと光り始め、そして強い光を発した。

光が消えると三人の姿は無かった。


「あ〜!使い捨ての転移門か!うっかりしていたな」

「逃げられちゃったね」

「今度は使い捨ての転移門を防ぐように改良が必要だな」

「まだ改良するの?」


フクロウ姿のラーが呆れたようにレンを見る。


「当然だろ。初級魔法に見せかけた方が相手は油断するんだよ」

「主と戦う相手は可哀想だね」


レンとラーは敵に逃げられたものの色々試せたため、満足げに帰るのであった。

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