第50話 心配事

帝都学園は正式名称‘’帝都アスラ総合学園‘’であり、略して‘’帝都学園‘’と呼ばれる。

帝国内で帝都学園といえば、ここひとつのみのため、正式名称で呼ぶ人はほぼ居ない。

多種多様な種族と人間たちが通い学ぶ学園。

学園に通う貴族であろうと平民であろうと問題のあるものは少なからず存在する。

そんな者たちでも救いの手を差し伸べ、問題のある部分を矯正していく役割も持っている。

そんな学園の講師たちも得意とする分野では、その道の達人といってもいいほどの能力を持つ者たちばかりである。

我らが1年Sクラス担任ルミナス講師は、女王ルミスだった時は全ての魔法に圧倒的な高い能力を示していた。

特に趣味で行う薬学と錬金術に関しては、圧倒的な知識量と能力を誇っている。

それなのに本人曰く、薬学と錬金術は完全な趣味だそうだ。

趣味だから勝手放題に試せるし、立場上失敗しても材料に困らないから、気にする必要がないかららしい。

ルミナスの薬学と錬金術は、渾然一体となっており境界がはっきりせず、本人の中では同じ扱いらしい。

そんな我らが担任の授業は、錬金術。それと魔法学を教えることになったそうだ。

完全にやりたい放題の趣味全開の授業になることが予測される。

単位制のため、必要な基本分野と専門分野に分かれ、専門分野は自分で選ぶことになる。

そして、来週からの選択授業をどうするか考えながら、帝都の屋敷の中で休んでいたレンの目の前に、風の中級精霊ノトスがいた。


『使徒様。何卒お願いいたします』


目の前で精霊が土下座している。

精霊のため本人が見せるつもりがなければ、魔眼や精霊眼でもなければ人には見ることができない。

その精霊ノトスが必死に念話で話しかけてきていた。


『今更、魔法学や錬金術を受けてもね。大精霊たちから教えてもらえているしね』

『使徒様がその授業を受けていただけなければ、主人が暴走しかねません』


風の精霊ノトスは、レンが専門分野の授業を決める前に、先回りしてルミナスの授業を選んでもらえるように頼みにきていたのだ。


『まさか、授業の選択程度で暴走なんて・・・』

『お忘れですか、使徒様が一度だけ魔物討伐で主人に嘘をついて、宮殿に置いてけぼりを喰らわせたことを、その結果どうなったか』


昔、危険なSSレートの魔物討伐で非常に危険なため、そんな危険な場所に女王を連れて行けないため、女王ルミスに嘘をついて宮殿に置いてけぼりにして、魔物討伐に向かったことがあった。

無事討伐して戻ってきたら、女王ルミスが置いて行かれたことで大激怒していた。

機嫌が治るまで大変だったことがあった。


『ああ〜、そう言えばそんなことがあったね・・・』

『もし、お受けにならないのでしたら、私はしばらく精霊の森に帰りますので、主人のことはよろしくお願いします。私では暴走する主人を抑えきれませんので』

『エッ・・・まさか』

『授業を非常に楽しみにしておられますので、その期待が裏切られたら・・・』


風の精霊ノトスのその言葉に、ブチ切れて八つ当たりしているルミナスの姿が浮かんできた。


『ハァ〜、分かったよ。魔法学と錬金術を選んでおくよ』

『申し訳ございません。よろしくお願いします』


風の精霊ノトスは帰っていった。


『レン。今更魔法学を選択しても意味ないだろう』


ノトスと入れ替わるように水の大精霊ウィンが出てきた。


『仕方ないだろう。ルミナスが暴走したらどうするんよ。それだけで大騒動になるよ。それとも、ウィンがルミナスをなだめてくれるかい』

『そんなこと簡単だろう。僕にまかせろ。すぐに氷魔法で永久氷壁に閉じ込めるてやるぞ。すぐに静かになる。完璧だ』


自信満々にウィンは答える。


『それはダメでしょ』

『魔法に関して今更人間やエルフから教わることは無いぞ。レンは既にオリジナル魔法を作る段階に入っている。だけど、学園に通うなら周りに合わせる必要があるか。時間が無駄だな』

『何か新しいヒントがひとつでも得られたらいいぐらいのつもりで授業にでるさ』


ーーーーー


気持ちいい朝を迎え、レンはいつも通りに馬車で学園に向かう。

当然、護衛もついている。

こればかりは仕方ない。

立場的にみんなを困らせる訳には行かない。

学園につくといつものようにローたちの出迎えがあった。


「レン様。おはようございます」


いつものようにローたちの出迎えを受けて教室へと向かっていく。


「ローたちは選択科目はどうする」

「レン様と同じ科目を選択いたします」

「選択科目ぐらい自由に選んでよ。僕に気兼ねする必要はないよ。この先自分が必要と思うものを選んで欲しい。これは僕からのお願いだよ」

「ですが・・・」

「なら、これは僕からの命令です。各自将来自分が必要と思うものを選んで授業を受けてください。必要なものは一人一人違うはずです。僕に合わせないこと。これは命令です」


ローたちは少しため息をつき。


「承知いたしました。ですが、くれぐれも単独行動や危険な真似はおやめください」

「分かったよ。心配しなくても大丈夫だよ」


教室に入り、しばらくするとシャーロットやカレンたちが入ってきた。

朝の教室は賑やかさを増していく。


「レンは、選択科目はどうするの」

「魔法学と錬金術を考えているよ。シャーロットはどうするの」

「錬金術はとても興味があるのですが、他をどうするか思案中です」

「よう、お二人さん。仲がええな」

「カレンは、選択科目は決めたのかい」

「まだ、決めてないな。今週中に決めるつもりさ。それより、最近帝都を騒がしている失踪事件を聞いたかい」

「失踪事件・・・」

「エッ、知らんの!今帝都中で話題になっている失踪事件や」


レンは首を横に振る。


「どうやら僕は世間の話題に疎いみたいだね」

「帝都の夜になると、歩いている人間が忽然と姿を消す事件や」

「人が消える」

「ここ1ヶ月で既に5人姿を消している」

「ローは知っているのかい」

ローは大きくため息をつく。

「知っておりますが、レン様はくれぐれも首を突っ込まないようにお願いします」

「そんなに話題になっているなら教えて欲しかったな」

「教えたら、夜道を黙って出歩いたりする可能性がありましたから、申し上げませんでした。レン様がお強いのは分かっていますが、くれぐれも、勝手に夜の帝都を出歩かないようにお願いします」


ローが真剣な眼差しでレンを見る。


「分かっているよ。失踪事件ね・・・」


レンはしばらく考え込んでいた。

その姿を周囲の者たちは少し不安げに見ていた。

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