第46話 見ないふりは出来ず!
学園に通い始めて1週間がたった。
初日から担任であるルミナスの厳しい言葉のためか、Sクラスの中には親の爵位や貴族であることを笠に着る行為をするものはいなかった。
第一皇女と現役の侯爵がいる場所でそんな事をする馬鹿は、流石にいないようだ。
ただ、他のクラスではそんな事をする者がいると噂になっている。
いま、1限目の授業が終わり、次の2限目の授業までの合間に多くの生徒が移動をしていた。
レンは、シャーロット、カレン、ロー、サラ達と共に、次の授業のために魔法練習棟に向かっていた。
昔々、お爺さまが完全破壊をやらかした場所。
「Sクラスのみんなは向上心に溢れていてすごいよね」
「レン様。それは当然でしょう。向上心があり、人格が優れ、立場と礼儀をわきまえた者がSクラスなのです」
まるで従者の如く付き従うローがSクラスの説明を始めた。
「Sクラスでありながら傲慢なものは、軽蔑の対象となります」
「そ・そうなんだ・・」
「Sクラスは、知力・魔力・武力・人格が優れた者たちの集まりなのです。特に人格に問題があればSクラスにはなれません」
「厳しいね」
「当然です。ですからSクラスというだけで尊敬の対象になるのです。当然、Sクラスの生徒はSクラスに誇りを持っていますから、Sクラスを死守しようと必死になります」
「なるほど、そこで切磋琢磨することになるのか」
レンの目に校舎の外の片隅で何か揉めているような人たちの姿が見えた。
レンは校庭の草木の精霊達を念話で呼ぶ。
すぐにレンの周りに小さな精霊達が集まってきた。
『あそこで揉めているようだから、どうなっているのか教えてくれるかい』
『少し待ってて、すぐに調べるよ』
小さな精霊達は、嬉しそうにレンの頼みを聞き入れ、揉めている人混みに向かう。
『使徒様。一人の男の子がいじめられてるよ。いじめている子たちが自分達が偉いとか、貴族は偉いとか言ってるよ』
『ありがとう。すぐそこに行くよ』
レンは、すぐさま身体強化を使い、あっという間に虐められている少年の下に向かう。
ローとサラはあっという間に身体強化で移動するレンについて行けず思わず声を上げる。
「「レン様」」
ロー達の声を振り切るように猛スピードで駆け抜ける。
「平民のくせに生意気なんだよ。武術や魔法も大したことないのによ!跪いて犬にでもなれ」
赤い髪をした大柄の少年が少し小柄の金髪の少年を睨みつけている。
「僕が何をしたというんだよ。何もしてないじゃないか」
「その言い草が気に入らねえんだよ」
赤い髪の少年が拳を振り上げて殴ろうとする。
少年が殴られようとした瞬間、少年の周りに氷の障壁が作られた。
赤い髪の大柄な男が少年を殴ろうとして拳で殴りかかった瞬間、その拳が氷の障壁にぶち当たり、氷の障壁を生身の拳で殴ったため痛みで叫び声が上がる。
「氷の障壁だと、こいつにはできない。誰だ、氷の障壁を張った奴は」
「一人を寄ってたかっていじめるのは、みっともないと思うが」
「貴様かこの障壁を張ったのは、邪魔をするな」
「学園内で無闇に暴力を振るうのはやめるべきだと言っているだけだよ」
「平民如きどうなろうが問題ないだろう」
「平民如き。ヘェ〜、そんな言い草をするということは貴族なんだ。貴族の質も落ちたもんだ」
「なんだと!貴様、俺様がワーレン伯爵家の人間と知っての暴言か」
「ワーレン伯爵ね」
「どうだ、恐れ入ったか」
「でも、それは君のお父様が伯爵なのであって、君が爵位を持っている訳ではないよね。つまり爵位の無い者が勝手に爵位を笠に威張っているということだよね。みっともない。この学園では爵位を笠に人をいじめることや威張り散らすことは禁止のはずだよ」
「貴様」
ワーレン子爵家の少年は、火魔法を発動させ火を拳に纏わせて殴りかかった。
だが、その攻撃はレンの氷の障壁に阻まれる。
そこにローとサラが駆けつける。
「貴様ら、ウィンダー侯爵様に襲い掛かるとは何事だ」
ローの怒りの声が校庭に響き渡った。
「えっ・・ウィンダー侯爵」
「そうだ。このかたはレン・ウィンダー侯爵様ご本人である。貴様らの魔法を使った攻撃行為は侯爵様への殺人未遂行為にあたる」
「そ・そんな・・馬鹿な・・・ウィンダー侯爵・・本人」
ローの声を聞きつけた学園の職員と上級生達が駆け寄ってくる。
ワーレン伯爵家の少年と仲間達が逃げ出す。
レンが魔法を使おうと思ったが、自分の使う魔法は威力が強すぎるものばかりで、拘束するのに向いている魔法が無いことに気がついた。
「しまったな」
少し遅れて駆け寄ってきたシャーロットとカレン。
「どうしたのですレン」
「シャーロット。僕が使える魔法は威力の強すぎるものばかりで、拘束に向いた魔法が無いことにいま気がついたんだ。普通に魔法を使ったら相手が大怪我をしてしまう。最悪死んでしまう」
レンが普段から大精霊たちと高レベルの魔物相手に特訓ばかりしている弊害であった。
普通の人とは逆に高威力の魔法しか使えないと言うレンの言葉に、周囲の人たちはドン引きしていた。
「攻撃と防御ばかりでは無く、もう少し色々な魔法を覚えておく必要があるな」
「ルミナス先生から教えてもらいましょう」
シャーロットの言葉に素直に頷けないレンであった。
ルミナスに頼むと喜び勇んで教えてくれるだろうが、ルミナスの性格からして他の生徒のことをほっといて自分にかかりきりになるのは確実。
それはそれで問題だろう。
やはりお婆さまと精霊達に頼むのが一番いいだろうと考えるのであった。
しばらくするとワーレン伯爵家の少年と取り巻き達が、学園の職員と上級生達に拘束されて連れて行かれるのが見えた。
一人の上級生が近づいてきた。
入試の時に案内をしてくれたシャーリーさんであった。
「レン君。入試以来だね」
「シャーリーさん。助けていただいてありがとうございます」
「レン君が相手なら誰も君に勝てないよ。私たち生徒会役員は単に捕まえただけ」
「いえ、助かりました」
「それで一体何が起きたの」
「ワーレン伯爵の子息が、この生徒をいじめていたので止めに入ったら、拳に火魔法を纏わせて殴りかかってきました。そのため氷の障壁で防いだところに、同級生が駆けつけてきてくれて、彼らが逃げ出したのです」
レンは虐められていた生徒を示しながら話した。
シャーリーは、レンが虐められていたと説明した生徒に話を聞く。
「生徒会役員で4年生のシャーリーといいます。君の名前は」
「は・はい。1年Cクラスのウィルと申します。平民です」
「この学園内では、爵位や権力を笠にきた行為は禁止されている。彼らにはしっかりとした懲罰が下されることになる。もしも、また彼らが脅かすようなことをしたら、遠慮なく生徒会の申し出てくれ。力になるよ」
「シャーリー様、ありがとうございます。レン・ウィンダー侯爵様、お助けいただきありがとうございます」
ウィルと名乗った少年は、平民と言っているがしっかりとした礼儀作法を見せた。
それなりの教育を受けているようだ。
「偶然、通りかかっただけだから、全く気にしなくとも良いよ。今度はいつでも気軽に声をかけてくれ」
「そんなお恐れ多い」
「そんな大袈裟だよ。気にしないでくれ」
レンはそれだけ言うと次の授業が行われる魔法練習棟に向かって歩いていく。
レンの周囲にシャーロット、カレン、ロー、サラがやってきた。
「レン様。万が一のことがあったらどうするのです。無茶なことはおやめください」
ローは心配のあまり怒っていた。
「ローだけではありませんよ。みんなが心配していたのですよ。少しは自重してください」
シャーロットも怒っていた。
「ごめん」
レンは、みんなが怒っている姿を見てしばらくは自重することにした。
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