第30話 帝都冒険者ギルド

帝都冒険者ギルド本部は常に人で溢れている。

数多くの冒険者、ギルド本部職員、依頼人たちがひっきりなしに出入りしている。

レンはそんな帝都ギルド本部の比較的空いている昼前にやってきた。

多くの受付の中で比較的空いている受付に行く。

美人ではあるがどことなく怖さを感じさせるが、一番空いているというか誰も並んでいない。


「あの〜少しよろしいでしょうか」

「坊や、何かようかしら」

「レン・ウィンダーと申します。ギルド本部長をお願いしたいのですが」

「面会の約束は取られてますか」

「あっ・・・叔父さんに連絡するの忘れてた」

「叔父さん・・・レン・・・ああ、あなたがレン君ね。あなたのことは本部長から聞いているから大丈夫よ。予定があっても無理矢理にでも空けさせるから、ここで少し待っていてくれるかしら」

「はい」

「アイサ」


近くで手の空いている若い女性職員を呼ぶ。


「は、はい。ルーシー主任何でしょう」

「彼は、ギルド本部長の大切なお客様だから私が呼んできますから、それまでの間失礼が無いように見ていてください。いいですか、くれぐれも問題を起こさないようにしなさい」

「この子がですか」

「そうです。この子に何かあったら大問題になりますからね」

「大問題ですか・・・」


アイサと呼ばれた女性職員は怪訝な表情をしていた。


「すぐに戻りますから」


周辺の冒険者達は興味津々でコチラを見ている。

レンは下手に絡まれないように冒険者カードは出していなかった。

あくまでもギルド長のお客としての姿勢でいた。


「いつからここはお子様相手の場所になったんだよ」


比較的若い冒険者三人が揶揄うような口ぶりで近づいてくる。


「ライズさん、この子はギルド本部長のお客様です。余計な真似はしないでください」

「史上最速でDランクになった俺たちに文句を言うのかよ」

「それは最近破られましたよ。もはや史上最速ではありません」

「クッ・・あれはインチキだ。不正に違いない」

「そんなことを言っているとギルド長に怒られますよ」


レンは自分のことを言っているのだと分かった。

ヨーク領の冒険者ギルドに、魔の森での訓練で狩った魔物を大量の持ち込んだことで、一気にDランクに登録された。

下手なことを言うと藪蛇になるので黙っていることにする。


「それよりも俺たちと飲みに行こうぜ」

「仕事中です。帰ってください」

「いいじゃないかよ。誰も文句言わねえよ」

「仕事中です」


男達が強引にアイサの腕を掴む。


「やめてください」

「そら、行こうぜ」


アイサを掴んでいる手を捻り返し、力一杯に握り返す手があった。


「痛え、何しやがる」

「嫌がる女性に無理強いするのは、男としてカッコ悪いですよ」

「このガキ」


男達がレンに殴りかかろうとしたら、足を滑らせ顔面を床に打ちつけた。

レンが氷魔法を使い、とても薄い氷の膜を一瞬だけ男達の足の裏と床に作り出したため滑ったのだ。

滑った後は、証拠を残さずの氷を消している。


「あれ、どうしたのですか。足腰が弱ってるんですかね。いや〜歳はとりたくないですね」


再び殴りかかるが同じ結果となり再び顔面を強打していた。

周辺で見ている他の冒険者達は大笑いしている。

何度も殴りかかろうとするが結果は変わらず怪我が増えていくだけであった。


「レン君、その辺にしておいてくれ」


冒険者ギルド本部本部長ブラッドリーが立っていた。


「僕は何もしてませんよ。向こうが勝手に転んでいるだけですよ」

「ハァ〜。おまえさんがやっているのは、ルナ姉がゴロツキどもを相手にするときに得意としたやり方だ。血は争えんな」

「えっ、お婆さまがですか」

「そうだ。おまえさんの祖母であるルナ・スペリオル様がよく使ったやり方だ」


ルナ・ペリオルの名を聞いた冒険者がざわつき始める。


「ルナ・スペリオルといえば帝都の魔王の連れじゃなかったか」

「公爵家じゃないか」

「確か、氷結の魔女じゃ」

「あの話の内容からしたら魔女と魔王の孫か」

「そうなるとあの子は本部長の身内じゃんか」

「あいつら死んだな」

「それなら、あの子は現役の侯爵家当主になるぞ」

「おいおい、もっとやべえじゃん」

「かかわらんほうがいいぞ。不敬罪でバッサリとやられるぞ」


冒険者達が好き勝手ことを言っている。

絡んだ冒険者は顔が真っ青になっていた。


「おまえさんが血縁者の中で一番ハワード様とルナ様に似ている。二人の若い頃そのまま、いやそれ以上だな」


ブラッドリーの言葉を聞いた冒険者達がさらに騒ぐ。


「おいおい、あの二人を超える暴れぶりらしいぞ」

「恐ろしいやつが来たな」

「やばいぞ。奴らが喧嘩を売ったから、俺たちも巻き添えになるかもしれんぞ」

「流石にそれは・・・」

「いや、ありえる。あの二人の孫だぞ」

「「「「・・・・・」」」」


冒険者達が一斉に少し後退りする。

絡んだ男達は慌てて壁際に逃げた。


「少し酷くないですか」


レンが冒険者達の態度に少し不満げに呟く。


「仕方ないだろう。あの二人の孫なんだから諦めろ」


ギルド本部長モーガンは冒険者達を睨むように仕草をする。


「警告しておくぞ。こいつはこんな可愛い姿をしているが、その気になれば一人で魔の森に入り、1日でオークを30頭以上を簡単に狩る奴だ。あまりの凄まじさに忖度なく特例でDランクになったのがこいつだ。死にたくなければこいつに余計な絡みをしないことだ。冗談抜きで、本当に死ぬぞ。しかも、侯爵家当主であり侯爵の爵位を持つ現役の侯爵様だ。もれなく不敬罪のおまけも付くぞ」

「え〜!ランクをバラさなくてもいいじゃないですか」

「何を言ってるんだ。冒険者は舐められた終わりだ。しっかりと自分の力を示しておくことが大切なんだよ。いちいち絡まれたら面倒だろう。ところで今日は何のために来たんだ」

「あ、忘れてました。魔の森で狩った魔物が大量に溜まっているので買い取ってもらおうかと」


その言葉を聞いたモーガンの表情が少し引き攣る。


「レン君が溜め込んだ・・・前回を上回ると言うことかな」

「ハハ・・少し大物もあるので・・・」

「ハァ〜!大物か・・・なら直接解体場に行くか。ついて来てくれ」


モーガンの後について解体場に入る。

冒険者達も二人の後をついて行く。


「ここに出してくれ」


レンが次々に魔物を出していく。

後ろの冒険者達は、レンの収納魔法にも驚いている。

そして、レンがアイスランスで倒したワイバーンを出した。


「「「「ウォ〜〜! ワイバーンだ」」」」

「ワイバーンまで一人で倒したとは・・えっ、3体だと」


目の前に傷だらけのワイバーンが3体出現したことで、解体場に驚愕の声が響き渡る。

ついでに土の大精霊ノームが倒したジャイアント・ライノも、ワイバーンの陰に隠すようにこっそりと出しておく。

さらにリッチ達を倒した時に手に入れた闇の魔石を大量に出す。

高さ5m以上の魔石の山が出来上がる。


「この闇の魔石の山は、どれだけ倒しんたんだよ。そのひときわ大きな魔石はもしかして」


モーガンがひときわ大きな魔石に鑑定の魔法をかける。


「リッチの魔石」


冒険者達が再びどよめく。

モーガンは少し疲れた表情になってきた。


「レン君。少しは自重を覚えたほうがいいな」

「僕もそうしたいのですが、師匠がスパルタなもので」

「ああ・・師匠か・・師匠ね。おまえの師匠達に自重は無理か・・俺もルナ姉からの特訓には泣かされた・・・容赦することを知らんからな」


モーガンは何かを思い出すように遠い目をしていた。

モーガンはレンが水の大精霊の加護を受けていると聞いていて、さらにハワードとルナに加え大精霊からの特訓も知っていた。

それを知らないもの達は、ルナとハワードからの特訓だと解釈した。


「これだけ多いとすぐに精算できん。後日受け取りに来てくれ。それとも口座に入れるか」

「口座に入れてください」

「分かった。内訳だけは聞きに来てくれ」


後日、口座に金貨315枚が振り込まれた。

主な内訳として、ワイバーンは傷が多いため1体につき金貨50枚。傷が少なければそれだけ金額が高くなる。状態が良ければ1体で金貨100枚はするそうだ。

ジャイアント・ライノは金貨20枚。

リッチの魔石1個で金貨20枚。

そしてなぜか、冒険者ランクがCランクに上がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る