第51話 闇に潜みし者
帝都の深夜、通りの所々に魔石を燃料にした魔力灯の灯が通りを照らしている。
ここ数年、帝都の防犯対策の一つとして魔力灯の導入が進められていた。
帝都の大通りや重要施設から順次導入されている。
最終的には、帝都全域で死角がなくなるように導入されると言われている。
大通りや帝国の施設などの特に重要な場所では、既に幾つもの魔力灯が光を灯している。
魔力灯の導入と衛兵隊の夜間巡回の増加で夜の犯罪減少につながっていた。
魔力灯の設置は、経済の活性化にも一役買っていた。
夜遅くまで酒を飲み歩くもの達が増え、酒の売買や飲食店の増加による経済の活性化。
その代わり酔っ払いの増加という副産物も生み出していた。
そんな帝都の通りを黒いマントを纏った幾つもの人物が一つの集団となって動いていた。
その集団は、魔力灯の少ない通りを選ぶかのように進んでいく。
そこに路地裏から酒に酔ってフラフラと歩いている男が出てきて、マントを纏っているものたちにぶつかる。
「お〜い。どこ見てんだよ〜。ぶつかっておいて、てめら無言かよ。なんとか言ったら・・・」
酔っ払いの男は、呂律の回らない口調で、ぶつかった相手に文句を言っている。
黒いマントを纏った者たちは、聞こえていないのか酔っ払いを無視してそのまま歩いていく。
「待ちやがれ・・何とか言ったらどうなんだ」
酔っ払いは思わず一人の肩を掴むとマントがずり落ちる。
露わになる白い骨。
その白い骨は魔力灯の光を受けて怪しく光っている。
男は思わず後ずさる。
素早く懐から短剣を抜く。
「スケルトンの魔物なのか・・だが、光る骨・・聞いたことがない・本当にスケルトンなのか。お・・おめえら・・・い・いったい・・・」
気がつくと周囲を黒いマントを纏う者達に囲まれていた。
「クッ・・これでもC級冒険者のソバン様だ。て・てめえらごときにやられてたまるか」
男はそう言うと短剣で斬りかかるが、光る白い骨の手が斬りかかる短剣の刃を受け止め、短剣の刃を握り締める。
冒険者の男の目に驚愕の表情が浮かぶ。
「な・何だと。スケルトン如きが切れないだと。クッ・・動かん」
骨の手で掴まれた短剣は全く動かせなっくなってしまった。
その瞬間、白い骨の手が男の口を強力な力で押さえ込む。
「ウ・・ウグッ・・は・離し・・」
同時に別の黒いマントから漆黒の霧のようなものが溢れて、酔っ払った男を飲み込んでいく。
「や・やめ・・助け・・・」
黒い霧が消えると酔っ払った冒険者の男は消えていた。
再びその集団は動き出し、その集団は帝都の闇に消えていった。
ーーーーー
レンはいつものように学園に入ると教室では、クラスメイトたちがいつものように授業が始まるまでの間、色々な噂話をしていた。
「昨夜、また人が行方不明になったらしいぞ」
「エ〜、また事件がおきたの」
「どうやらC級冒険者が行方不明になったらしい」
「C級と言ったらかなりの実力者じゃないか」
「最近1ヶ月でもう20名になるよ」
「衛兵隊も必死になって捜索しているのに、それを掻い潜って嘲笑うように事件が起きてるわ」
「怖いよね」
レンは、教室に入り自分の席に座る。
するとすぐにシャーロット達がやってくる。
「レン。おはよう」
「シャーロット。おはよう」
「何やらみなさん、ざわついているようですね」
「聞こえてくる話の内容だと、何か事件でも起きているようだよ」
「事件ですか」
そこにローが近づいてきた。
「ロー。何か事件でも起きているのかい」
「レン様。おはようございます」
ローが貴族式の挨拶をする。
いくら言ってもやめないので既に諦めている。
「事件ですか。おそらく失踪事件のことかと思います」
「失踪事件」
「はい、ここ1ヶ月ほどの間に夜になると人が行方不明になることが起きています。その数20名になります。この人数は把握できている数ですので、もしかしたらこの数を大幅に上回る可能性がございます」
「原因や事件の背景はわかっているの」
「いえ、原因や事件の背景は不明です。行方不明になっている人も千差万別で、共通するようなことがないのです。種族、年齢、性別、職業なども全てバラバラと言われております。ただ・・」
「ただ・・?」
「これは、公になっていない情報なのですが・・事件との関係は分からないのですが、失踪が起きたと思われる付近で、黒いマントを纏った集団を見たとの証言がいくつかあるそうです」
「それは、どこからの情報なんだい」
レンの質問にローが一瞬答えに戸惑う。
「それは・・・色々な伝を頼りまして」
「ハァ〜・・陛下か宰相閣下かな」
「いいえ、伝を頼り入手したものです」
ローは顔色も変えずに冷静に返答する。
「分かったよ。これ以上は追及しないよ」
「レン様。くれぐれもご自分で調べようなどとはお考えにならないようにお願いします。事件は衛兵隊が調査しております」
「分かっているよ」
レンは自分で調べなければいいんだなと考え、精霊達に頼んでみることにした。
いざとなればフェニックスのラーに、擬態能力でフクロウにでも擬態させて、視界を同調させ夜の帝都の探索をさせる手もあると思っていた。
すぐに眷属であるラーに念話で話しかける。
『ラー、聞こえるかい』
『主、どうしたの』
『ラーはフクロウに擬態できるかい』
『簡単だよ。簡単、簡単』
『分かった。帰ったら頼みたいことがあるからよろしくね』
『は〜い。任せて』
不謹慎かもしれないがレンは少し面白くなってきたと考えているのであった。
ローはレンの様子を見ていて、とてつもない不安を覚えていた。
あの様子は絶対に自分で調べるつもりだと確信していた。
ローの経験から、レンは一見その気がないように見える時ほど、逆のことを考えていると見ていた。
これはハワード様に報告をしておく必要があると思うのであった。
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