第41話 手に入れたもの

帝都学園の入試が終わり、今日はいよいよ合格発表。

レンは、祖父母と共に帝都の屋敷に泊まっていた。

帝都の屋敷も落ち着いた作りになっている。

合格したら帝都の屋敷から通うことになる。

帝都にある屋敷では、既にお爺さま、お婆さまが起きており、朝からお爺さま、お婆さま、そして屋敷の使用人たちもソワソワしている。

屋敷のものたちが皆ソワソワしている中、レンはゆっくりと紅茶を飲みながら今日の予定を考えていた。

合格発表を見たら入学手続きをして、その後帝都の中を散策してみても良いかもしれない。

魔道具店を見てから、可能なら路地裏の露天を回って見ようかと考えていた。


「レンの合格発表は、是非見にいかねばらんな」

「そうですよ。是非いかなくてはいけませんね。レン、一緒に行きますよ」


嬉しそうにしている2人の言葉を聞き、急遽自分が立てたスケジュールを変更する事にした。

1人で行くつもりであったが嬉しそうに話す2人に反対することはできない。

今日は一日2人と一緒に行動する事にした。


「はい、お爺さま、お婆さま。よろしくお願いします」

「任せておけ」

「レンと出かけるなんて久しぶりね」


総執事長のセバスが部屋に入ってきた。


「馬車のご用意ができました」


玄関に用意された馬車に乗り込むと学園へと出発した。

学園に到着すると既に大勢の生徒やそれに付き添う親族たちでごった返していた。

近づくにつれて貴族当主や商人達がハワードに気がつき始める。

ハワードは貴族たちの中では良くも悪くも超有名人。


「ゲッ・・ハワード・スペリオル元公爵だ」

「帝都の魔王だぞ・・・」

「近づくな、やつは危険だぞ」


子供たちの合格発表を見にきた貴族たちの呟きが聞こえてくる。


「絶対に関わるな・・・」

「恐ろしい難題を吹っかけられるぞ」

「帝都の魔王に関わるな・・・」


さらに平民の特に商人たちが、自分の子供たちに言い聞かせている声が聞こえてくる。

ハワードの姿を見た貴族や商人たちは、子弟を連れて逃げるように道を開けていく。

ハワードの進む前に自然に道が出来ていく。

さすがは帝都の魔王と呼ばれただけある。

本当に昔、お爺さまは何をやっていたのか。

ある程度人が減った中を進み、合格者の名前と順位が掲示されているボードの前にやってきた。

3人で自分の名前を探していく。


「あ・ある・あるわよレンの名前が」

「お婆さま、どこです」

「一番上よ」


ボードの一番上、つまり順位が一番で合格となっていた。

点数は、実技は500点で満点。

学科も500点で満点。

頭脳強化魔法が良い仕事をしてくれたようだ。

ちなみに二位はシャーロット皇女様。


「流石はレン。儂らの孫じゃ」


ハワードは上機嫌である。

入学手続きの受付の場所に行くと必要な書類を受け取る。

その場ですぐに学生証が作られて渡された。

偽造防止の最新技術が使われているため偽造はできないとのことだ。

入学式は2週間後になる。

流石にハワードに絡む馬鹿な貴族はいないため事件も起こらず終了となった。

このまま帰るのかと思ったら帝都を散策することになった。


「レン。行って見たいところはあるか」

「お爺さま、魔道具店や露店なんかを覗いてみたいです」

「魔道具と露天か、まあ良いだろう。行って見るか」


レンか祖父母と護衛たちと共に帝都の街中へと向かう。

以前立ち寄った魔道具店を覗いてみいる。

店主はお爺さま達と話し始めたので神眼を発動させて店の魔道具を見ていく。

特に惹かれるものがないため、そのまま店内を歩いていると、捨て値同然の商品が多数置かれている場所にやってきた。

無造作に置かれている魔法杖を見るが、どれも初級レベルのものばかり、もしくは使い物にならないものばかりだ。

樽の中に無造作に入れられている剣に目を向けると、何か違和感を感じその中の剣を手に取ってみた。

何本か手に取ってみて違和感の正体がわかった。

1本のショートソードを手にして神眼で見つめる。

表面が錆びていて、握りの部分も埃がついている。

このショートソードを神眼で見ると、表面をわざと鋼でコーティングされたショートソードであり、鋼の下にはミスリルとオリハルコンの合金があった。

しかも、ご丁寧に認識阻害の魔法がかけられている。


ショートソード

名称:

 ・無し

製作者:

 ・2000年前の名工 ミリム

特徴:

 ・ミスリルとオリハルコンの合金

 ・合金であることを隠すため表面に鋼の

  コーティングをしてある

 ・付与魔法で合金の部分に【不壊】

  【切る】が付与されている

 ・認識阻害魔法により鑑定では剣の

  正体は分からない

 ・精霊石を嵌め込めば精霊の力を使える


握りの部分に小さな石のようなものが嵌め込まれている。

その石を神眼で見る。

精霊石

 ・精霊の力を宿すことができる石。

 ・既に力を失っている。

 ・精霊に触れてもらい力をこめてもらうことで蘇る。

 どの精霊でも良い。

 神の神力を込めれば神力を使うことができる

 ・力をこめた精霊や神の力を行使できる。


これはすごいものが出てきた。

この樽の中のものは、どれでも銀貨1枚と書いてある。

わざわざこの錆びたショートソードだけだと怪しまれる。

何本かまとめて買うことにする。


「レン。それを買うのか」

「お爺さま、練習用に何本か安いものを買いたいと思います」

「高いものを選んでいいぞ」

「もっと剣が上手くなったらにします」

「そうか。まあよかろう」


代金を払い無事にショートソードを手に入れることができた。

これだけでもここに来た甲斐がある。

購入したものを馬車に積みこみ露天へと向かう。


「露天の通りは、治安が悪いところも多い。裏社会の者たちもいる。決して儂らから離れるな」

「お爺さま、分かりました。必ずみんなのそばにいます」

露天の通りに入ると多くの人々が行き交っている。

いろんな店が商品を並べている。

威勢の良い掛け声が飛び交っている。

食料品や日用雑貨、中には怪しげな魔法薬を売る店もある。

魔道具や装飾品の露天を神眼で覗いていく。

時々、呪いの魔道具や呪いの腕輪なんかが目につく。


呪いの腕輪

特徴:

 ・装着者の生命力を吸い取り消耗させる。

 ゴーク病に似た症状を発症させるため、

 装着させても原因は不明となる。


ゴーク病、数十年前に大流行した病気だ。

実父の兄弟も父を除いて全てこの病で死んでしまった病だ。

一瞬、神聖魔法で浄化してしまおうかと思ったが、ここでそんな事をすると確実に揉めることになる。

目立ちすぎるからやめおくことにした。

こんなところで下手に目立つことをするのは危険だ。

露天の主たちは盗まれないように自分の商品にはよく目を光らせている。

そんなところで魔法を使えば、バレること確実。

いらぬ反発や恨みを買うことにもなる。

露天の通りには裏社会の者たちもいる。

買った人は運が無かったと諦めてもらうしか無い。

何店舗が覗いた中で、一つ面白いものが見つかった。

高さ20センチほどのフェニックスを模した置物だ。

おそらく魔鋼と思われるもので作られ、これも認識阻害の魔法をかけられている。

ただ、それ以外に表面上特別なものはない。

これを置いてあるから何か特別な効果があるわけでは無い。

幸運を招き寄せることもなければ、悪運を呼び寄せることもない。

さらに、呪いや呪術を込められてもいない。

しかし、内部に面白いものがあった。


フェニックスの置物

名称:

 ・無し

製作者:

 ・2000年前の名工 ミリム

特徴:

 ・認識阻害の魔法がかけられている

 ・付与魔法で【不壊 弱】が付与されてる

 外部からは壊れず。内部からは壊れやすい。

 ・内部にフェニックスの卵がある。

 卵には時間停止魔法がかかっている。

 ・毎日神力を送り込み続けると羽化する

 魔力では羽化しない。


これは絶対に買いだと言うか、神力でしか羽化しないならこれこそが、慈母神アーテル様が用意してくれたものかもしれない。

買えと言う事なのか。

だが、欲しそうにするのは不味いか。

金額は金貨10枚と書いてある。

手元にあるのは金貨5枚。

どうにか半額に値切ることはできないか考えていた。


「どうしたレン」

「少し迷っているもので」

「この鳥の置物か」

「部屋の飾りに良いかなと思うのですが」

「金貨10枚か、いいぞ。店主これをくれ」

「えっ・・良いの」

「レンの欲しがるものにハズレは無い」


にこやかな笑顔でお爺さまが即金で支払ってしまった。

どうにか金貨5枚に値切ることを考えていたのに、あっさり定価でご購入です。

さすが元公爵で我が祖父。

頼りになります。

だが、そうなるとフェニックスの置物の中にある卵を羽化させるには、自分の秘密を話しておかなければならない。

フェニックスの置物とショートソードを積み込んだ馬車の中で悩むレンであった。



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※ストックが減って来ましたので少し更新頻度が減ります。ご了承ください。

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