第27話 脳筋精霊

魔の森でなぜが武術訓練をさせられている。

土の大精霊ノームは、見た目以上に脳筋なようだ。

土の大精霊ノームが稽古をつけてくれると言うから土魔法かと思いきや、なぜか朝から肉体訓練となっている。

腕立て伏せ、腹筋、スクワットを各100回。

その後にひたすら正拳突きをさせられている。


「レン殿。もっと力を込めて。突きのひとつひとつに力を込めなさい。正拳突きこそが全ての基本」


少し手を抜くとすぐさま指摘されてしまう。

既に正拳突きを延々と 2時間である。


「・・そ・・・そろ・・そろそろ休憩を・・・」


レンはとうとう動けずにへたり込み、息も絶え絶えである。


「甘い甘い甘い。限界を超えた先にことノーム流精霊拳の真髄がある」

「???・ノーム流精霊拳て・・・何・・知らないよ。ノームは精霊でしょ」

「その通り、儂は精霊。土の精霊。この儂が長い時をかけて作り上げた武術こそがノーム流精霊拳。土魔法が効かぬ相手をこの拳で叩きのめすために作り上げたのだ」


ノームが敵を拳で叩きのすために作り上げたと聞いて呆れるレン。


「いやそこは、新しい土魔法を考えようよ。精霊でしょ。精霊らしく新しい魔法でしょ。新しい土魔法を作ろうよ」

「強敵を拳で叩きのめしてこそ強者。真の強者こそ拳で決まる」


ノームは右の拳を高々と掲げ、恍惚とした表情をしている。


「僕は普通でいいです。平凡な生活で十分なんですけど」

「レン殿も強者とならねばならん。アーテル様もそれを望んでいられるはず」

「アーテル様はそこまで血の気は多く無いかと・・・」

「レン殿は使徒である以上、強くあらねば!魔力を使い切ったあと、剣などの武器無い。そんな時になったらどうするのです。そんな時こそ、己の拳と肉体を、武器として戦わねば生き残ることは出来ない」


土の大精霊ノームは、レンの言葉は聞かずに滔々と己の意見を述べている。


「いったい僕を何と戦わせるつもりなの。ノームは土の大精霊なんだから拳ではなく、土魔法で敵を倒そうよ」

「レン殿。正拳突きを極めればこのようなこともできる」


ノームは構えると正拳突きを1発放つ。

強烈な風圧が起きたと思ったら少し離れたとこのにある大木が大きな音を立てて数本折れていた。


「この通り、正拳突き1発でこのような破壊力を持つ」


魔の森の木はとても硬い。

それを触れることなく折る。

正拳突きの風圧なのか、それとも正拳突きによる衝撃波なのか、原理はわからんが威力は確かなようだ。

ノームが納得するまで帰れそうに無いためやむなく立ち上がるレン。


「レン殿。正拳突きの続きです」


筋肉痛で動かぬ腕を動かし正拳突きを再開する。

魔の森の中のため魔物が襲ってくるかと思っていたが、ノームのひと睨みでみな逃げていく。

背後で巨木が倒れる音がして振り向くとそこに巨大なサイがいた。

魔物のジャイアント・ライノである。

高さが5m以上あり、額に1本の角を持ち、分厚く硬い鎧のような皮膚で無類の防御力を誇り、巨体を生かした突進で敵に体当たりして敵を薙ぎ倒す。

巨大なダンプカーが全速力で突っ込んで来るのと同じ。

とても気性が荒いと言われている。格上であろうとも戦いを挑む習性だそうだ。


「ほぉ〜ジャイアント・ライノごときで儂と闘うつもりか、いいだろうこの拳で倒してくれよう」

ノームが口元に笑いを浮かべる。


「土の大精霊なんだから、土魔法を使おうよ」

「フフフフ・・・たぎるわい」

「だめだ。何も聞こえてないよ」


レンは危険を察知して、巻き込まれにように離れたところに避難。

ノームとジャイアント・ライノはしばらく睨み合いを続けていた。

静寂な中で、強烈な殺気のぶつかり合いで息をするのも重苦しく感じる状態となってた。

その静寂さをぶち破るかのように、ジャイアント・ライノの雄叫びが響き渡る。

そして、ノームに向かって急加速で突進してくる。


「さあ、来るがいい。持てる力を全てぶつけて見せろ!」


ノームの拳とジャイアント・ライノがぶつかる瞬間、凄まじい衝撃波が発生した。

全てのものが衝撃波で吹き飛ばされる。

レンも飛ばされそうになった瞬間、周囲に氷壁ができ衝撃波を防いでくれた。


「えっ・氷!」

「なかなか楽しいことになってるじゃないか」

「ウィン!」


レンの後ろに水の大精霊ウィンが立っていた。


「全くあの脳筋精霊が!」

「助かったよ」

「あの馬鹿は、いつも考えなしに行動する」


氷壁の外では戦いは激しい戦いが続いている。


何度目かの激突を終えるとジャイアント・ライノの突進力が明らかに落ちている。

分厚い鎧のような皮膚であっても、身体中いたる所で大きく傷ついていた。

それでも闘志をみなぎらせてノームに突進する。


「よかろう次の一撃で仕留めてやろう」


ノームからジャイアント・ライノに向かって突進していく。

ジャイアント・ライノがスピードが出る前に飛び込み、手刀で首を切り落としていた。


「レン。ノームが倒したジャイアント・ライノをすぐに空間魔法でしまって、血の匂いで他の魔物がくるよ」


レンは慌てて空間魔法にジャイアント・ライノをしまい込む。

ついでだから周辺で倒れている魔の森の木も空間魔法で保管。


「ノーム。レンを危険な目にあわせるな。やるならしっかり守りながら戦え」

「ハハハハ・・・今回はちょっとしたアクシデントだ」

「ハァ〜、ちょっとどころじゃ無いだろう。自分が来なかったらレンが大怪我をしていた」

「ちゃんとウィンが来て守ってくれたじゃないか、問題あるまい」

「全く、昔からいつもこうだ」


ウィンは呆れている。


「ウィン。呆けている暇はないぞ。次のお客だ」


ノームが上空を見る。

上空に飛び回っている3つの姿。


「なんだ、トカゲか」

「いや、あれはワイバーンでしょ。ワイバーン」


レンが顔を引き攣らせながら呟く。

上空に翼竜によく似たものが周回している。


「単に羽が生えているトカゲだ」

「ワイバーンは複数いたらAランクの冒険者パーティじゃないと討伐は無理だから」

「ワイバーン1頭くらいなら、レン1人でもいけるだろう」

「いや!無理無理、無理だから、ゴブリンやオークと違うから」

「氷魔法や水魔法を使えば戦えるだろう。木々の魔力も豊富だ。思いっ切り戦える。僕が氷の障壁を張っておいてやるから自由に攻めてみろ」


まさかのワイバーンとの問答無用の戦いが始まってしまった。

アイスランスを次々に打ち上げるが軽々と避けられてしまう。

逆にワイバーンが風魔法を使いウィンドカッターを次々に打ち込んでくる。

ウィンドカッターの刃が次々に氷壁に当たり、氷を削る音を立てている。

削れた氷壁は、ウィンが次々に修復してさらに強固になっていく。

ワイバーンは地上の動きにかなり注意を払っている。


「地上の動きにはかなり注視しているのか、それならそれを利用してやる」


レンは森中から魔力を集め始める。

レンの周囲にワイバーンからよく見えるようにアイスランスを作り始める。

同時に空中のワイバーンよりも上空にアイスランスを作り始める。

魔力の豊富な魔の森ならではの力技。

地上からアイスランスを一斉に打ち上げる。

ワイバーンたちが避けたところに上空からアイスランスが降り注ぐ。

ワイバーンが意識していなかった上空からのアイスランスによる攻撃を受けて、3体のワイバーンに次々にアイスランスが突き刺さる。

アイスランスが突き刺さったところからどんどん凍結していく。

墜落していくワイバーン。


「レン。止めをさせ」


地上に落ちたワイバーンに向かって再びアイスランスを打ち込む。

ワイバーンの頭と心臓にアイスランスが突き刺さりワイバーンの討伐が完了した。


「レン。やればできるだろう」

「無茶すぎるよ」

「ハハハハ・・・大丈夫大丈夫。疲れただろうから帰ろうか」

「本当だよ。もうクタクタ」


レンはワイバーンを回収した後、屋敷に帰りゆっくり休むことにした。

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