第44話 入学式
今日からいよいよ帝都学園に通う日々が始まる。
地方からの者たちは寮が用意されており、帝都に屋敷や家があるもの達はそこから通うことになる。
クラスは入試成績の上位順になる。
成績上位20名は特別クラスになるSクラス。
あとはA〜Fに分かれる。
Aクラスは30名、Bクラス30名、Cクラス40名、Dクラス40名、Eクラス50名、Fクラス50名の定員となっている。
年一回、年間成績でクラスの入れ替えが行われるが、過去の事例からSクラスから落ちるものは、絶対では無いがほぼいないそうだ。
広い講堂に集められた新入生は、クラス順に座る椅子が指定されている。
特にSクラスは成績順で座る場所が指定されている。
一目で誰がトップか丸分かりだ。
入学式は長い時間かかると考えていたらことのほかあっさりと終わった。
学園長の挨拶だけだった。
例年だと相当な長時間になるそうだが、あまりに長いため批判が出ていたため、この際だからと余計な部分をバッサリと切り捨てたためらしい。
さらに親族参加まで禁止となっていた。
例年、貴族の親が難癖をつけるため式が進まないことが多かったことが原因だったため、これもこの際無くそうということで決まったらしい。
お爺さまがだいぶ不満を言っていたが、学園長には頭が上がらないらしく屋敷で大人しくしている。
帝国内には他にもいくつか学校はあるが、最も格が高いのがここ帝都学園であり、帝国貴族の多くがこの学園出身。
つまり学園長の教え子みたいなもの。
そのため、怒らせた時の恐ろしさを貴族たちは皆知っているため、学園長に対しては誰も直接文句を言わない。いや、文句を言えない。
新入生はそれぞれの教室へと向かう。
教室に入ると全ての机に名札が置かれ、席が指定されていた。
机も椅子もSクラスに相応しくかなり良いものが用意されている。
指定された席に座ると自分の隣は婚約者でもあるシャーロット様。
「レンの隣で良かった」
シャーロット様がニッコリと微笑んでいる。
「シャーロット様の隣に座れて良かったです」
するとシャーロット様が少しむくれたような表情をした。
「婚約者なんですから、様はつけないでください」
「えっ・・いや、それは流石に・・・」
「ダメです。シャーロットと呼ぶように約束したはずです。約束した通りに呼んでください」
「シャーロット・・・」
「はい」
とても嬉しそうな表情をしている。
この笑顔を見せられたらとてもじゃないが勝てない。
周辺ではSクラスの他の生徒達が興味深そうにこちらを見ている。
「流石、話題のウィンダー侯爵様。話題が満載」
そう言って一人の赤いロングヘアーの生徒が近づいてきた。
「うちは、カレン・ユーラシオンよろしくな」
「ユーラシオン・・・」
「レン。帝国西部にあるユーラシオン辺境伯家のことです」
「失礼した。ほとんど社交界に顔を出さないうちに侯爵となってしまったもので、帝国内の貴族関係に疎いもので大変失礼した」
レンは素直に頭を下げた。
「なかなか素直なお方や。噂は当てにならんな」
「噂?」
「誰が流しているのか、スペリオル公爵家の嫡男は無能だと噂が流れている。でも、レン殿がウィンダー侯爵となってから、侯爵領の発展は目を見張るほど。噂ほど当てにならんものはないといういい証明やな」
カレンの話にシャーロットが怒り出す。
「誰がそんな愚かな噂を流しているのです。許せません」
シャーロットが本気で怒っている姿を見ていたらとても嬉しくなってきた。
「まあ、おおよそ誰がやっているか予想はつくが言わせておけばいいさ」
「ですが・・・」
「シャーロットが怒ってくれるはとても嬉しく思うよ。自分はそんな噂を相手にするつもりはないし、そんな奴らを相手するだけ時間の無駄だからね」
「流石や、現役侯爵様は違うわ。懐が深い、余裕やな」
カレンは、少し驚いたような表情をしている。
そんな三人のところに短めの黒髪をした一人の男子生徒が近づいてきた。
「レン様。ロー・ウェルロッドと申します」
「君がロー君かい。お爺さまから聞いているよ。よろしく頼むよ」
ウェルロッド家は元々スペリオル公爵家に仕える財務を司る子爵であったが、父母の浪費に対して度々厳しく苦言を呈したため、財務職を外され遠ざけられてしまっていた。
そのため、スペリオル公爵家を離れ、ウィンダー侯爵家に仕えることになった財務のエキスパートの貴族であった。
「父よりレン様をお助けするように言われております。なんでもお命じください」
「ありがとう、同じクラスメイトだよ。お互いに助け合っていこうよ」
「承知いたしました」
「それとクラス内では、様はやめて欲しい。クラスメイトなのだから」
「それは、ダメです。父から怒られてしまいます」
「学園内なのだから」
「レン様はレン様です。これは変えることはできません」
「いや、せめて・・・」
「レン。家臣団の子弟にそれを言うのは酷というもんや。諦めるしか無い」
カレンの言葉に渋々承知するレン。
スペリオル公爵家の行政を担う領地を持たない多くの有能な貴族は、ウィンダー侯爵へ移って来ていた。
スペリオル公爵の領地運営の稚拙さに失望した彼らは、レンの有能さに将来の希望を見出してこぞってウィンダー侯爵家に移って来ていたのだ。
さらにスペリオル公爵を寄親とする帝国貴族もウィンダー侯爵に鞍替えを始めているものが出てきていた。
それほどまでにウィンダー侯爵領は活況を見せ始めていたのだ。
新種の果物。
新しいワイン。
噂とは違うレンの優秀さ。
ウィンダー侯爵家に仕える貴族の多くは、レンが過去に幾度も命を狙われたことを知っている。
そのため、ウィンダー侯爵家に仕える貴族達は、レンを守るためと子供達の顔を覚えてもらうために、学園に自らの子弟を多く送り込んでいた。
それは学園内にちょっとした規模の家臣団を引き連れているのも同じであった。
このSクラスに20名中2名がそんな貴族の子弟達であった。
他のクラスにもおり1年の学生達の中に合計10名にもなる。
彼らはいざとなった盾になる覚悟で入学しているが、レンは彼らを盾にするつもりなど無く、逆にいざとなったら彼らを守るつもりであった。
そこにもう一人のウィンダー侯爵家家臣団の子弟でSクラス同級生が近づいてきた。
サラ・レンブラント。
青龍騎士団団長であるサイラス・レンブラント子爵の長女。
金髪のショートヘアーでほそっそりとした美人だ。
ただ、父親に似て武闘派と聞いている。
「レン様。初めてお目にかかります。青龍騎士団団長サイラス・レンブラント子爵の長女でサラと申します」
「レンといいます。少し砕けた調子で話してもらえると嬉しいです。それと様はつけないで欲しいです」
「それは、出来ません。それと父からは学園内での警護を申し付けられております。周辺で何か気になるようなことがあればお声掛けください」
「そんなに気を張らなくても、学園内は安全ですから」
「過去に何度も命を狙われたと聞いています。油断は禁物です」
真剣な表情のサラとロー。
「ハァ〜。分かりました。よろしく頼みます。出来たらもう少し砕けた調子で話してほしい」
二人を含めこの学園の生徒達は、レンが冒険者ギルドでCランクになる存在であることは伏せていた。
さらに高い魔法の腕前と剣術に関しては、入試で披露した以上の部分は見せていない。
いざとなれば、転移魔法で逃げられるし、大精霊を含む精霊達の助けも得られるため、過剰な警護は要らないのだが、そんなことは言えないため渋々承知することにした。
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