第40話 帝都学園入試(3)

武術系試験が終わり、魔法試験会場に移動していた。

居並ぶ教官達の前に1人の女性が出てきた。


「筆頭魔法試験官のアンナである。これより魔法の試験を開始する。攻撃魔法が得意な者は、的に向かって攻撃魔法を放て、無理に的を壊す必要は無い。発動の速さ、正確さを見る。威力もあれば申し分ない。多少強い魔法でも、建物の壁までは壊せないように、防御魔法が掛けてあるから心配は無用だ。攻撃魔法が苦手なものは得意な魔法を試験官の前で披露してくれ。ではそれぞれ別れてくれ。攻撃魔法は会場の右手側に集合。それ以外の魔法は会場左側に集合」


自分はどちらでも行けるのだが、攻撃魔法にすることにして会場右手に歩いていく。

次々に受験生が魔法を披露していく。

大体がファイヤーボールなどの初級魔法を的に当てる魔法だ。

魔法の種類は見た目が派手なためか火系統の魔法が多い。

みんな5センチほどの大きさの炎の球やウィンドカッターなどを的に当てている。

たまにランス系の魔法でファイヤーランスやストーンランスを使うくらいだ。

1mほどの円錐状の槍で、炎の槍か岩の槍がほとんど。

目の前に丸い体型のポーク君が登場した。

かなり自信満々のように見える。

ファイヤーランスを使うようだ。

炎の槍が1本出来上がる。

しかし,さらに魔力を練っている。

空中に2本目の炎の槍が出来上がった。


「ハハハハ・・・見るがいい。偉大なるポーク家の炎をその目に焼き付けるがいい」


2本の炎の槍は的に向かって放たれた。

そして,的を大き外して壁の防御魔法にあたり炎の槍は消滅した。


「「・・・・・」」


会場に気まずい空気が漂う。

試験官は何も無かったかのように次の受験生を呼ぶ。


「お疲れ様。はい,次に行きましょう」

「待ってくれ。もう一回だ。もう一回」

「的に当たるか,的を破壊するとかは関係無いと言ってあります。次の方が待っていますから下がって下さい」

「ポーク辺境伯家を蔑ろにするつもりか」

「ですからそのような話では・・・」


そこにシャーロット皇女が出てきた。


「勝手なことを言っているのですから条件付きでさせてあげたらどうです。的に当たらなかったら他の試験の結果に関わらず,今年の受験は自動的に不合格にするとか」

「なんだと貴様・・・皇女様!」


振り返ると発言の主がシャーロット皇女と知り,ビビるポーク君。

シャーロット殿下は三年前までは大人しく物静かなのに,今ではなぜか武闘派のようになってしまった。


「受験規則を捻じ曲げようとしているのですからそれ相応の対価が必要ですよね」

「えっ・・・それは・・・捻じ曲げる訳では・・・」

「どうするの!早く決めなさい」


じっとりと汗をかいているポーク君。

頭の中では強引に二回目の試験をやって失敗した場合のことを考えてた。

自分の腕ではほぼ的に当たらない。

魔法実技試験失敗=不合格で受験失敗=内容を父に知られたら勘当される。

素早く計算を弾いていた。


「わ・・私としたことがお見苦しいところをお見せしました。受験規則には従います」


それだけ言うと素早く群衆に紛れ込んで姿を隠した。


「次は私が行いましょう」


シャーロット様が魔法の準備を始める。

空中に光の矢が作られる。

シャーロット皇女殿下は光魔法の使い手である。

光の矢が放たれると的を貫通した。

会場の受験生達からはどよめきが起きる。

シャーロット様はこちらを見てニッコリと笑顔を見せて下がっていった。

次は自分の番だ。

何を使うか迷う。

オリジナルの水プラズマ魔法もあるが、高い効果の割にみんなは自分が何をしたか分からないだろう。

あらゆるものが水プラズマ攻撃で一瞬で消滅する。

金属でさえ跡形もなく消滅してしまう。

やはりわかりにくいので水プラズマ魔法はやめておこう。

さてどうする。

考え込んでいたら水の大精霊ウィンが念話で話しかけてきた。


『思いっきり派手にやろうよ。この先、少し程度の魔法を鼻にかけている無象無象に絡まれるのは、時間の無駄だろうし、レンも嫌だろう』

『それは、そうなんだけどね〜』

『それに学園長に力を示せと言われただろう。壁も防御魔法で強化されているから大丈夫さ』


確かに、学園長に力を示せと言われた。

これからの学園生活で無駄な絡みを減らしたい。

ならば見た目が派手な魔法がいいだろう。

見た目が派手で力を示せて、余計な連中が近寄ってこないようにしたい。

悩んでいるうちに自分の番がやってきた。

前に出る。


「レン・ウィンダーです」


周囲にアイスランスを浮かべる。

氷で作られた2mほどの円錐の槍が空中で浮かんでいる。


「ほ〜アイスランスを無詠唱で使うか、しかもかなり大きい」


試験官が感心している。


「エッ・・・ちょっと・・1本では無いのか」


次々にアイスランスが空中に作られていく。


「まだ、増えるのか・・・」


顔が引き攣り始める試験官達。

普通、ランス系魔法をこの歳で使う者は、多くても3本程度が限界。

空中のアイスランスが増えて行くたびに周囲が騒がしくなっていく。

やかて空中に100本のアイスランスが出来上がる。

そのアイスランスに水の大精霊ウィンが、こっそりと手を加えて威力を大幅に強化している。

そのことに気がつかないレンは、どうせ的を壊せても、防御魔法が掛かっている後ろの壁までは壊せないだろうと簡単に考えていた。

そして、100本のアイスランスが一斉に的に襲い掛かる。

強烈な爆発音と共に的は粉々に破壊され、防御魔法がかかっている試験棟の壁が大きく破壊されて、壁に大きな穴が空いていた。


「エッ〜〜〜!壁に防御魔法がかかっているんじゃなかったのかよ。やっちまった・・・壁を壊してしまった」


思わず頭を抱える。

レンの魔法による爆発音がおさまると会場内は静まり返っていた。

全ての受験者は黙ってレンと壊れた壁を見ていた。

遠くで口を抑えて笑いを堪えている学園長が見える。

念話で水の大精霊ウィンの笑い声も聞こえてくる。


『ププププ・・・・・流石は僕の契約者だよ。見事見事。僕は満足だよ。ここからだよ。これから僕たちの新たな歴史が始まるのさ。有象無象の連中を蹂躙していく黒歴・いや新しい歴史が刻まれるのさ。素晴らしいよ。新たな帝都の魔王の誕生だ』

『勘弁してくれ、そんな黒歴史は願い下げだよ』

『ハハハハ・・・周りを見てごらん』


笑っている学園長を除く全ての人々。試験官、受験者。

その全ての表情が凍ったように呆然としている。


『もはや手遅れだと思うよ。でも,有象無象の連中に,僕達の力しっかり示せたから問題無いのさ』

『問題ありだろう。大ありだよ。平穏な学園生活はどうなるだよ』

『アーテル様の使徒で、僕・水の大精霊の契約者なんだから平穏な日々は無いと思うけどね。今のうちから諦めた方がいいよ』

「試験官殿」


レンの呼び声にゆっくりと驚いた顔を向けてくる。


「・・・・・」

「終わりでよろしいでしょうか」


無言で首を縦に振る。

よし、さっさと帰ろう。

レンは逃げるように帰って行った。

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