第25話 金色に輝くワイン
ゴールドマスカットのワインを仕込んで1ヶ月が経った。
ヨーク領の屋敷には、お爺さま、お婆さま、ヨーク領商人ギルドマスターのモーガンさんが集まっていた。
ワインの保管蔵で瓶に移されたワインが10本運ばれてきた。
執事長のセバスがワインのコルクを抜いて、グラスに注いでいく。
お爺さま、お婆さま、モーガンさんがワインの注がれたグラスを手に持つ。
「ワインが金色に輝いておる。こんなワインは初めてだ」
ワインの入ってグラスを上に掲げて色の見るお爺さま。
「この香りも素晴らしいです」
ワインの香りを嗅ぐお婆さま。
3人はグラスを口に運ぶ、一口だけ口に含んだだけであまりの美味しさに無言となり、そのままグラスを飲み干してしまった。
レンは、まだワインはダメだと言われたので、ゴールドマスカットのフレッシュジュースを飲んでいる。
「これは、素晴らしいワインだ。これは売れます。爆発的に売れますよ」
商人ギルドマスターのモーガンさんは、大興奮状態だ。
「これはすごいモノができた」
「ハワード。これは陛下にも献上しましょう」
「そうだな。さっそく献上することにしよう」
「レン様。名称はどうしますか」
モーガンさんの問いかけにどうするか悩んでしまう。
「レン。悩まんでもいいだろう。あまり考え込まずに、できるだけ簡単に考えた方がいいぞ」
「なら、材料のブドウの名前と家名を入れましょう」
「それでいいだろう。具体的にどうする」
「ゴールドマスカットのゴールド。ウィンダー侯爵の名を合わせ、ゴールドウィンダーワインでどうでしょう」
「いいだろう。それと偽物対策もしておいた方がいいだろう」
「お爺さま偽物対策ですか」
「これは大人気になるだろう。そうなると必ず偽物を作る者たちがでる」
「この色合いと香りは真似できませんよ」
「それでもやる馬鹿はいる」
どうするか考えているとモーガンさんがいい案を出してくれた。
「ワインを詰めた瓶をコルクで封をしますが、その上から錬金術で作られた特殊な紙で封印をしましょう。その紙には、魔力を通すとウィンダー侯爵家の家紋が浮かび上がるように、錬金術で細工をするのです。見た目にはただ単に瓶の口に巻かれた紙にしか見えません。表面には色を付け何かワインを表すような意匠を付けておきましょう。錬金術で作られた紙ですから水にも強いですから、これで大丈夫かと思います」
「それはいいですね。それでやりましょう。ですが作った封印の用紙を横流しされたりしませんか。それと錬金術の紙を調べられて真似されませんか」
「レン。それなら問題無いぞ」
「お爺さま。大丈夫なんですか」
「侯爵家お抱えの錬金術師に作らせよう。侯爵家お抱え錬金術師なら当家に不利なことを行わないように契約魔法を結んでいる。それなら横流しされる心配も無い。さらに、その紙を作る段階で、錬金術を調べようとしたらその魔法陣が消えるように、魔法陣に細工を施しておけば問題ない」
「分かりました。それなら安心ですね。でも、当家に錬金術師はいるのですか」
「錬金術師としては雇っていないが錬金術を使える者たちがいる。ここの館には執事補佐に1人。メイドの中に1人いる。屋敷内の修繕や維持に錬金術を活用している。その2人にやらせよう」
「ならその分給金も増やしてあげないとですね」
「流石は侯爵家の当主だ。そうしてあげれば喜ぶだろう」
執事長セバスさんが執事の服を着た若者と1人のメイド若い女性を連れてきた。
「連れてまいりました。この2人がこの館で錬金術を使える者たちです」
執事服を着た若者が前に出る。
「執事補佐のカルロと申します」
「私の甥になります」
「セバスさんの親戚なんですか」
「はい、どうぞよろしくお願いいたします。詳細については聞きました。問題なくできます」
「分かりました。お願いしますね」
カルロが下がると次にメイド服を着た女性が前に出る。
「メイドのニーナと申します。よろしくお願いします。カルロさんと同じく問題なくできます」
「分かりました。よろしくお願いします」
挨拶を終えるとニーナは後ろに下がる。
「説明は受けたと思いますが、しっかりお願いします。その分給金も増やしますから」
「「ありがとうございます」」
これでゴールドウィンダーワインの売り出し準備が始まった。
全ての準備が整った。
瓶詰めとラベルの準備が終わり、帝国皇室への献上も終わった。
あとは売り出すだけとなった。
ゴールドウィンダーワインの初売りの価格は、1本金貨3枚と決まった。
商人ギルドマスターのモーガンさんは、金貨5枚以上でも売れると言っていたが、初回出荷分の価格として金貨3枚とした。
「う〜ん、金貨5枚でもいけるはずなんだが」
「モーガンさん。それは、先ほど言いましたよ。今回は初出荷ですから人々に認知してもらうことが先です。次回出荷分から金貨5枚としましょう」
今回は1000本のワインを商人ギルドに出していた。
売り上げは金貨3000枚分になる。
先に陛下に10本献上しておいたら大評判となり、追加で30本献上することになった。
陛下と前陛下が揃ってゴールドウィンダーワインを飲んで、あまりの美味しさに大感激して、追加で取り寄せたとの噂が広まっていた。
当然その噂はこちらで広めたのであるが、嘘は言っていない。
全て、事実を広めただけだ。
噂が広まり既に多くの予約が商人ギルドに入っている。
その予約の多くは貴族や大商人たちからであった。
いよいよ販売開始当日、既に予約で700本の売り先が決まってしまっていた。
商人ギルド業務開始時刻と同時に残り300本の売り出しである。
噂を聞いた高ランク冒険者や周辺の商人たちが購入に商人ギルドにやってきて、わずか3時間で完売となった。
翌日からは、ワインを飲んだ人達が次の売り出しの確認が入り始めていた。
そして、ワインの予約が大量に入り始めていた。
既に、前回出荷分を超える予約が入っている。
ゴールドウィンダーワインを飲んだ貴族のご婦人たちから、肌が綺麗になり若返ったような気がするとの声が数多く出て、それが予約の増加に拍車をかけていた。
そのため、ワインの増産を決め、次回は3ヶ月後に出荷とした。
ワインそのものは1ヶ月でも可能だか、他の準備が間に合わないため余裕を持たせることにしたのだ。
どうしても欲しいものたちは、お爺さまやお婆さまの伝手を頼って手に入れようとするものたちも出始めている。
このためゴールドウィンダーワインの出現で、帝国内におけるお爺さま・お婆さまの発言力がさらに高まる結果となってしまった。
やがてゴールドウィンダーワインは、諸外国からも引き合いが来て、さらに値段が暴騰していくことになるのであった。
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