第20話 調査隊
精霊の森奥深くにある精霊の湖周辺では,レンが大精霊達と触れ合いながら時空魔法と水魔法・氷魔法などのLv上げをやっていた。
魔法ルームを使い中に入り,時間経過半分の特性を活かして,氷魔法の訓練をしたり,木刀を振りながら剣聖のスキルを磨いていた。
エルフの国近衛師団団長ガルムは,女王からの命令を受けて5名のメンバーを選び精霊の森に入っていた。
慎重に進みながらの為,進み具合が遅い。
だが,幸いなことにここ精霊の森には魔物がいない。
精霊の森は,精霊達の力が強いため魔物は生き残れ無い。
いるのは通常の動物達のみ。
しかし,精霊達は他の種族には厳しい態度をとることが多いため,ここに入るにはかなりの注意を要する。
精霊の森に入って既に7日が過ぎてようやく中層域と言われる付近に入っていた。
今まで以上に,精霊達の怒りを買わないように注意が必要になってくる。
この森の奥深くに精霊達が集う湖があると言われている。
エルフ達は精霊の森の外周部で薬草の採取などをしているが奥には入らない。
奥深く入ることを精霊達が嫌っていると言われているからだ。
精霊達はエルフであっても滅多に姿を見せない。
王宮のある世界樹の精霊も,世界樹の恵みは与えてくれるが,滅多に姿を見せることがない。
エルフ達は,姿は見えなくても精霊がいるかいないか,精霊が怒っているのかどうかは感じ取ることができる。
「隊長。本当に世界樹の精霊様は現れたのですか」
一番若く後方の警戒役であるエルスが疑問を口にする。
「女王様を疑うのか」
「そ・・そんな事はないですけど・世界樹の精霊様は,ほぼ姿を見せないのにいきなり現れて精霊の森奥深くに飛び去ったと言われても・・・」
「それも含めて調査することが今回の目的だ」
「そうなんですけど・・・なんか精霊の気配がとても強いと思いませんか」
ガルムも精霊の気配がとても強いことは感じていた。
他の隊員達もいつも以上に強い精霊の気配に内心ビクビクしていた。
その時,5人の目の前に小さな緑色の光が現れた。
羽のある小さな精霊達であった。
10センチほどの大きさの精霊が3人。
『これ以上先には来ないで』
「精霊の湖に行きたいのだ。通してもらえないか」
『ダメ。通したら僕たちが怒られる。だから帰って』
「この先で何か起きているのか,教えて欲しい」
『エルフに知る権利は無いです。帰って』
「せめて何が起きているのか教えて欲しい」
『水の大精霊様,風と森の大精霊様も来ています。そんなにお二人のお怒りを買いたいなら好きにすればいい。その代わりエルフの国が消えても知りませんよ。僕らは何にもこまりませんよ』
小さな光が徐々に集まり始めている。
精霊達が集まり始めていた。
「た・・隊長・・こんなに精霊が集まるなんて」
その時ひときわ大きな光が現れた。
「お前達何をしにきた」
「ノトス様」
エルフ女王と契約している風の精霊ノトスであった。
「この先に何が起きているのですか」
「お前達に関係ないことだ。余計なことに首を突っ込むな。これ以上首を突っ込むならエルフの国から全ての精霊を引き上げる。それが嫌なら帰れ」
精霊達は,大精霊達から使徒の事は話すなと厳命されていた。
精霊達からしたら,エルフと大精霊どっちを選ぶと言われたら当然大精霊である。
想像以上に厳しい物言いにエルフ達は驚いていた。
「せめて,何が起きているのかだけでも」
「帰れと言っている・・・チッ・・どうやらお前達が余計な者達を連れてきたようだ」
その瞬間,漆黒の槍が精霊達とエルフ達に向かって降り注いできた。
風の精霊ノトスは,一瞬にして強烈な暴風の風を起こして漆黒の槍を風の力で跳ね返す。
漆黒の槍が周囲の木々や大地に当たるとそこが黒く変色していく。
「呪術か」
漆黒の槍が放たれた奥から拍手をしながら1人の男が出てきた。
男の後ろには他に2人の男がいる。
いずれも黒い服を着て,顔には刺青がある。
「流石は精霊の力。すごいものです。そしてエルフの皆さん。道案内ありがとう。お陰で楽ができました」
「馬鹿な,後をつけられただと・・・」
「あの程度の警戒では,修羅場をくぐり抜けてきたものからしたら,児戯に等しいですよ」
「何だと!」
ガルムが怒りを見せた瞬間,右手の森の中から再び漆黒の槍が放たれる。
だが,ノトスの起こす風で再び風で弾き返される。
しかし,弾き返された漆黒の槍が周囲の木々と大地を黒く染めていく。
風の精霊ノトスはその様子を見て思わず呟く。
「呪術とは,なかかな厄介だな。お前達の目的はなんだ」
「フフフフ・・・よくご覧ください。この禍々しく漆黒に染まっていく木々と大地。素晴らしいじゃありませんか。芸術と言ってもいいと思いませんか」
男は恍惚とした表情をしている。
「お前の言う,芸術は我らとは相入れないようだ。失せろ」
「まだ,お家に帰るには時間が早いもので,もう少し遊んでいただけたら・・・・」
「断ったらどうするのだ」
「断っても,断らなくても,結果は同じ。この鬱陶しい森を暗黒に染め上げるだけ」
漆黒に染まった大地から黒い人のようなものが,次々に湧き上がってきた。
木々と大地が漆黒に染まった部分がどんどん拡大している。
風の精霊ノトスの放つ風の刃エアカッターが人の姿をした黒い人を次々に切り裂いていくが,切られたそばから復活していく。
「チッ・・呪いビトか」
「流石はよくご存知で,人々の怨念や欲望,妬みがある限り消えませんよ」
「怨念や欲望を送り込んでくる魔法陣があるのだろう。それを潰せばいいだけだ」
「ククク・・・探せますかね。見つける頃には,この鬱陶しい森が終わる頃かもしれませんよ。ハハハハ・・・・」
その男は,急に笑い声を止めた。
自らの息が白くなっている事に気がつく。
「吐息が白い?なぜ,温暖なこの地で気温が下がるのだ・・・」
男の言葉と同時にこの場の気温が急激に低下していく。
空中では小さな光の乱反射が起こる。空気中の水分が凍りつき,そこに光が反射することで起こるダイヤモンドダストである。
「一体何が起きている」
呪いビトにアイスランスが突き刺さった。
アイスランスが突き刺さると呪いビトが消滅した。
「馬鹿な,アイスランス如きで呪いビトが消えるはずが無い」
その時,精霊達が左右に分かれ,その中央の奥に白銀の仮面を被り,白いローブを身につけた背の低い子供のような存在がいた。右手には白銀の刀。左右に白銀のウッドゴーレムを従えている。ウッドゴーレムは神聖魔法を纏わせた白銀の槍を手にしている。
白銀の仮面した子供はレンであった。
レンは顔を見られないようにスキル【木】で作り出した白銀の仮面を被りこの場にやってきていた。
精霊達はまるで主に礼を尽くすかのように皆レンに対して片膝をついていた。
地母神アーテルの加護を持つ使徒であるため,レンの使う魔法には地母神アーテルの神力が混じっているため,レンの放つアイスランスに貫かれた低級のレイスに近い呪いビトは浄化され消滅したのだ。
気温はますます下がっていく。
冬でも温暖なこの地に霜がおり,大地も木々も白く染まり始める。
気がつくと男達の足元が凍りつき動くことが出来なくなっていた。
呪いビトがレンに襲い掛かるが,白銀のウッドゴーレムが,その手に持つ白銀の木槍で呪いビトを貫くと次々に消滅していく。
呪いビト,漆黒に染まった木々,漆黒の大地が凍りつくと呪いは次々に消滅していく。
「お・・お前はなんだ。この規模の氷魔法,白銀のゴーレムなどは聞いたことがないぞ。しかも,
氷魔法で呪いが浄化されるはずが無い。おかしいだろう。貴様何者だ」
レンは答えるはずも無く。
淡々と氷魔法と白銀のウッドゴーレムを使っていく。
レンの代わりにシルフィーが答える。
「我は風と森の大精霊シルフィー。貴様らイグ教徒であろう。愚かなことよ。そのような神は存在していない。悪辣な悪魔に騙されているのに哀れなものよ」
邪神イグを崇める信徒達をイグ教徒と読んでいるが,精霊達の目にはそのような神は存在せず,狡猾な悪魔達に踊らされているだけにすぎない存在であった。
「我らを愚弄するか」
「普通なら成功していた企みであろうが,やはり貴様らは愚かだ。最も精霊が集まっているときにくるとは」
「なんだと・・・」
男はシルフィーの言葉を聞き,レンを見つめる。
「まさか・・・・・」
「他に知らせようとしても不可能だぞ。既にこの森にいる貴様の仲間は捉えた。森の外に伝えることもできぬように精霊達の力で覆い尽くした」
「貴様,・・・」
「ブリザード」
レンは一言だけ呟いた。猛寒波が男達を襲い全て凍りつき,襲撃者達はそのまま命を落とした。
呆然とするエルフ達を見ることもなくレンは森の奥に戻ろうとする。
「お待ちください。貴方様は一体・・・」
エルフのガルムの言葉にレンは答えることもなく去っていく。
精霊ノトスが再び答える。
「詮索無用。ここでのことは喋るな。ただし,女王だけは話すことは許してやろう。他には話すな。話せばエルフの国を精霊ユグドラシルが見捨てるぞ」
エルフ達はただ呆然として見送るしかなかった。
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