第38話 帝都学園入試(1)
帝都学園の入学試験の日がやってきた。
今朝から帝都の屋敷の中は慌ただしい。
お爺さまとお婆さまは朝からソワソワしている。
「2人とも少しは落ち着いてください。試験の受けるは僕ですよ」
「う・・分かっている」
「そ・・そうよね。分かっているのだけれど」
朝の紅茶を飲みながら落ち着かない2人。
メイド長のライムさんがやってきた。
「レン様。馬車の用意ができました」
「うん。ありがとう。それでは、お爺さま、お婆さま。行ってきます」
本当は歩いて行きたいのだが、一応侯爵家当主である以上そんな訳にはいかないため渋々馬車に乗るのである。
護衛が3人ついている。ステータス上はもはや人外に足を踏み入れているから護衛はいらないのだが、侯爵家当主であり、見た目が可愛らしいお子様のため護衛をつけるしかないらしい。
僕の中のわずか数%のエルフの血が大活躍してくれて、可愛い見た目のまま全然背が伸びない。
いっそのこと、世界中の人の背が低くなる魔法が作れないだろうか。
もしくはエルフの血を封印する魔法が作れないだろうか。
そんなことができないか、ウィンからの訓練の合間に色々考え魔物たちを使って実験を繰り返したが、どっちも無理という結論に達して諦めるしかなかった。
悩める僕を乗せた馬車は石畳の道を軽快に走る。
やがて帝都学園が見えてきた。
広大な敷地の中に多くの建物が立っている。
馬車は一つの門をくぐる。
ここは今回貴族専用の門とされているそうだ。
学園内は身分は関係ないことになっているが、入試時に貴族子弟が平民に威張り散らすことがあるため、数年前から入試の時は平民と貴族は分けることになっている。
婚約者であるシャーロット様も今年受験になる。
今年は公爵家の関係者の入学予定者はいないそうだから多少は気が楽だ。
合格発表は試験終了後1週間後、入学式は合格発表から1ヶ月後になる。
馬車を降りて入試受付の場所に行く。
受付には職員ともわれる人と上級生と思われる人がいる。
黒髪に青い瞳をしている男性職員が緊張しているように見える。
シルバーの髪をショートカットにしたボーイッシュな感じの学園の女生徒。
制服を着た上級生と思われる女性は笑顔を見せている。
「こんにちは、レン・ウィンダーと申します。入試手続きをお願いします」
緊張した面持ちの男性職員に書類を手渡す。
「こ・・これは・・レン・ウィンダー侯爵様・・・・」
「先生。そこは言ってはいけないはずですよ」
「いや、でもな・・長い学園の歴史の中で、御当主様の入学なんて初めて・・・」
「学園長から注意を受けていたはずですよ。普通にしましょう。レン君でいいですか」
「それで問題ありません」
「こちらの鑑定水晶を触ってください。スキルの情報は公表致しませんので」
隠蔽魔法を使い10歳児では少し強いぐらいにしてあるので大丈夫のはずだ。
秘匿すべきスキルは全て隠蔽魔法をかけてあるのはまずバレないだろう。
鑑定水晶程度なら詳しい情報は見ることはでき無いし、隠蔽魔法が効く。
氏名:レン・ウィンダー
年齢:10歳
状態:良好
スキル:
木 Lv4(8)
・木製品製作【Ⅳ】(【Ⅷ】)
・(魔力吸収 【Ⅲ】)
・(木と森と大地の恵み【Ⅶ】)
・(ウッドゴーレム)
・木像作成(神像作成)
・(植物創造)
・(神器作成)
生活魔法
身体強化Lv2(5)
魔力操作Lv3(9)
水魔法Lv 4 (9)
氷魔法Lv 4 (10)
風魔法Lv 2 (6)
土魔法Lv 2 (6)
気配察知Lv2(5)
※( )の中が元々のLv数値とスキルだ。
レアスキルは全て隠蔽中
女生徒がこちらを向く。
「ありがとうございます。いろいろご迷惑をお掛けして申し訳ありません。先生方をはじめとして貴族家御当主の入学は初めての経験なもので」
「心配しないでください。爵位で威張り散らすつもりは無いです。面倒なので、できるだけ爵位は知られないようにしたいです」
「承知しています。ですがすぐに知られると思いますよ」
「その時は、その時で考えます」
突然職員の人が呟く。
「う〜ん。一瞬だけ水晶が赤く光ったぞ。何だ。どこか壊れたのか」
「どうしました」
「いえ、何でもありません。ご案内して差し上げてくれ」
「分かりました。ではこちらにどうそ」
付き添いの身内や家臣・メイドたちはここまで、この先は受験者のみになる。
「私は、5年生で生徒会長を拝命しております。シャーリー・マクレガーと申します」
「マクレガー・・・あ・マクレガー公爵家の方ですか、失礼しました」
「お気になさらずに、父は公爵ですが私が爵位を持っている訳ではありませんから。言葉も普通でお願いします」
「そう言っていただくと助かります」
前で何やら騒がしい声がしてくる。
赤い髪の少し太めの男の子と付き添いの家臣2人のようだ。
「僕を馬鹿にしているのか、この先家臣を連れて入れないなどおかしいだろう」
「何度も申しています。この先は受験者のみとなっております。これは全ての受験者に適用されます」
「ポーク辺境伯家を舐めているのか」
職員は認める訳にはいかないため、頑として譲らない。
「そういう問題ではございません。これは皇族であっても適用される決まりでございます。皇族の方も守られている規則を守らぬと言われますか」
「ウグググ・・・・」
「それこそ、後で辺境伯様が恥ずかしい思いをされますよ」
「し・仕方ない、案内しろ」
「では、こちらに」
男性職員が案内しようとしたその時、ポーク君がこちらを向いた。
嫌な予感がする。
「あいつはなんで女生徒に案内されているんだ。あいつに僕を案内させろ」
「案内役は全て決まっております。そのような申し出はできません」
ポーク君はその言葉を無視してこちらにやってくる。
「なかなかの美形ではないか、僕が使ってやる栄誉を与えてやろう。案内・・・」
ポーク君がシャーリーさんに触れようとしたその瞬間、隣から物凄い殺気が放たれた。
間違いなくシャーリーさんが放っている殺気だ。
目の前のポーク君は、強烈な殺気に当てられ恐怖でへたり込んでしまった。
恐る恐る隣のシャリーさんを見ると目つきが先ほどまでの一変している。
「貴様の薄汚い手で触れるな!」
冷酷で汚物を見るかのような殺気をはらんだ目をしている。
全身からも容赦ない殺気が放たれ続けている。
ポーク君の様子を見るとこれ以上はマズイ。
全身が震えて、意識が飛ぶ寸前だ。
思わずシャーリーさんに声をかける。
「マクレガーさんこれ以上は危険です」
僕の言葉に我に返る。
「アハハハ・・・やっちゃった。へへへ・・・」
やっと最初の笑顔に戻った。
ポーク君の意識が飛ぶ寸前で止まり、ことなきを得た。
こんなところでお漏らしでもされた大変だよ。
「マクレガー・・・まさか・・・マクレガー公爵・・」
「まだ纏わりつくならいつでも受けて立つわよ。マクレガーの名にかけて徹底的に叩きのめしてあげる」
ポーク君は呆然としている。
流石は脳筋マクレガー公爵一族。噂に聞く、冷血なる貴公子ですか。
身体強化魔法を軸にした体術・剣術はかなりのもので、珍しい雷魔法の使い手とも聞いている。
でも、冷血なる貴公子なんて女性につける二つ名じゃ無いよね。
周辺にいる上級生男子たちの呟きが聞こえる。
「ああ・・シャーリー様・・俺もその手で叩きのめして欲しい・・・」
「俺をあの冷たい目で見つめてくれ・・・」
「あの冷酷なまでの声をもっと俺に向けて欲しい・・」
上級生には、いろんな意味で危ない連中もいるみたいだ。
この人には、なるべく関わらないようにしたほうがいい。
シャーリーさんにも周囲の呟きが聞こえたのか少し顔が赤いようだ。
「学園内には色々馬鹿なことを言う連中がいますが、気にしないようにしてください」
「はい分かりました」
「初日は学科試験ですので会場はこちらになります」
学園校舎を奥に進んでいくと広い講堂のような部屋に案内された。
講堂の中には、すでに多数の受験生が席についている。
講堂の中にはシャーロット様の姿が見える。
目が合うとニッコリと微笑み返してくれる。
案内してくれたシャーリーさんが声をかけてくる。
「与えられている受験番号の席に座り静かにお待ちください。時間になれば開始となります」
「ご案内ありがとうございました」
指定された席に座り静かに時を待つ。
時間になると多くの職員が入ってきていよいよ試験開始となった。
帝国史、数学、帝国語、魔法学の順番で四科目の試験。
黙々と問題をこなして初日が終了となった。
帰っていくレンを見つめるシャーリー。
『いつもは、もの珍しいから騒ぐのに、今日は大人しかったね、ライ』
シャーリーの前には、雷の中級精霊のライがいた。
好奇心がとても旺盛な精霊であり、こんなに人が集まるとなればいつも大騒ぎするのに,今日はとても静かにしていた。
その姿は,20センチほどの大きさで、羽根のある小さなドラゴンに似ている。
その雷の中級精霊ライとシャーリーは契約で結ばれており、念話で話すことができる。
『使徒様に失礼なことをしたら僕が怒られてしまうから静かにしていた』
『使徒様・・?』
『あ・・・何でもない』
『使徒様て何よ、言いなさい』
『・・・・・・』
顔を逸らして黙り込む雷の精霊。
『言いなさいよ。使徒様って何よ』
『・・・・・・』
『使徒様て何・・・正直に言わないとおやつ抜きね』
『エ〜そんな・・・』
雷の精霊ライが泣きそうな顔になる。
『使徒様とは何!話してくれたら特別にケーキを食べさせてあげる』
『ケーキ・・・本当』
ケーキが大好きなライは、迷い始めていた。
『特別にマシュー本店のケーキを選ばせてあげる』
『他の人に絶対絶対言わないでよ、僕が広めたとなったら他の精霊たちに怒られるから』
『他には言わないわ。約束する』
『レンという子は、2千年ぶりに現れた慈母神アーテル様の使徒様であり、水の大精霊様の契約者なんだよ。他の大精霊様も使徒様と契約しているほどの方』
『エッ、それは本当なの』
『一応隠蔽魔法で誤魔化しているけど、水魔法と氷魔法ではこの世界でトップの実力者だよ。水魔法と氷魔法で彼に敵う人はいないよ。使徒様だから人間が扱えない魔法も扱えるはずだよ』
シャーリーはしばらく考え込んでいた。
『この学園に使徒様・・・』
『お願いだからバラさないでよ』
『ありがとう。ライ。他には話さないから』
シャーリーが精霊ライと念話で話している間に、受験生は全て校舎から出て帰って行った。
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