第39話 帝都学園入試(2)
帝都学園入試の2日目は実技試験になる。
魔法と武術。両方行われる。
現在の能力を見ることと将来性を図ることを目的にしている。
今日もシャーリー・マクレガーさんが試験会場へと案内してくれる。
武術会場に入るとすでに多くの受験生がいた。
暫くすると試験教官たちが入ってきた。
「静粛に!これより武術系の試験を行う。教官相手に得意の武術で戦ってもらう。勝つ必要は無い無い、教官に一撃入れる必要も無い。どの程度出来るのかを見る試験である。武術的なことが苦手なら申し出て試験を受けなくて構わない。それで、試験が不利になることはない。この後行われる魔法実技では得意な魔法の実演であるが、魔法が苦手なものは試験を受けなくても構わない。ただし、両方とも受けないことは認められない。実技試験は現在の能力を押しはかるものである。それでは武術試験を開始する。どの試験官を選ぶか各自で決めろ。始めろ!」
各試験官達がそれぞれ分かれて行く。1人の試験官に3人の補助員がついている。
補助員というよりは不正防止が目的らしい。
見ていると明らかに受験生の集まりが偏っている。
一見優男に見える人と優しそうなグラマーなお姉さんに集中している。
なぜか1人だけ受験生が誰もいない試験官がいる。
銀色の髪をした厳つい強面の感じの男だ。
暇そうに胸の前で腕を組んで仁王立ちをしている。
その背後になぜかフードを被った補助員が3人いる。
お姉さんの所に行こうと考えていたら厳ついおっさんと目が合ってしまった。
不敵な笑みを浮かべかかって来いと言わんばかりに手招きしている。
レンは仕方なくその試験官のところに行く。
「試験官のルーサーだ。名前は」
「レン・ウィンダーと申します。よろしくお願いします」
「レン・ウィンダーか、いいだろう早速始めようか」
「その前に聞きたいのですが」
「何だ」
「ここだけ、なんでこれだけ人が来ないのですか」
「フフフフ・・いいところに気がついたな。ここはお前専用の試験会場だからだ」
「ハッ?」
「レン・ウィンダーの能力を測るために魔法でレン・ウィンダー以外の受験者が来ないようにしている」
「エッ・・・何でそんな真似を」
「試験が終わったら教えてやろう」
「力ずくで聞けということですか」
「面白い話だろう」
「いや、全く面白く無いのですが、他の方ではダメでしょうか」
「それは却下だ」
レンは仕方なく試験用の木剣を手に取る。
勝たなくても良い、一撃入れなくても良いわけだから適当に打ち合って終わらせよう。
構えた瞬間、強烈な殺気が向けられてくる。
「こ・・これは試験ですよね」
「何事も本気でやらねば見えてこないものもある。腕利きの回復魔法師を用意している。骨の1本や2本折れてもすぐ直せる。心配無用」
「いえ、そういうことでは・・・」
一瞬でルーサー試験官が目の前にきて木剣を振り下ろす。
「ヤバ・・」
咄嗟に身体強化魔法を発動させて避けるが、すぐさま木剣が迫ってくる。
咄嗟に木剣で受けるがその衝撃で飛ばされてしまう。
かろうじて倒れずに踏みとどまるが、すぐにルーサー試験官の木剣が迫る。
仕方なく身体強化のレベルを上げ、剣聖スキルを使って応戦する。
試験会場で激しく撃ち合う2人。
お互いに巧みに相手の攻撃を受け流しながら強烈な打ち込みをしたかと思えば突きを繰り出す。
また、お互いに木剣に魔力を流しながら木剣を強化している。
あまりに激しい攻防に他の試験がストップしてしまい、他の受験者と試験官の全てが2人の戦いに見入っていた。
お互いに細かな切り傷ができていくが気にせずに戦い続けている。
試験会場内では2人の木剣のぶつかる音だけが響いている。
そして、次に2人の木剣がぶつかった瞬間、2人の木剣が粉々に砕け散った。
「そこまでだ」
補助員の1人が試験終了を告げた。
その瞬間、試験会場内が歓声に沸いた。
「素晴らしい・・・」
「あんな戦い見たことねえよ・・」
「剣の動きが見えなかったぞ・・・」
「カッコイイ・・・」
その歓声は暫く止むことがなかった。
「こんなことをした理由は何ですか」
補助員の1人が消音と隠蔽魔法を発動したようだ。
「これでここの話は他に漏れない。私らの正体もバレない。他の者達にはフードを被ったままに見える」
補助員の1人がフードをとる。
「私がこの学園の学園長であるアリシア・ガーランドだ」
エルフであり、この国の魔法を牽引する学園長アリシア様だ。
「学園長ですか」
残りの2人もフードを取る。
「皇太子殿下に、ギルド本部長ですか」
若い1人はこの学園の四年生の皇太子殿下オリバー様。銀色の髪のイケメン貴公子だ。
もう1人のおっさんは、冒険者ギルド総本部長ブラッドリー。
「僕は将来の義弟となるレン君の実力を知りたくてね」
「俺も似たようなもんだ。冒険者レンの本当の実力知りたかったからな」
レンは冒険者ギルドに登録していた。
「おっさん。それは無いだろう。貴重な魔物の確保や薬草採取にあれだけ協力してやったじゃないか。もう協力しねぞ」
「エ〜、そんなこと言うなよ。お前が実力をおもっきり隠しているからこうなったんだぞ」
ウィンとの訓練で、ウィンがレンを魔物の巣窟に放り込んだりしているため、倒した魔物は冒険ギルドでおっさん経由でギルドに渡していた。
ブラッドリーは、お婆さま側の弟で本当意味でのおっさんだ。
「2人に持ちかけたのは学園長である私だから許しておくれ」
「何でこんなことをしたんですか」
「私の魔眼に映る君のスキルやレベルがおかしいからだよ。さらにブラッドリーから聞いている実力とも食い違っているから確認が必要と判断したのさ。それと受付の鑑定水晶は私の特製品でね。隠蔽魔法を使っていると直ぐにわかるのさ」
「まさか鑑定水晶が赤く光ったのは」
「職員は知らないよ。私だけが知っている機能さ。ステータスや姿に隠蔽魔法を使っていると、一瞬だけ赤くなり直ぐに元に戻る。そして私の所に連絡が入るのさ」
「あ〜〜やられた!」
「レン君。魔眼持ちで感の鋭い奴なら、君のアンバランスな異常な強さに気がつくと思うよ」
「どこでしょう」
レンの疑問に学園長が答える。
「武術系スキルが無いのに、昨日はシャーリーの殺気に全く動じていなかった。それは、それだけの修羅場をくぐってきたことを意味する。あんたぐらいの年齢の魔法使いならほぼ気絶するか腰が抜けて動け無いレベルの殺気だよ。武術系スキル無しでそんな命のやり取りするようなことは早々ないだろう。さらに先ほどの戦い、ルーサーの殺気を軽く受け流して、さらにルーサーと互角に戦っていた。武術系スキル無しでルーサーと戦えるはずがない。彼は剣術Lv7だよ。スキル構成が完全な魔法使いなのにルーサーと近接戦闘できる。冒険者ギルドに持ち込んだ高レベルの魔物の中には、剣で一撃で仕留めているものも多数あったと聞いている」
「あっちゃ〜」
「力があるならある程度はしっかりと示すことも重要だよ。徹頭徹尾完璧に隠せるならいいけど、今のあんたみたいに中途半端だと感のいいやつに疑われ、余計な事件を呼び込む。昔命を狙われたんだろう。力を示しおきな。老婆心からの忠告だよ。ハワードの孫だから,余計に心配だからね」
「お爺さまを知っているのですか」
「学園長を100年以上やっているからね。ハワードとその愉快な仲間たちの3人が歴代ワーストワンの悪タレ小僧たちだったね。ただ,3人とも常に女性には優しく,女性に悪さをしなかったし,漢気もあったから男女とわず多くの生徒からの人気はあったよ」
「ですよね〜」
「おや、知っているのかい」
「お婆さまから聞きました。魔法練習棟完全に破壊して瓦礫の山に変えたとか、青の湖に【超爆炎】を打ち込むとか」
「あ〜あれか。酷かったと聞いたな」
冒険者ギルド総本部長ブラッドリーは思わず呟いていた。
「おっさんも知ってるか」
「その時は帝都にいなくてな、姉さんとうちの親から聞いただけさ」
「とにかく、ある程度しっかり実力を示して、ハワード達のような黒歴史を作らないでおくれ。それだけだよ」
波乱の武術試験はこうして終わり、魔法の試験に入って行くのであった。
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