第53話 暴かれる者たち
神聖魔法による攻撃で何も無いはずの空間から突如現れた三人の人物。
黒いマントを纏ってフードを深く被っている。
三人のうち一人だけやや背が低く、フードの中から長く赤い髪の毛が見えていた。
赤い髪の人物が上空を忌々しそうに見つめる。
「上空から神聖魔法による攻撃だと、しかも降り注ぐ白い羽。そんな神聖魔法は聞いたことが無い。いったい誰だ」
そこに強い風が吹いてきてフードがめくれ、三人の顔が露わになった。
赤い髪の人物は若い女で、目鼻立ちははっきりしている。
あとの二人のうち一人は、スキンヘッドで顔に刺青がされていて、もう一人は穏やかな感じの青年に見える。
「何か上空を飛んでいるようだ」
スキンヘッドの男が目を細め夜空を見上げて呟く。
「僕のスケルトン軍団の隠蔽もあれに壊されたようだ。おかげで衛兵隊と冒険者たちに見つかり計画が滅茶苦茶だよ」
穏やか感じの青年が厳しい表情で呟く。
「仕方ないだろう。予測もできない事はあることだ。逆にスケルトンには思いっきり暴れさせろ。暴れさせて帝都中の衛兵隊也冒険者をそこに集めさせろ。その方が帝国の連中の目眩しになる。その隙にウィンダー侯爵を暗殺するぞ」
赤い髪の女が二人に指示を出す。
そこに再び、神聖魔法の白い羽が降り注ぐ。
今度の白い羽はわずかながら炎を纏っていた。
地面に白い羽が接触した瞬間、巨大な白い炎が上がる。
白い炎があたり一面を昼間のように照らし、強烈な白い炎の渦が三人に襲いかかる。
赤い髪の女が慌てて魔法障壁を張り、白い炎を防ぎながら叫ぶ。
「クッ・・今度は火魔法と神聖魔法による複合魔法だと、そんな高度な魔法をいったい誰が使っているんだ。並の魔法使いに複合魔法は使えないぞ。しかも、上空から・・飛行魔法も同時に使っているということだ。それ程の使い手が帝都にいるのか」
「鳥だ。上空を鳥の魔物が飛んでいるぞ。その鳥が魔法を放っている」
上空を見ながら叫ぶスキンヘッドの言葉に驚く二人。
「鳥の魔物如きがそんな高度な複合魔法を放ってくるなんてあり得ない。何かの間違いだ」
「もしかして聖獣か」
「聖獣だと・・こんなところにいるはずがないだろう。聖獣は清涼なる地に住むと言われている。人間が多数住んでいる帝都のど真ん中にいるはずがないだろう。人が多く住むこんな場所は聖獣が嫌う場所のはずだ」
「だが、それ以外に説明がつかん」
「マーカスどうにかしろ」
赤い髪の女がスキンヘッドの男に指示を出す。
「パメラは人使いが荒いな」
「ぐずぐず言わないで聖獣をさっさと片付けろ」
「了解」
マーカスと呼ばれたスキンヘッドの男の体に彫られた刺青が赤黒く光を放ち始める。
刺青から一羽の黒い烏が出てきて、マーカスの左肩にとまる。
「上空から攻撃してくる忌々しい聖獣を叩き落として来い」
マーカスの指示を了解したと言わんばかりに鳴き声をあげて上空に飛び立つ。
飛び立った烏は急上昇していく。
「ひゃ〜、相変わらず不気味な魔法だぜ。刺青を使って自分の体に召喚魔法陣を彫り込んでおくなんて。考えただけで痛そうだ」
「ナダル。これは便利だぞ。召喚のための長ったらしい呪文はいらん。契約さえしてあればすぐに呼び出せるぞ。魔力は多少余計に使うが便利だぞ。気に入ったのなら特別に無料でお前の体に彫ってやるぞ。ちょうど新しく考えた召喚魔法陣を実験したいと考えていたんだ。どうだ!」
マーカスは、薄気味悪い笑みを浮かべていた。
そんなマーカスの姿に、ナダルは顔を引き攣らせ思わず後退りする。
「い・いや・・遠慮しておく。人の体で実験なんて考えるなよ。実験したいなら自分の体でやれよ。俺にはコイツらが居るから問題ないよ」
ナダルと呼ばれた男の足元から急にスケルトンが1体現れた。
そのスケルトンは茶色のマントを纏い剣を握り締めている。
他のスケルトンとは一線を画す独特の雰囲気を醸し出していた。
「貴様はそんなにスケルトンが好きなのか。相変わらずの骨好きとは、とことん変わりもんだな。俺にはそんな骨のどこがいいのか分からん」
「お前に言われたくは無いな。体に召喚魔法陣を彫り込んでいるどこかの痛い奴よりマシだと思うけど」
「ほぉ〜、貴様はこの刺青の素晴らしさが分からんというのか」
「相変わらずお前の美的センスの無さに呆れるよ。そんな刺青とこの輝くばかりのスケルトンの力強さとは、比べようも無いだろう」
「減らず口ばかり叩くやろうだ。ここで日頃の決着をつけてやろうか」
「いいぜ、どっちが強いかはっきりさせようぜ」
睨み合いを始めるマーカスとナダル。
「こんな時に何やってんだよ。そんな事は後にしろ」
パメラの怒鳴り声が周囲に響いた。
その時、パメラが異変に気がつく。
「変だ!」
「パメラ。何がだ」
「マーカス。冬でもないのに、気温が急激に下がってきている。吐息が白いぞ」
いつの間にか白い炎も消え、月明かりだけが照らす中、吐息が月の光で白く見えている。
さらに気温が急激下がっていく。
地面には薄氷も張り始めている。
やがて月明かりの中、空中に細かな光の反射が起き始めていた。
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