第47話 鎖魔法
「敵を安全に無傷で制圧して拘束する魔法」
学園から帝都の屋敷に帰ってきて早速拘束する魔法についてお婆さまに尋ねてみた。
お婆さまは、ソファーに座りながらしばらく考え込んでいた。
「氷魔法で拘束することはできるが、長時間の拘束には向いていない。氷の鎖で抑えることもできるが拘束時間が長いと鎖の冷気でその部分が壊死してしまう恐れがある。氷魔法で行うとしたら、氷の牢獄を一瞬のうちに周囲に作り出して閉じ込めることかね。レンの力であれば、氷壁の応用だから簡単だよ。他には、土魔法で一瞬のうちに相手の足元に深い穴を掘り、穴に閉じ込める。土魔法で檻を作り出し閉じ込める」
「落とし穴を作ることと四方に壁を作り閉じ込めることですか。確かにそれなら今の魔法でも簡単にできます」
「後は魔法で何らかの物を物質化できて拘束できるようにすればいい。一番いいのは影魔法や闇魔法のバインドなんだが、影魔法や闇魔法が扱えないと使えない。やはり、今扱える魔法をベースに考えると四方を壁で囲って牢獄に閉じ込めるか穴を作り出して閉じ込めるくらいかね」
「お婆さまありがとう。色々と試してみます」
「上手くできたら教えておくれ」
レンは庭の奥の方に向かう。
話していて思いついたことがあり、それを試してみることにしたのだ。
庭の奥には世界樹の苗木を隠してある。
周辺に人がいないことを確認してから、世界樹の苗木の前で地面に座り込む。
すると世界樹の精霊ユグが現れた。
「レン。どうしたの」
「これから新しい魔法を作ってみようと思う」
「新しい魔法?」
「スキル【木】の‘’木製品製造‘’はレベル【Ⅷ】になっている。レベル【Ⅷ】はアマダンタイトの如き特性を持つ木製品を作り出せる。それを利用して一瞬のうちに鎖を作り出して敵を拘束する魔法を作ろうと思う。アマダンタイトの如き特性であれば、硬くそして重いので簡単には引きちぎることもできないだろう。それに以前、シャーロットにあげたペンダントを作るときに、レベル【Ⅶ】のミスリルの特性を持った、ペンダントとペンダント用の小さなチェーンを作っているから、それを応用して拘束魔法に仕上げようと思う」
「ヘェ〜、そんな魔法を作るのか。それなら拘束するだけじゃなくて敵を攻撃できるようしてもいいんじゃないかな」
「それもいいね、組み込んでやってみるか。ユグ、悪いけどしばらく周囲に気を配ってほしい。草木の精霊たちも邪魔が入らないように見張っておいておくれ」
「「「「「任せて」」」」」
精霊たちの嬉しそうな声を聞き、レンは準備に入る。
並列思考を起動させ、次に頭脳強化魔法を使う。
レンの周囲にいくつも魔法陣が浮かぶ。
スキル【木】を使った魔法作りを始める。
作り出す鎖をイメージする。
敵や状況に合わせて鎖の大きさと太さを3段階に分ける。
どんな風に鎖を飛ばして敵を拘束するのかをイメージする。
鎖を飛ばす速度なども考えていく。
レンの中に新しい魔法陣が形成されていく。
並列思考と頭脳強化魔法をフルに使用してゆっくりと作り上げていく。
鎖の形、強度、大きさ、発射速度、拘束時の捉え方、鎖の動かし方、耐火性能をじっくりと組み立てていく。
有効距離を1kmにして魔法を発動させようとしたら魔法が発動しなかった。
有効距離に問題があったようだ。
最適な有効距離を探りながら修正を加えていく。
有効距離を200mにしたら魔法が発動した。
空中に小さな魔法陣が出現。
空中に浮かぶ小さな魔法陣から黒い鎖が飛び出して、一瞬で巨木に鎖が巻き付いた。
「ふ〜。どうやら上手くいった」
レンの顔に薄らと汗が浮かんでいる。
レンは神眼を使いスキルを確認する。
スキル:
木 Lv8
・木製品製作 【Ⅷ】
鎖魔法 (NEW)
・魔力吸収 【Ⅲ】
・木と森と大地の恵み【Ⅶ】
・ウッドゴーレム
・神像作成
・植物創造
・神器作成
神眼でみるとしっかりと木製品製作の派生スキルの形で鎖魔法が作られていた。
「レン。これすごい。一瞬で鎖が巻き付いた」
「これなら大概の相手を一瞬で制圧できそうだ」
「大概の相手どころか、これ切るの無理じゃないの・・まず無理だよ」
ユグは、鎖に触れながら呟いている。
「強度はアマダンタイトと同じだからね。人間に引きちぎるのは無理だと思う」
「これを引き千切れるとしたらドラゴンぐらいだよ」
「一応、相手によって鎖の太さや大きさを変えることができるようにしている」
「・・・一体何を捕まえるつもりなの」
「敵対した相手を出来るだけ無傷で制圧して捉えるためだよ。これなら逃げれないだろ」
「まあ、確かに、でも強力すぎないかい」
「安全に確実に拘束できる手段が増えることはいいことだろう」
「それはそうだけど」
「後はひたすら練習して加減を覚えれば使い道が広がる」
レンは、しばらくの間繰り返し鎖魔法の発動を繰り返して、練習を続けていた。
翌日、週末のため学園が休みのため帝都内をみて回ることにした。
裏口からそっと出て行こうとしたら声がした。
「レン様、お一人でどちらに行かれるのですか」
「えっ」
思わず後ろを振り返ると厳しい表情のメイド長のライムさんがいた。
「レン様は、すでに現役の侯爵様です。帝都内を勝手に出歩く真似はおやめください」
「ハハハ・・すいません」
「何度も危険な目に遭っているのです。少しは自重していただきたいです」
「は・はい・・」
ライムさんの後ろに青龍騎士団の3名がやってきた。
「レン様、出歩く時は私たちをお呼びください」
騎士団長のサイラスさんにしっかりと釘を刺されてしまう。
「ほんの少し息抜きなんですよ」
「多くの敵がいる事はご存知ですよね。すでにレン様は魔法も剣術も一流と言っていいかと思いますが、侯爵家当主が一人でフラフラと出歩くのは感心しません。必ず複数の者と行動するようにしてください」
「は・・はい・・」
騎士団長サイラスさんの厳しい言葉に同意するしかなかった。
やむなく、サイラスさんを含めた3名の護衛とともに屋敷の外に出る。
馬車は使わずにゆっくりと歩いていく。
よく晴れ渡った空の下、穏やかな風と柔らかい日差しを受けながら帝都の街中へと進む。
帝都市街に近づくにしたがって人が増えていく。
「今日はいつもより人が多いね」
「今日はバザールの日ですから、多くの露天が立ち並ぶ日です」
「そんなに露天が出るの」
「通常の倍近い露天が立ち並びます」
「ヘェ〜、それは楽しみだ」
前方から突然悲鳴が上がる。
「なんだ」
前方で多くの人たちが逃げ惑いながら悲鳴を上げている。
5mを超える巨体のジャイアント・ボアが人をは跳ね飛ばしてこちらに向かってくる。
「馬鹿な、帝都の中に魔物だと」
「レン様こちらに」
『危険だよ、隠れて狙って人がいる』
精霊達の警告が聞こえた。
警告と同時に矢が放たれレンに向かって飛んでくる。
レンは、間一髪白銀の盾を作り出して矢を防ぐ。
同時に神眼を使い周囲を見る。
屋根の上に1名と、こちらに向かってくるジャイアント・ボアの上に、隠蔽魔法で姿を隠して乗っている男が見えた。
騎士団の一人が弓使いを追う。
レンは、鎖魔法を発動する。
10本以上の黒い鎖が、ジャイアント・ボアとその上で隠れて操っている男を一瞬で絡め取り、動きを抑える。
「サイラスさん。ジャイアント・ボアの上に操っている者がいます。その者も鎖で捉えてます」
サイラスがジャイアント・ボアの上を見ると人の姿がないのに何かに巻きついている状態になった黒い鎖が見えた。
必死に鎖を振り解こうとするジャイアント・ボアと操っている男。
サイラスはすぐにジャイアント・ボアを打ち取ると男の隠蔽魔法も切れて転がり落ちる。
「ク・クソッ・・何だこれは」
「それは魔法で作られた特殊な鎖。ドラゴンでもない限り、引きちぎることはできない。諦めろ。誰の指示だ」
「死ね・死ね死ね・邪魔者は残らず死ね・・・・・」
捉えた男の様子がおかしい。
男が赤い光に包まれ始める。
「いかん」
レンはすぐさま男の周囲に氷の障壁を幾重に張り巡らすと同時に爆発が起きた。
レンが氷の障壁を張ったお陰で周囲に被害は出ることがなかった。
一瞬で5重の障壁を張ったが2枚まで割れており、かなりの破壊力のある爆発だったことがわかる。
穏やかな時間が一瞬で騒々しい時間へと変わっていた。
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