第34話 べリューの実

この世界のイチゴはベリューの実と呼ばれ、とても粒が小さくその割に種が大きい。

地球のように大粒のイチゴがなく、とても食べずらい。

さらに酸味もとても強いため食べる人は少ない。

いま無性に大粒で甘いイチゴが食べたい。


「スキルで作ってしまうか」


レンの呟きに世界樹の精霊ユグドラシルが反応する。


「レン。何を作るの」


最近のユグドラシルは、ヨーク領の屋敷に隠されている世界樹にいることが多い。

大きさを抑え、隠蔽魔法で隠されていて、誰にも分からず。

さらに使徒であるレンがいるから気が楽らしい。

エルフの国だとエルフ達が常に周辺にいて、エルフがウロウロしているため気になって仕方ないらしい。

ここだと隠蔽魔法と結界で誰も分からないし、気にもしていないからいいそうだ。


「イチゴを作ろうと思う」

「イチゴ?」

「この世界では、赤いべリューの実になるな」

「エ〜!ダメダメ。あれは美味しくない。ただ酸っぱいだけだけだよ」

「だから、僕のスキルで甘く美味しく作り直すのさ」

「ウ〜ン!レンのスキルで新しく作るなら大丈夫だよね!」


レンはまず、大粒のイチゴのイメージをしっかり描く。

地球で食べたイチゴをもう少し甘くするようにイメージする。

その状態でスキル【木】の派生スキル‘’植物創造‘’を発動する。

地面に光り輝く魔法陣が現れ、しばらくするとその中心に地面から芽が出てきた。

さらにその芽に派生スキル‘’木と森と大地の恵み‘’を発動。

木と森と大地の恵みが発動すると、芽は成長を始める。

高さ1m50㎝ほどで止まり、次に枝が伸び葉は生えてきて、枝に赤い小さな実ができたと思ったら、その赤い実がみるみる大きく成長。

10㎝ほどの赤い実が10個枝に実っている。


ベリューの実

品質:

 ・最高品質

効能:味

 ・甘く、それでいて微かな酸味を感じさせる

 ・一口食べた瞬間、その甘く酸味のある芳醇

 な香りが心を刺激する

 ・食べ始めると止まらなくなることは確実

 ・ジャムにすると絶品の一品となる

 ・肌に潤いを与える働き(弱)がある


「・・・・・この効能も秘密にするしかないな・・・」


神眼に映る内容が再び問題ありである。

肌に潤いを与えるなどと知れたら世のご婦人達の奪い合いになること確実。


「レン。美味しそうだよ。早く食べよう」


既にユグは食べる気満々である。


「作った以上は食べるか」


レンは2つ収穫して、一つをユグに渡して一緒に試食する。

一口食べた瞬間、とても甘く、それでいて微かに酸味のある味と香りが全身を刺激する。

レンは無意識に2つ目を枝から取り、食べようとして我に帰った。


「やべ〜!」

「レン。ずるいよ。僕にももう一つ」


ユグが少し少し怒っている。

手に持っていた実をユグに渡す。

ユグはその実を受け取り、美味しそうにその赤い実を食べている。


「ベリューの実も食べすぎに注意だ。止まらなくなる。ウ〜ン。勢いで作ってしまったが、このままにはできないよな。やはりお婆さまに話しておかなくてはいけないな」


実っているベリューの実を収穫して屋敷に持っていく。

屋敷に行くと庭先でお婆さまが紅茶を飲んでいた。


「お婆さま、これを見てください」

「レン。その赤い実は何・・・!」

「これは新しく収穫した新種のベリューの実です」

「えっ・・べリューなの。形は確かに似てるわね。そのまま大きくした感じかしら。新種のべリューの実、味はどうなの、べリューは酸っぱいだけよ」

「このべリューの実は、種が表面の小さな粒の部分であり、実の中には種はありません。表面の小さな種ごと食べることができて、食べられる実の部分が非常に大きく、甘さもとても強くて美味しいのです」


ルナはレンの説明が終わると同時に躊躇いなくべリューの実を口に運ぶ。


「これは・・・素晴らしい・・こんなに美味しいべリューの実は初めてです。こんなにも甘いなんて、しかも微かな酸味が素晴らしいです」


お婆さまが涙ながらに感激している。


「これをジャムにするとさらに美味しくなるようです」

「ジャム・・・いいわね。レン。べリューの実は増産できるかしら」

「大丈夫かと思います」

「私に任せなさい。しっかりとウィンダー家の特産品に仕上げてあげます」


気のせいだろうか、お婆さまの目が光り輝く金貨に見える。


「いかにレンが優れているか、オーク息子に見せつけてやります。あのオーク息子に自分こそが無能であることを知らしてあげましょう」

「お婆さま、何もそこまでしなくても・・・」

「レン。全て私に任せなさい。心配無用。フフフフ・・・。私たちを敵に回したことを後悔させてあげましょう」


不気味な笑いをあげている姿に少し不安を覚えるが、もはや手遅れでることを痛感している。

きっと父親夫妻から、さらに恨みを買うことになることを覚悟するレンであった。


「お婆さま。きっと父達からさらに恨みを買うことになりますよ」

「心配入りませんよ。レンは以前とは比べ物にならないほど強くなっています。さらに、多くの騎士たちがあなたを陰ながら護衛しています。さらに、大精霊様の加護も持っています。あなたを傷つけられる者はいません。もっと自信を持ちなさい。あなたの後見人には、陛下も名を連ねているのですよ。まず、ありえないことですよ」

「ですけど・・・」

「もっと自信を持つなさい。私もハワードもレンの笑顔が一番大切なのです。もしもオーク息子が何かしてきたらキッチリと落とし前をつけさせます。昔のように甘くすることは、もはやありません」

「お婆さま」

「レンは自信を持ってもっと自由にいろんなことをやりなさい。遠慮なんかしなくていい。何かあれば私とハワードを頼りなさい」

「ありがとう・・お婆さま」

「さあ、忙しくなるわよ。ウィンダー印のべリュージャムを帝国全土に売り捌いてあげる。目がまわるほど忙しくなるからね」

「分かりました」


屋敷にレンとルナの嬉しそうな笑い声が響いて、べリュージャム販売計画がスタートすることになった。

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