第26話 魔の森での修行

レンは,大精霊達と共に魔物たちが巣食う魔の森に来ていた。

戦うのはレンのみで,レンの成長のために精霊たちは手を貸したい気持ちを我慢して、レンが危ない時だけ手を貸すことにしていた。

精霊たちは自らの気配を消して少し離れたところで見守っている。

レンは,白いローブにスキルで作り出した白銀の仮面,白銀の刀を持って森の中を進んでいる。

まだ,気配察知のスキルを手に入れていないため,五感を研ぎ澄まし慎重に進んでいた。

微かに感じる風の揺らぎと大地を伝わってくる微かな振動を感じていた。

白銀の刀を構え,いつでも魔法を使えるようにする。

木の影から何かが猛スピードで飛び出してきた。

間一髪避けて横に飛び退く。

飛び出してきたのは猪の魔物であるワイルドボアであった。

ワイルドボアは数本の樹々を押し倒して止まる。

高さが2m,体長は5mはありそうな巨大な猪だ。

これでもワイルドボアの中では中ぐらいの大きさらしい。

ワイルドボアは突進を避けられたことでかなり怒っているようだ。

向きを変えて再び突進してくる。

風の初級魔法エアーカッターを放つ。

しかし,ワイルドボアはエアーカッターを跳ね返しながら突進してくる。


「チッ・・」


咄嗟に身体強化スキルと剣聖スキルを使いながら刀に魔力を流し,ワイルドボアの突進をギリギリで交わしながら白銀の刀を振るいワイルドボアの左目を切り裂いた。

怒りの咆哮をあげてレンを睨みつける。

ワイルドボアが動くと同時にレンも身体強化をアップしてワイルドボアに向かって駆け出した。

白銀の刀に流す魔力を増やすと,刀は強い輝きを放ち始める。

輝く刀を振り下ろすと,ワイルドボアは前のめりに倒れると同時に,その首が落ちるのであった。

倒したワイルドボアを収納魔法にしまう。


「そういえば,魔の森の木は高価なんだったな。せっかくだからワイルドボアが倒した木も貰っとくか」


倒れている木の枝を適当に刀で切り払い,切り払った枝も一緒に収納していく。

後ろで木が折れる音がして振り返るとワイルドボアの群れがいた。


「ゲェ,やば・・」


ワイルドボアの群れが一斉に駆け出し始める。

レンは,土魔法ストーンウォールを発動。

ワイルドボアの前に次々に石の壁が出来上がり,ワイルドボアの進路を塞ぐがワイルドボアは突き破り進んで来る。

先頭を進むワイルドボアから順番に石の壁を打ち破った瞬間に,白銀の刀に魔力を通して首を切り落として倒す。

石の壁を発動させながら位置を変え次々にワイルドボアを切り倒していく。

どれほど倒しただろうか一瞬気が緩んだ瞬間,横からワイルドボアが迫る。

ワイルドボアの牙が迫ったその瞬間,ワイルドボアの横腹に巨大なアイスランスが突き刺さる。


「こら,レン。油断しちゃダメだろう」

「ごめん,ウィン。一瞬気が緩んだ。助かったよ」

良く見るとワイルドボアの4本の足を木々の蔦が絡め取り動きを抑えていた。

「ユグも助けてくれてありがとう」

「うん,油断はいけない」

「はい,気をつけます」


倒したワイルドボアはウィン達の助けを受けた分も含めて合計が23頭になった。

レンの五感に何かが近づいてきているのが感じられた。


「これだけ戦いで音を立てたんだ。どんどんと魔物達がやってくるぞ」


ウィンの注意が飛ぶ。

次に現れたのはオークが7頭だった。

レンは素早くアイスランスを放つ。

長さ2mにもなるアイスランス。普通の魔法使いなら1mほど大きさだ。

アイスランスをオークに向かって次々に打ち出す。

そこには穴だらけになったオーク達が横たわっていた。


「レン。もっと制御をしっかりやろうよ。オーク程度は1頭につきアイスランス1本で倒すこと。オークが穴だらけじゃん。無駄打ちしすぎだよ」

「すいません」


他の魔法の制御が甘くても文句を言わないが、水や氷魔法の制御には厳しいウィンであった。

もう暫く魔物を狩って,一度帝都の屋敷に戻ることにした。


ーーーーー


ウィンと共にヨーク領の屋敷に戻るとルナがいた。


「お婆さま帰りました」

「レン。お帰りなさい」

ルナはレンの姿を見ると走り寄り思い切り抱きしめる。

「無事に帰ってきてくれて嬉しいわ」

「いっぱい修行してきました。魔物をいっぱい倒したので一度戻りました」

「魔物?」

「ウィンと一緒に修行中に何度か魔物を狩るように指示されて,ウィンの前で魔物を倒しました。たくさんあって収納魔法で保存してあります」

「えっ,収納魔法を覚えたの」

「あっ・・・は・はい。ウィンに教えてもらいました。経過時間も停止状態です」


そういえば使えることを話していないことに気がついて,この際だから水の大精霊もウィンに教えてもらったことにしておく。

面倒ごとは、全てウィンの名前を出せば大丈夫そうだ。


「それは素晴らしい。収納魔法の使い手はいるのだけれど,他の魔法に比べてどうしても少ないのよ。今日はお祝いね。ところでどのくらいあるのかしら見せてもらえる」

「どこに出しましょう。かなりの数です」

「屋敷の裏に回りましょう」


屋敷の裏は広大な森でウィンダー侯爵家の庭の一部で,外からは覗き見ることはできない。

ルナはサイラスを呼びレンと一緒に屋敷の裏に回る。


「ここならいいから,出してちょうだい」


レンは収納魔法から次々に倒した魔物達を出していく。


「ちょっと待ちなさい」


ルナの声で魔物を出すことをやめる。


「ワイルドボアだけで42頭あるわね。オークが30頭。まだあるのかしら」

「はい,他の魔物もありますし量的には少なくともまだ同じだけの量があります」

「レン。一旦しまってちょうだい」


レンは,出した魔物をまた収納魔法でしまっていく。


「確か本部長のブラッドリーがヨーク領の冒険者ギルドの視察に来ていたはず。セバス。冒険者ギルドに行きます。馬車を出して頂戴」

「はっ,承知いたしました」

「それとギルド長に先触れを出して頂戴」

「直ちに」


サイラスは急いで準備にかかった。

急遽、馬車が用意され2人は護衛と共に出発をした。

暫く馬車に揺られるとヨーク領にある冒険者ギルドに到着した。

既に先触れが到着しており,出迎えの人がいた。

馬車から降りると身なりを整えた青年が出迎えた。


「ルナ・スペリオル様,ようこそおいでくださいました。冒険者ギルド長のハリソンと申します」

「総本部長はいるかしら」

「はい,ご案内いたします」


ハリソンさんの案内でギルド内に入っていく。

昼前なので冒険者はまばらだが,皆コチラに注目している。このまま,3階へと上がっていく。

3階の一部屋の前で立ち止まりノックする。


「入れ」


中から声がして入っていく。

全員が入るとすぐにドアが閉められた。

奥のソファーには白髪混じりでガタイの良い男がいた。


「ハリソン」


奥のソファーに座る人物がギルド長の名を呼ぶ。

ギルド長が何か魔法を発動したようだ。


「遮音の魔法は張りました」

「座ってくれ」


ルナと一緒にソファーに座るレン。

他の者達は後ろで立っている。


「姉さん。急にどうしたんだい」

「えっ・・姉さん・・・」


ルナはレンに対してにっこりと笑みを見せる。


「そういえば教えて無かったわね。この子はブラッドリーと言って,私の一番末の弟で今は帝都ギルド総本部長をしているのよ」

「姉さん。俺も良い歳なんだからこの子はやめてくれよ」

「別に問題ないでしょ。私からしたらこの子でしょ」

「ハァ〜俺が嫌なんだよ。ハリソン笑うな」


後ろでギルド長のハリソンさんが笑いを堪えているのが見える。


「まあ,それは後回しだ。今日は何の用だよ」

「今日はこの子のことね」


ルナはレンの方を見る。


「あ・・レン・ウィンダーと申します」

「話題の新侯爵様か。スペリオル公爵家も安泰という訳だな」

「これから話すことは秘密厳守の内容もあるから漏らしたら首が飛ぶわよ」

「はっ?」

「誓えるかしら2人とも」


2人とも急に真顔に変わる。


「秘密厳守は誓う」

「私もお誓いいたします」

「レンは,両親から命を狙われているため,スペリオル家とは縁を切りウィンダー侯爵として独立させました。これは皇帝陛下,宰相閣下も全て分かった上で,ご承認の上での独立」

「えっ・・待ってくれ、姉・・」

「詳細は省きます。なぜ陛下がそうされたかといえば,レンが水の大精霊の加護を受けているかことが分かったからです」


総本部長は頭を抱えている。


「本当かよ・・・そんな重大事項を教えないでくれよ。寝れなくなるだろう」

「もっと重大事項があるけれど,心配性のあなたが倒れると悪いから重大事項はここまでにしてあげる」

「俺,胃の調子が悪くなってきた。姉さん,帰って良いかな」

「ダメに決まってるでしょ」

「だよな・・・ハァ〜それで俺に何をしろと」

「レンは,魔法と剣の修行をしているの。魔の森で魔物を大量に倒してきたらギルドに引き取って欲しいのよ。ついでに今後もレンが魔物を倒したら,魔物を引き取ってもらえるようにしてほしいのよ。ブラッドリーに話を通しておけば魔物を持ち込みやすいでしょ」

「この歳で魔の森だと。スパルタすぎねえか,いくらハワード義兄にいさんの孫でもやりすぎだろう」

「水の大精霊様の直接指導よ」

「マジか・・分かったよ。なら冒険者登録もしてしまおう。倒した獲物はなんだ。オーク1頭か2頭か」

「屋敷で確認したのは,ワイルドボア42頭,オーク30頭。量はこの倍以上はあるそうよ」

「???俺の聞き間違いか,ボア42頭,オーク30頭と聞こえたが」

「そう言ったわよ」

「一体どこにある。魔法袋か」

「レンの収納魔法にしまっている」

「収納魔法もあるのかよ,解体場で出してくれ。案内する」


解体場に移動すると解体主任を呼び寄せる。

頭がテカテカに光るオッサンがやってきた。


「チャド。ここには誰も入れるな。これから見ることは秘密厳守だ」

「は・はい」

「レン君出してくれ」


次々に積み上げられる魔物達。

呆然と目ている解体場職員達は,慌てて魔物を数えていく。


「ワイルドボア49頭,オーク38頭,キラービー32匹,ワーム25匹,サーペント10匹になります」

「これも使えますか」


レンが魔の森の木を出すと職員の目の色が変わる。


「これは,高級木材として人気の魔の森の木です。ぜひ,ここに出してください」


8本の巨木を出していく。


「魔物は合計で金貨27枚。魔の森の木は1本金貨3枚。8本あるから金貨24枚。合わせて金貨51枚になります」


金貨が日本円で約10万,銀貨が約1万,銅貨は約千円だから,金貨51枚は日本円で510万円と言うことだな。


「どうするこれでいいか」

「かまいません」

「金は口座を作って入れておくか,それとも持ち帰るか」

「口座でお願いします」

「登録をする。こっちにきてくれ」


一階の奥にあるギルドカード作成場所にくる。

既にカードが用意されている。


「ここに血を一滴たらしてくれ」


レンが血を一滴たらすとその魔力紋が登録された。


「これで他人が勝手にお前さんのカードを使うことはできない」

「ここに今度来るときはハリソンを呼び出してくれ。帝都なら受付で俺の身内だと言えば大丈夫だ。可能なら事前に連絡してくれ」

「はい,それとですがカードがDランクになっていますが」

「本部長権限でDランクだ。こんな大量に持ち込むやつをFランクにできるか。あとこれはギルドの規約と注意事項だよく読んでおいてくれ。ここで説明してもいいが目立ちすぎるからな。戻ったら読んでくれ。用があるときは俺かハリソンを呼んでくれ、受付の連中に言っておく」

「分かりました」

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