第49話 襲撃の影響

今朝起きてから学園に登校するまでの間、お爺さまとお婆さまが鎖魔法を見せろと言われ、何度も何度も実演を繰り返す羽目になっていた。

何度も何度もリクエストに答えていたら遅刻しそうになり、慌てて馬車に乗りどうにかギリギリ間に合った。


「どうにか間に合ってよかった。帰りもよろしくお願いしますね」


レンは年老いた御者に声をかける。


「承知いたしました」

「サイラスさんもありがとう。でもわざわざ騎士団長が来なくても護衛なら他の騎士団員でも大丈夫だよ」

「そうはいきません。当分の間は私が警護に同行いたします」


襲撃の影響で警護に10人の青龍騎士団が同行していた。

馬車の中には、同級生でありサイラスさんの娘であるサラも、護衛の一人として一緒に乗っていた。


「ハァ〜分かるんだけど、あまり物々しいのは苦手なんだけど」

「慣れていただくしかありません。くれぐれも勝手に出歩かないようにお願いします。サラ、学園内ではしっかりとレン様をお守りしてくれ、目を離すなよ」

「分かっています。この身に代えてもお守りいたします」


父であるサイラスの言葉に厳しい表情で決意を言うサラ。


「ちょ・ちょっと待って。この学園はセキュリティがしっかりしているから、そんなに深刻にならないでください。もっと楽にして普通にしてください」


校舎の玄関には、ローを筆頭に家臣たちの子弟が出迎えに出てきていた。


「ロー。あまり派手にやらないで、目立ちすぎて問題だよ」

「ですがこればかりは仕方ないかと」

「学園の中ではあまり目立つような真似はやらないで欲しい」

「ですが・・・」

「目立つ真似はやらないで欲しい」

「分かりました。出迎えの人数を減らします」

「わざわざ出迎えはしなくとも」

「これ以上はダメです。全員それぞれの家から申し付けられていますから、全く何もしなければ、たとえレン様の指示でもそれぞれの両親から叱られることになります」

「ハァ〜、分かった。それでいいよ」

「申し訳ありません」


すまなそうに頭を下げるロー。

そこに学園の職員の男性が近づいてきた。


「レン・ウィンダー君。学園長がお呼びだ。学園長室に向かってください」

「これからですか」

「そうです。学園長がお待ちです」

「分かりました。みんなはそれぞれの教室に向かってください。僕は学園長に会って来ます」

「「ですが・・」」


サラやロー達が不満そうな表情をする。

その様子を見ていた学園職員が微笑みながら声をかける。


「この学園のセキュリティは帝都でも指折りです。一見何もしていないように見えて、幾重にも魔法陣や魔道具などで守りを固めています。学園の職員も皆魔法使いですよ。そしてこの学園の学園長は帝国随一の魔法使いです。余計な心配はしないで、学生は学生らしくして、警護の真似事はせずにしっかり学びなさい。警護は専門家に任せるのが一番ですよ」

「みんなは心配せずに教室に向かってくれ」

「分かりました」


渋々承諾してそれぞれの教室に向かった。

レンは、学園長の部屋に向かう。

学園の奥にある学園長室。

そこに向かう通路を神眼を発動させながら歩くと巧妙に隠された魔法陣と魔道具が見える。

最低でも鑑定の魔眼がなければ見破れないほどに巧妙に隠されている。

侵入者の姿を記録する魔道具。

動きを止めさせ捕縛する魔法陣。

魔法の発動を阻害する魔法陣。

よくもこれだけ様々な仕掛けを組み込んだものだと感心してしまう。

通路でこれなのだから、学園全体を神眼で見たらどれほど隠されているやら想像もできない。

そんなことを考えながら歩いていると学園長室に到着した。

ドアをノックしようとしたら中から学園長の声がした。


「開いているから入ってくれ」


部屋の中にいて外の様子が分かる魔法陣か魔道具まであるようだ。

レンは学園長の声に従ってドアを開けて部屋の中に入った。

中には学園長アリシア様と担任のルミナス先生がいた。


「そこに座ってくれ」


向かう会う形でソファーに座る。


「昨日は大活躍だったそうじゃないか」

「ルミナス先生。たまたまです」

「この場の会話は外には漏れないよ。先生なんて呼ばないでルミナスとだけ呼んで欲しい」

「先生は先生ですからダメです」

「使徒様、そんな風に言わないで」

「僕を使徒様と呼ばないなら良いですよ」

「エ〜、それはできません」

「じゃダメですね」


レンはあっさりとルミナスの要望を却下する。


「ルミス師匠。いや、ルミナス先生。だから言ったでしょ、そんなこと却下されると」

「そんなこと言っても・・・」


アリシア学園長は微笑ましく自らの師匠を見つめている。


「まったく、師匠は使徒様のことになると人が変わる。もう少し理性を持って欲しいですね」

「ところで、ここに何のために呼んだのですか。昨日のことでしょうか」

「そうだよ。心当たりはあるかい」

「おや、最初から僕が狙われたような口ぶりですね。通り魔的な犯行かもしれないじゃないですか。もしくは帝国に恨みをもつものとかあり得るでしょう」

「レン君以外、考えにくいだろ」

「学園長が相手ですから、ぶっちゃけた話し、心当たりが多いので特定は難しいかと思いますよ。物的証拠も残ってないでしょうから」

「もうその歳でそこまでかい。ハワードを超えてるよ」


アリシア学園長は少し呆れた表情をする。


「僕個人であれば両親がらみか、ウィンダー領で始まった新商品販売で割を食った者達あたりでしょうし、祖父母がらみなら裏社会の連中でしょうから特定は難しいのでは」

「なるほど、あのワインを飲んだら他のワインは飲めないからね」

「知らぬところで恨みを買っている可能性もありますから、正直分かりませんね」

「だが、今回は物的証拠は無いがある程度実行犯の目星はついている」

「実行犯の目星はついているのですか」

「衛兵隊ではなく、帝国情報部からの話しだ」

「帝国情報部ですか、普通そんなところが学園に情報を流さないでしょ」

「レン君。もう少し自分の立場を自覚した方がいい。君は第一皇女殿下の婚約者。その立場はとても重いのだよ。そのために、陛下から情報がもたらされたのだ」

「陛下とシャーロットがらみですか」

「実行犯は金で雇われた冒険者崩れだが、背後にはグレイン王国の暗部がいる」

「それが本当なら、両親も絡んでますね」

「おそらくな。だが物的証拠が無いからどうにもできん」

「それでどうするのですか」

「学園内は守りは固めているが外は別だ。学園の外ではしっかりと守りを固めるようにして欲しい」

「学園内なら、おびただしいほどの魔法陣や魔道具で守られてますから安心ですね」

「ほぉ〜、魔法陣や魔道具を見破るとは、教師でも全てを見破ることはできないのだが、使徒様の力なのかい」

「そこは秘密ですよ」

「へぇ〜、秘密ね」

「お話は分かりました。できるだけ注意を払っておきます。心配なく」

「やり過ぎないようにしておくれ」

「・・・心に留めておきます」


レンは学園長室を出て教室に向かうにであった。

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