第45話 学園長の師匠

突然、教室のドアが開き学園長が入ってきた。


「みんな、席につきな」


慌ててみんな指定されている席につく。


「席についたね。それじゃ改めて自己紹介をしよう。この学園の学園長であるアリシア・ガーランドだ。よろしくな。諸君1年Sクラスは入学試験上位20名で構成されている。だが、これは絶対ではない。年間成績の出来不出来で来年のクラスが決まる。Sクラスを維持できるように頑張りたまえ。Aクラスの連中もSクラスに上がろうと頑張っている。うかうかしていると足元を掬われるぞ」

「あの〜」

「レン・ウィンダー、何か質問か」

「このクラスの担任は学園長なのですか」

「フフフ・・・これから紹介をしようと思っていたところだ。当然、担任はいる。今回はこのクラスのために特別に用意した魔法のスペシャリストだ。私以上に魔法に詳しいぞ」

「えっ、アリシア様より魔法に詳しいのですか」


100年以上この学園の学園長であり、この国の魔法の頂点に君臨しているアリシアよりも、魔法に詳しい人物と言われ、Sクラスにどよめきが起きる。


「当然だ。私の師匠の姪だからな」

「えっ、アリシア様の魔法の師匠の姪・・・」


教室に一人の女性が入ってきた。


「紹介しよう。我が師匠のルミス様の姪であるルミナスだ」


ルミナスと名乗ったエルフは、若返ったエルフの女王ルミスであった。


「私がルミナスだ。よろしく」


威厳のある声が教室に響き渡る。

女性との一人が小さな声で質問をする。


「あ・あの〜」

「何か質問か」

「エルフでアリシア学園長の師匠ルミス様の姪とのことですが」

「私は元エルフの国の女王ルミス様の姪。ルミス様は既に女王を私と同じ姪であるリリスに譲り引退された。その時にルミス様より、アリシアのところで教師をしてみないかと言われたので引き受け、このSクラスを受け持つことにした」



帝国一の魔法使いであるアリシア学園長の師匠は、エルフの女王ルミスであることは有名である。

アリシア学園長は帝国一の魔法使いと言われているが、そのアリシア学園長が敵わないと言っている相手が師匠であるルミスであった。

女王ルミスから魔法の手解きを受けた数少ない一人がアリシア学園長であり、他の方もこの世界では有名な魔法使いばかり、人間も3人いたが既に亡くなっていて、この時代でルミスから手解きを受けた魔法使いで生き残っているのはエルフ達だけとなっていた。


「全員に伝えておく。弱者をいたぶるような行為、権力や爵位を笠に着る行為は認めん。親がどのような地位にあろうと許さんからそのつもりでいなさい」


威厳のある声が教室に響き渡った。それを聞いた生徒達は表情を引き締める。


「それでは、入試の成績順に簡単な自己紹介をしてもらおうか」


ルミナスは、こちらを向くと少し嬉しそうな表情をする。


「では、主席のレン・ウィンダーから順番にやってくれ」

「はい、レン・ウィンダーと申します。陛下よりウィンダー侯爵を賜っております。得意魔法は水魔法と氷魔法になります。皆と切磋琢磨して有意義な五年間を過ごしたいと思います。気軽にレンと呼んでください」

「フフフ・・現役の侯爵家当主。発展著しいところだな」

「シャーロット・アラステアと申します。レン・ウィンダー侯爵の婚約者になります・・・・・」


シャーロットがレンの婚約者だと言った瞬間、ルミナスからほんの一瞬だけ殺気が漏れてきた。

そして、目つきがとても鋭い。


「ほ〜、婚約者!婚約者ね!!!」

「ル・ルミナス。人間の世界、特に貴族社会は婚約者を早い時期に親が決めることが多いのですよ。決してふざけている訳ではありませんから。さぁ、次だ次、早く早く、次だ。次の自己紹介しなさい」


アリシア学園長が焦ったように慌てて次の自己紹介を促す。


「は、はい。うちはカレン・ユーラシオン・・・・」


自己紹介が続いていくが先ほどのルミナスの殺気でみんなの自己紹介が頭に入ってこない。

昔からあんなふうに殺気を漏らす時は、メチャクチャ機嫌が悪い。

おしゃべり好きの泣き虫ルミスの機嫌をとることが大変だった記憶が蘇る。

そして、あっという間に自己紹介が終わった。


「今日はこれで終わりだ。帰っていいぞ。あとレン・ウィンダーは今後のことがある。この後、学園長室にきてくれ」


アリシア学園長がそう言ってルミナスと共に教室から出ていった。

皆は緊張感から解放されほっとしている。

こっちはこれからが本番だ。

気が全く抜けない。

学園長室に向かおいとしたら、ローとサラが近寄ってきた。


「「レン様。我らもお供いたします」」

「いや、一人で行くよ。色々な話が出るだろうし、場合によっては公にできないことも出るかもしれないしね」

「分かりました。近くでお待ちしております」

「大丈夫だよ。先に帰っておいて、シャーロットもね」

「レン。分かりました」


ーーーーー


学園の奥にある学園長室に歩いていく。

学園長室と書かれた部屋の前にたどり着いた。

ドアをノックする。


「空いている。入ってくれ」


アリシア学園長の声がする。

レンはドアを開いて中に入る。

中に入るとソファーにアリシア学園長とルミナスが座っている。


「座ってくれ」


アリシア学園長の進めで向かい合う形で座る。

学園長にルミスがどこまで話しているのか分からない。

ルミスとは呼ばずにルミナスと呼んでおいた方がいいかもしれない。

秘書の方がお茶を出してくれる。

秘書の方が部屋から出ていくと魔法が発動された。


「念のため、遮音の魔法と魔道具を発動させた」

「かなりの念の入れようですね。ところで、何のために呼んだのですか」


アリシア学園長は、レンの言葉に大きくため息をつく。


「ハァ〜・・まあ、レン・ウィンダー。分かっているのだろう。ルミナスは本当は誰なのか」

「何のことでしょう」


しばらくの間、沈黙が支配する。

学園長は再びため息をつく。


「エルフの国の前女王ルミス様は、常に冷静沈着であるがたったひとつだけ冷静でいられず、感情を優先させることがある。分かるかい」

「さっぱり」

「慈母神アーテル様の使徒様のことだけは、自らの感情を優先させる」

「それと、今回の件はどう繋がるのです」

「ある日、ルミス様が突然若返った。そして、リリス様に強引に女王の位を押し付けて、ルミナスの名前でここの教員にさせろとねじ込んできた。教員にさせなかったら各種霊薬は帝国に売らんと言われた」

「ハァ〜・・・強引ですね」

「そう思うだろう」


アリシア学長は隣で済ました顔でお茶を飲むルミナスを見る。


「ルミス様がこんな強引な行動を起こす。突然の若返り。このことから考えられるのは、使徒様が現れたことを知り、そして会われその力で若返りの奇跡が起きた。さらにこの学園に入学することを知ったからだ。ルミス様に私の推理を突きつけ、答えるまで認めないと言ったら認めてくれました。ルミス様は昔から嘘をつく時は独特の癖がありましたし、私には嘘を見破るスキルもありましたから簡単でした」

「ちょっと、アリシア。そんなスキルを持っているなんて初めて聞きましたよ」

「自らの手の内は師匠でも教えないものですよ」


アリシア学園長は不敵な笑みを見せる。

レンは大きくため息をつく。


「何でそうなるのかな〜。大騒動になると言ったじゃないですか」

「私は絶対に使徒様のそばにいると決めたのです」

「エルフの国は大丈夫なのですか」

「先週姪のリリスの女王を任せた。今はしがない、いち教師です」

「ルミス師匠。リリスはだいぶ怒ってますよ。勝手すぎると」

「いつも女王は気楽でいいですね、羨ましい、などと抜かすから委任状を書いてやっただけです。望み通りになったのだからきっと涙を流して喜んでいるはずです」

「あ〜、確かに涙を流してますね。違う意味でですけど。あまりの激務で休む間がないと泣いてますね」

「今まで楽をしてきたのです。望んだ通り女王になったのです。死ぬ気で頑張ればいいのですよ」

「僕のことはどこまで広がっているのですか」

「リリスとアリシアには誓約の魔法をかけて誓わせてありますから大丈夫です」

「これ以上広がるようなことはやめて下さい。これ以上広がるなら全てを投げ捨てて精霊の森の奥地に引っ込みますよ」

「え〜そんな〜!」

「普通にしてもらえればいいのですが、その普通が難しいのでしょう。なら、せめて余計な情報を周りに与えないようにしてください。ルミス様いいですね」

「今はルミナスです」

「・・・ルミナス様、お願いします」

「使徒様のお願いであれば、お任せください」


ルミナスことルミスは笑顔で答えるのであった。

そして、レンは渋い表情となっていた。

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