第35話 悩める暗殺ギルド
レンの暗殺を請け負っている暗殺ギルドは、焦りを感じていた。
既に三度失敗している。
一度目は、毒を使わず自然死に見せかけるようにとの注文だったため、負の魔法陣を使用したが失敗。
二度目は、屋敷を抜け出すように仕向けて魔物に襲わせ、さらにブラックスパイダーの毒まで使用したがギリギリのところで失敗。
三度目は、ヨーク領から帝都への移動の途中を強襲したがこれも失敗。
暗殺ギルド長のブーンは頭を抱えていた。
それぞれの失敗理由がありえないことだからだ。
そこにスペリオル公爵家から最後通告が来た。
手段を選ばず暗殺せよ、次回失敗したら関係を切るとの通告。
それ以前に次を失敗したら闇の世界で商売が成り立たなくなる。
失敗続きのギルドに仕事が来なくなるからである。
少なくなった髪の毛をかきむしるように帝都にあるアジトの執務室で考え込んでいた。
数え切れないほどの戦場を渡り歩き、数多の暗殺を自らも実行してきた男であり、いつでも戦えるように鍛錬欠かさない。
油断は死を招くことを誰よりも分かっているからである。
そんな男がレンの暗殺失敗に言いしれぬ違和感を感じていた。
「失敗の理由が理解できん」
「ですが事実です」
ブーンの言葉にミモザが答える。部屋にはミモザとグラビスがいた。
「一度目は通常の倍以上の期間、負の魔法陣の影響を受けていながら少し体調を崩した程度。魔法陣の効果からしてありえないことだ。ミモザ、魔法陣は機能していたのか」
「魔法陣は、暗殺ギルドの精鋭魔法使いたちで正確に仕上げ、事前に鑑定の魔眼持ち数名で威力を確認しています」
「二度目は【木】とか言う妙なスキルで激しく抵抗。さらにゴーレムまで作り出した。まあ、激しく抵抗するのはあり得ることだ。だがゴーレムをスキルで作り出すなどとは、聞いたこともない。さらに、ブラックスパイダーの毒が効かなかったことが理解できん。大人であっても1分ともたずに死ぬ威力だ。対毒性スキルは無かったと報告で聞いているが間違い無いのか」
「屋敷のメイドとして入り込んだ時に、精度の高い鑑定水晶を持ち込み、レンのスキルを鑑定しましたが【木】というスキル以外にはありませんでした」
ギルド長のブーンは悩ましげに椅子にもたれかかる。
「スキル無しでありながら魔法陣も効かない。毒も効かない。奴は本当に人間なのか」
「そういえば帝都に向かう途中を強襲した時も妙だった」
グラビスは思い出すように話す。
「妙だったとは」
「俺の気配を察知したかのような動きをしていた」
「気配遮断Lv6を持っているグラビスの気配を察知したというのか」
「間違いない」
「今まで多くのスキル持ちを見てきたが、気配遮断Lv5を超える人物はグラビス以外に見たことがない。風の噂にも聞かんぞ。そんなグラビスの気配を察知していただと」
「本当だ。まず、魔物を解き放つ門を開く前にその位置を察知して布陣を変えてきた。自分が気配遮断を発動させ、帝都の魔王と呼ばれるハワード前公爵の横を通り、背後からレンを短剣で刺そうとした瞬間、背後に木の盾を3枚も作り短剣を防ぎやがった」
「背後から襲われる気配を察知したからこそ、3枚の盾を背後に作り出したということか」
「そう考えるのが妥当だろう」
「だがどうする。公爵家からは催促がしつこくきている」
「評判は落ちるかもしれんが、この依頼はやめた方がいい。これは異常だ」
「異常・・・確かにこれは異常だ」
「それに、何度か様子を調べているが、警護があり得ないほどに強化されている。皇帝の隠密らしき奴らも気配を消して近くに潜んでいる。そして何よりもレンという小僧が日を追うごとに強くなっている。今のやつの強さは、完全に強者の気配だ」
「強者の気配だと」
「グラビスさん。流石にそれは盛りすぎでしょう。まだ、学園にも通っていない子供ですよ」
ミモザが笑いながら話す。
メイドとして近くにいたミモザからすれば、幼い子供としか思えない。
「いや、間違いない。姿を見るたびに強くなっていっているのが分かる。その強さをあえて隠すようにしているようみ見える。既に身のこなしが以前とはまるで違っている。隙が無く、完全に武人の域に達している身のこなしだ」
レンに対するグラビスの高い評価に驚くミモザ。
グラビスは普段他人を評価することは無いからである。
「ヘェ〜。珍しいですね。グラビスさんが他人を高く評価するなんて初めてですよ。そんな柄にも無いことをすると大事件が起きますよ。明日はきっとドラゴンが帝都を襲うかもしれませんね」
ミモザは笑いながらグラビスを揶揄う。
「フン。貴様のそのふざけた態度をなんとかしたらどうだ。俺は物事を冷静に判断しているだけだ。目の前で起きていることを冷静に見つめて判断できない奴は、真っ先に死ぬぞ。ああそうだそんな時は俺を巻き込まんでくれよ。迷惑だからな。死ぬ時は一人で勝手に死んでくれよ。仲間を巻き込むなよ」
「ひど〜い。こんなに可愛いミモザにそんな酷いことをいう人は、絶対に道連れにしてあげますからね」
「フン。知るか」
「隷属の魔法でも使って盾代わりにして道連れにしてやる」
「お前のへなちょこ魔法なんぞ俺には効かんぞ」
「ムカつく〜。この陰険ジジイめ」
「うるさい!!!静かにしていろ。まったく、この暗殺依頼はリスクが大きくなってきている。我らの手に余る依頼だ。この依頼からは手を引くことにする」
「「分かりました」」
「念のためアジトも変えることにする。仲介人を二人挟んで依頼を受けているからここがバレることは無いと思うが念のためだ。とち狂った公爵家から証拠隠滅で消されかねんからな。もう、スペリオル公爵家に関わるな。いいな」
「「承知しました」」
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