第48話 情報
ジャイアント・ボアの出現と暴走。
自爆爆発でボロボロになり既に事切れている男。
怪我をして呻き声を上げる人々。
そんな状態の場所にようやく帝都を守る衛兵隊がやってきた。
怪我人の救護と討伐されたジャイアント・ボアの確認。自爆した男の見聞。手早く手分けをして行動を開始した。
衛兵隊の隊長らしき人物がレンに近づいてくる。
「第5衛兵隊を預かるジャック・オリビスと申します」
広い帝都の治安を維持するため帝都治安維持衛兵隊として第1〜12までの部隊が組織されていた。この区域は第5部隊の預かる地域であり、人員は約300名の部隊であった。
その言葉を受けてサイラスが答える。
「私はウィンダー侯爵家に仕える青龍騎士団団長サイラス・レンブラント。そしてこちらにおられるのが、レン・ウィンダー侯爵様ご本人である」
衛兵隊隊長ジャック・オリビスの表情が強張る。
帝都の治安を維持する衛兵達からすれば、最も気を配らなければならない人物の内の一人が目の前にいた。
皇帝陛下の後ろ盾を得ていて、さらに第一皇女殿下の婚約者で、幼いながらも現役の侯爵当主でもある。
何か問題が起きたら1発で自分たちの首が飛ぶ。
「こ・これは失礼いたしました。改めてご挨拶いたします。帝都治安維持第5衛兵隊隊長ジャック・オリビスと申します」
「レン・ウィンダーと申します。今は私的な場ですので、爵位は気にしないでください。それとこのような状況ですから、貴族の言葉遣いや礼儀作法はしなくて結構です。いつも通りでお願いします」
「そのように言っていただけると助かります。それで、ここで何が起きたのか教えていただけますでしょうか」
「私と護衛の者達がここに差し掛かった時に正面から突如ジャイアント・ボアが人々を跳ね飛ばしながら突進してきました。すぐに私の魔法でジャイアント・ボアの動きを阻止したところ、ジャイアント・ボアの背中に隠蔽系の魔法で姿を隠していた者がおり、その者も一緒に魔法で捕獲したところ魔法で自爆してしまいました。他にも仲間がいたようですので、私の護衛の者が後を追っております」
「自爆した襲撃者は、あそこで黒焦げになっている者ですか」
「そうです」
「しかし、魔法の鎖ですか。聞いたこともない魔法ですね」
「一応、極秘の魔法ですので」
レンは、出来立ての魔法ではあるが秘伝の魔法であるかのように話して、魔法について追及させないようにした。
魔法使いの秘伝などには触れてはならないと言われるからであり、余程の事がない限りこのように言っておけば、これ以上魔法に関しては聞いてこないからである。
「極秘ですか。承知しました」
そこに、逃げた襲撃者を追っていたレンの護衛が戻ってきた。
「レン様。申し訳ございません。逃げられてしまいました」
「逃げられたものは仕方ありません。相手が1枚上手だったと言うことでしょう」
「賊を追っていた護衛の方でしょうか」
「はい」
「顔は見ましたか」
「逃げる背中を見て追っていましたので、顔は分かりません。他にも仲間がいたようで、魔法による妨害を受けたため、追跡を断念して戻ってきました」
「そうですか、それは残念です。ところでウィンダー侯爵様は、何か気が付いた点や事件を起こした賊について心当たりはございますか」
「いえ、全く分かりません。予定が空いていたので急遽帝都の散策に出たら、事件に遭遇してしまいましたから驚いています」
「では、後で何か気が付きましたら第五衛兵隊へお知らせください」
「分かりました。私たちは屋敷に戻ります」
「ご協力ありがとうございました」
ーーーーー
帝都裏通りを身なりの良い老人が一人歩いている。
勝手知ったる道のように迷う事なくどんどん進んでいく。
途中何度か老人を獲物として狙う輩が近づいてくるが、老人から放たれる強烈な殺気でたちまち戦意を喪失して、道を開けることになる。
一軒のこぢんまりとした小さな酒場の前に立ち止まる。
「まだ、やっているとは」
老人はそう呟いて店の中に入っていく。
店の中には客は居らず、カウンターの奥に店主らしき男がグラスを磨いていた。
「ブラン。まだ生きていたか」
グラスを磨いていた男は、手を止め声のした方を向く。
「フン。なんだハワードか、お前こそまだ生きていたのか。まぁ、お前さんなら迎えに来た死神も倒してしまいそうだから簡単には死なんか」
ハワードはカウンターの席に座る。
注文も聞かずにグラスに酒を注ぎハワードの前に置く。
「ここは変わらんな」
「お前さんがバカをやらかしていた学生時代から変わらんよ。お前さん達ほどここを騒がせる奴らはいなかったから、あの頃に比べれば平和だな」
「ハハハハ・・そうかもしれん」
「それで、どんな情報が欲しい」
ここは、昔からハワードが使っていた帝都随一と言われる情報屋であった。
「帝都の中で5mを超えるジャイアント・ボアを持ち込み、暴走させた連中の情報」
「ああ、あれか。確かその場にお前さんの孫がいたんだったな。話題のウィンダー侯爵様。なかなかの逸材らしいじゃないか。話題性から言ったら既にお前さんといい勝負だな」
「儂の孫だから当然じゃろう。それで情報はあるのか」
「情報はある。だが、かなり面倒な案件になる。この情報は高いぞ」
ハワードは無造作に重そうな皮袋をカウンターに置いた。
「金貨100枚ある」
「十分だ。多すぎるくらいだ」
「あまりはチップだ」
「承知した。グレイン王国の暗部が関わっている」
「何、グレイン王国だと」
グレイン王国は帝国の北部に位置していて、現在は平和になっているが、過去に何度も戦っている相手であり、お互いに因縁の相手でもある。
「グレイン王国暗部の連中は既に帝都にはいない。実行犯は、金で雇われた冒険者崩れの連中だ。今回の襲撃は、警護とウィンダー侯爵の実力を試すのが目的」
「ならば、エレンとファーレン家も関わっていると言うことか」
「可能性は高いだろうが、三者間のやり取りまでの情報は無い。あくまでも推論でしかない。ただ、かなり疎ましく思われていることは確実だな。ウィンダー侯爵の件で何度も手紙でやり取りをしているらしい。それと、逃げた実行犯は既に消されているから実行犯から追うことは無りだ」
「既に消されているのか」
ハワードは逃げた実行犯を追うことを考えていただけに少しショックであった。
「敵もウィンダー侯爵の実力を見せつけられたから、そうそう滅多なことはしないだろう。見たこともない鎖魔法を使ったそうじゃないか」
「鎖魔法・・・」
「知らないのか、ウィンダー侯爵が敵とジャイアント・ボアを捕縛するのに使った魔法だ」
鎖魔法のことは聞かされていないハワードは、新しい魔法と聞いてすぐにでも鎖魔法のことを聞かねばとならないとの思いが強くなる。
「急用を思い出した。また、情報が入ったら教えてくれ」
ハワードは急いで屋敷に戻っていくのであった。
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