第36話 試験勉強のための魔法開発

ウィンダー侯爵となり、精霊たちと共に魔法と剣の訓練に明け暮れてきた。

気がつけばもうすぐ10歳となる。

そして、帝都学園の受験日まであと一ヶ月と迫ってきている。

実技試験は、お婆さまから既に問題無いレベルとお墨付きをもらっている。

問題は学科試験。

ウィンたちのしごきの合間をぬって勉強はしてきたが正直厳しい部分もある。

学科試験は、帝国史、帝国語、魔法理論、数学となっている。

科目数は少ないがとにかく指定されている試験範囲が膨大である。


「はぁ〜、やばいな〜」

「何を悩んでるの」


世界樹の精霊ユグが背中越しに聞いてくる。

世界樹の精霊ユグは、レンの近くにいるときはレンの背中が定位置となりつつある。


「あと一ヶ月で帝都学園の入試なんだけど、実技は問題ないけど学科が問題なんだよ」

「へぇ〜、大変そうだね」

「頭の良くなる魔法でもあれば良いけど、そんな魔法無いしな〜」

「あるよ!」

「ヘェ〜ある・・・あるの!!!」

「あるよ。頭脳強化魔法と言って、1000年ほど前に当時の賢者が作り出したけど、使える人が限られてしまうから、この時代には既に魔法の使い手はいなくなってしまったよ」

「使い手がいなくて消滅してしまった魔法か・・・残念」

「教えてあげようか」

「えっ、できるの」

「ウィンと2人がかりなら教えてあげられるよ。ウィン!」


ユグの呼び声に応えるように水の大精霊ウィンが現れた。


「レンが頭脳強化魔法を教えてほしいと言ってるよ」

「ほぉ〜珍しい魔法だ。ユグが教えたのか」

「うん。レンが困っているみたいだから」

「帝都学園の入試か」

「よく分かるね」

「この時期になると青の湖が騒がしくなるんだよな〜」


青の湖は水の精霊が多く住むと言われるので、帝都学園の入試が近くなってくると水魔法や氷魔法が得意の子供たちが、湖に願掛けに来るのが恒例行事となっている。

ウィンは面倒だから他の精霊たちに任せて、いつも精霊の森に逃げることにしていた。


「ウィン。お願い。頭脳強化魔法を教えてよ」


レンの拝むような仕草に少しため息をつく。


「仕方ない。使徒様だし、僕の契約者だから恥ずかしい成績は困るからなな。ユグはいいのか」

「は〜い。大丈夫だよ。レンのお願いならなんでも聞いちゃうよ」

「なら、そこの世界樹の前で地面にそのまま座ってくれ」


ヨーク領の屋敷の庭には、世界樹が植えられている。

他の木々と変わらぬ高さになるようにお願いしてあり、姿そのものも隠蔽魔法を使い世界樹は周辺の木々と見分けがつかないようにしている。

どこから見ても世界樹には見えない。

庭に植えられている他の木々と全く変わらない姿をしている。

さらに強力な隠蔽魔法で隠されているから、まず見破ることはできないだろう。

見破られても周辺に結界が自動的に張られ、世界樹に害を与えるものは近づけない。

そこまで厳重に管理されているので精霊のユグも満足そうだ。


「これから僕とユグが手伝うから頭脳強化魔法を覚えてもらうよ。これは普通の身体強化では無い。普通の身体強化を脳にかけるのは非常に危険。通常の身体強化魔法をかけたら脳に重大な後遺症が出る危険性が高い。それくらい最初はかなり繊細微妙な魔力操作が要求される」

「そんなに繊細な魔力操作が必要なの」

「筋肉に無理に身体強化をかけて、その反動で筋肉が切れても即死することは無いし治癒できるが、脳に無理な身体強化をかけて損傷が出たら即死の可能性があるよ」

「なるほど・・・それはそうだね」


ウィンの説明に緊張感が漂う。


「1000年以上昔には数人扱える人がいたんだけど、既に扱える人がいなくなっている魔法なんだよ」

「それだけ難しいということなんだね」

「魔力操作と身体強化共にLv6以上が必要だ。それに最初は教えてくれる者が必要。誰にも頼らずに行うとしたら魔力操作と身体操作共にLv8は最低限必要だろう」

「昨日、僕の魔力操作と身体強化が共にLv6に到達したよ」

「実は、レンの魔力操作と身体強化のLvが上がるまで待っていたんだ。学園の試験も近いしいいタイミングだよ。それに並列思考のスキルを持っているから楽だと思うよ」


日頃からスキル【木】を使い多くの木製品や神像・神器を作るハメになっているから、魔力の繊細微妙な操作は慣れている。

もしも魔力を図る数値があれば万分の一単位の操作が要求されることになるだろう。

さらに、強力な魔物と戦わされてきたため、自然と並列思考を手に入れていたりする。

レンは庭にある世界樹の前の地面に座る。

ユグとウィンが空中に魔法陣を描き始める。


「僕とウィンが描いた魔法陣をよく見てね」


魔法陣を見つめているとその魔法陣は徐々に近づいてくる。

魔法陣が光ったと思ったら目の前の魔法陣が消え、自分の頭の中にその魔法陣が浮かんでいるのが分かった。


「その魔法陣に、ゆっくりと少しずつレンの魔力を繋げて」

ウィンの言葉にゆっくりと魔力を送り込む。

「レン。もう少し少なくして」


ウィンの注意を受けて、魔法陣に送り込む魔力を少し減らす。


「そのくらいで良いよ。そのままの魔力量で魔法陣に魔力を送り込んで」


ウィンの指導のもと慎重に魔力操作で魔力を動かし、頭の中で輝いている魔法陣に魔力を送り込んでいく。

ゆっくりゆっくり魔力を送り込む。

長い時間魔力を操作していると魔法陣が強い光を放ち、脳の隅々と魔法陣が繋がったのが分かった。同時に魔法陣からこの魔法の使い方も流れ込んできた。

この瞬間、頭脳強化魔法が使えるようになった。


「ありがとう、ウィンとユグのお陰だよ」


2人は終始にこやかにこちらを見ていた。

1000年の時を経て、頭脳強化魔法が甦った瞬間である。

この頭脳強化魔法を発動すれば記憶力、理解力、分析力、判断力などを含む頭脳の働きが驚くほど向上する。

しかも、脳に負担をかけることなく脳をフルに動かせる。

この魔法を発動して本を読めば一瞬で全て記憶できる。

体内で魔法を使っているため、周囲の人からは魔法を使っているとは一切分からない。

最大連続使用は5時間まで。インターバルの時間が必要で、使用したら使用した同じ時間だけ使用できない。

繊細な魔法陣のため、これ以上使うと魔法陣が壊れるおそれがあるそうだ。

5時間以内であれば使用を一時止めて、再使用は可能との事。

早速、頭脳強化魔法を使ってみる。

頭脳強化魔法を発動させた状態で分厚い帝国史の本を広げる。

帝国史を開いた瞬間、開いて目にしたページが頭に吸い込まれたかのような錯覚を覚えた。

気がつくと、頭の中に目にしたページがそのまま浮かんでいる。

次々にページをめくり、読まずに目にしただけで、そのページが頭の中に吸い込まれて、頭の中に存在している。

瞬く間にその分厚い帝国史を読み終え、その結果分厚い帝国史の本がそのまま頭の中に存在しているのが分かる。

さらに、どのページに何があるか瞬間的に分かるオマケ付きだ。


「すごい!すごいよ。この分厚い帝国史の本があっという間に覚える・・いや、覚えるというより頭の中に書棚ができていて、そこに本として収められている感じだ。しかもすぐに取り出せ中身がすぐに分かる」


レンはものすごく感動すると同時にその有用性に気がつく。


「これは単に頭脳を強化にとどまらないよ。これはあらゆる事に使える。使い方しだいで無限の可能性が広がる魔法だ。すごい!すごい!すごいよ!」

「レン。嬉しいのはわかるけど、まず試験を突破できるようにするのが先だよ」


ウィンの言葉で現実に引き戻される。

いくら頭脳魔法とはいえ最低限やるべきことはやらねばならない。

何もしなくて勝手に知識が入ってくる訳では無いのだから。

それでも新しい魔法に嬉しいレンであった。

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