第33話 操り人形
豪華な調度品で飾られた執務室。
ソファーやテーブルだけで金貨1000枚を超えてしまうほどの超高額品。
壁には、流行の有名作家の絵画がいくつも飾られている。
執務室奥中央ににある机と椅子は、仕事用ではあるが魔の森の木で作られた高級品であり、オークションにでも出せば軽く金貨500枚はするであろう品であった。
床に敷かれたジュータンは一流の職人による逸品であり、手に入れることは難しい品である。
全てこの部屋の主であるダニエル・スペリオル公爵の要望で手に入れたもの。
そんな執務室の中でダニエル・スペリオル公爵は不満そうな表情を隠さなかった。
昔は、細身の体でマッチョな肉体であったが、今ではすっかり変わり果てた姿をしている。
顎は三重顎となり、腹回りもひときわ巨大となっていた。
その姿を見たもの達は、皆オーク公爵と裏で噂をしている。
そんな巨体を特注の椅子に預けイラついてた。
「どうなっているのだ。レンの奴はなぜまだ生きているのだ。あの出来損ないの分際で、どこまでも儂にたてつくのだ。父上と母上に気に入られているからと図に乗りおって!」
執務室の椅子に座り怒鳴り散らすダニエル・スペリオル公爵の目は、異様な程血走っている。
そんなダニエル・スペリオル公爵に妻であるエレンが近づいていく。
「ダニエル。ごめんなさい。私が不甲斐ないばかりに、あなたに心配をかけてしまったわ」
そっと、ダニエルの頭を抱きしめる。
「エレン。君は悪くない」
「ダニエル。私の目を見て」
エレンは抱きしめていた手を離し、ダニエルの顔に手を添えて目を見つめる。
エレンの目が怪しい光を放ち始めた。
「魅了魔法 チャームアイ」
エレンは相手の心と魂を操る魅了魔法である魔眼の持ち主である。
しばらくの間、ダニエルはまるで魂が抜けてしまったかのような放心状態になった。
「私たちの邪魔をしているのはレンよ。あの無能を早く始末しなければいけないわ」
「レン・・・無能・・始末しなければ」
「そうよ。そうしてウィンダー侯爵領の資産と、新しい特産品も全て私たちのものにするのよ」
「侯爵領を・・・手に入れる」
エレンはダニエルの頭を優しく撫でる。
「そうよ。良い子ね。のんびりしていたら、ますますあの無能が図に乗って、反抗してくることになるのよ。最近は家臣達を引き抜いている。これは公爵家に対する叛逆よ」
「無能が図に乗る・・・公爵家への叛逆」
「そうよ。よく出来ました。無能は早く始末しないとね」
「分かった・・・・早く・・・始末する」
「フフフフ・・・そうよ。急ぎましょうね」
ダニエルの目は焦点が合わず、ぼっーとしたままである。
「ダニエル。あなたの味方はこの私エレンだけよ。他は信用してはいけない」
「味方・・エレン・だけ」
「そうよ。私だけ。お父様もお母様も心の底では、あなたを疎ましく思っているのよ。信用してはいけない」
「父も・母も・・・疎ましく・・・信用できない」
「そうよ。よくできました。偉いわね。少し眠りなさい」
エレンは、ダニエルの頭を撫でる。
ダニエルはゆっくりと目を閉じて眠るのであった。
エレンは、魅了の魔眼の持ち主であったが、周囲には秘密にしていた。
魅了の魔眼のことを知るのはごく一部の者達である。
エレンは夫であるダニエルに対して、魅了の魔眼を念入りにかけていたため、ダニエルはエレンの操り人形と化していた。
エレンは、ダニエルにかけた魅了魔法が解けないように、定期的に魅了魔法をかけ、心と魂を縛り上げている。
ダニエルは、エレンの魅了魔法に完全に縛られエレンの言うがままの操り人形となっていた
「エレン様」
魅了魔法をかけ終わったエレンに背後から声をかける者がいた。
「ミモザ。何かしら」
誰もが見惚れるほどの笑顔で窓際に立っている女は、メイド服に身を包んだ暗殺ギルドのメンバーであり、エレンの指示でレンを暗殺しようとした女であった。
「エレン様の魅了魔法はいつ見ても素晴らしいですね。恐ろしいほどの威力。その魅了魔法にかかれば逆らえるものはおりませんね」
「フフフフ・・・ありがとう。効果は高いのだけれど、色々制約もあるから大変なのよ」
「ですがその効果の高さは間違いなく。そのお力は羨ましい限り」
「ところで、レンはどうなっているのかしら」
「屋敷からは滅多に出て来ず。屋敷から出てくる時は多くの護衛に守られており、手出しが難しい状況にございます。社交の場にも出て来ないため策も立て難い状況」
「護衛は、お父様直属の騎士団でしょうから、あれを相手にするにはそれ相応の準備がいるでしょう」
「帝都にいるときも、ヨーク領にいるときも、ほぼ屋敷から出て来ていないにもかかわらず、冒険者ギルドに出入りしていると噂されており、かなり高ランクの魔物を自ら討伐して持ち込んでいるとの噂も出ております」
「レンが魔物を討伐?・・・監視している者達からはそのような報告は入っていませんよ」
「以前はヨーク領だけの噂だったのですが、最近では帝都冒険者ギルドでもそのような噂が流れ始めているようです」
「監視の目を潜り魔物討伐をしていると言いたいのですか、そんなことは不可能でしょう。監視と隠密行動に秀でた者達で監視しているその隙を、一度ならわかりますが何度もかいくぐるなど不可能です」
「ですがそのように考えるしかないかと、最近では亡者の群れを討伐して大量の闇の魔石を冒険者ギルドに持ち込んだり、ワイバーンを討伐したとか、さらに多くの冒険者と模擬戦を行い実力で冒険者達を圧倒しているなどという噂も聞こえております。さらに、最近人気が出ているゴールドウィンダーワインの開発者との噂も流れ始めています」
ミモザの報告を聞き不愉快そうな表情をするエレン。
「ありえないでしょう。あの無能がそこまでの力と能力を持つなど」
「ですがその噂はかなりの確率で事実のようでございます。このままでは、エレン様の野望の妨げになる可能性が高いと思われます」
「帝国を乗っ取るという私の野望、いえ、ファーレン家の野望の妨げになると言いたいの・・・あの無能が」
「その兆候がございます」
「本来なら陛下や皇太子殿下を魅了魔法にかけたかったのですが、思いの外ガードが硬いため公爵家に狙いを変え、生まれた娘を皇太子妃に送り込む計画を進めているのに、無能がいれば公爵家の完全掌握が難しくなるわね」
「このような状況のまま、やがて学園に入学となればハワード様の影響から多くの貴族達を束ねる存在になりかねません」
「そうよね。由々しき事態ね。ファーレンのお父様たちと至急相談をすることにしましょう。結果次第では、ミモザにも働いてもらいますよ」
「問題ございません」
エレンは怪しく微笑むのであった。
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