第16話 祖父の黒歴史

レンの水魔法で屋敷にあるレンの部屋を水魔法で水浸しにして破壊。

ベッドも水でびしょ濡れ、調度品も全て水に浸かってしまった。

窓ガラスは全て割れ、カーテンは引きちぎれている。

部屋のドアも水圧で吹き飛び、屋敷内に水が大量に流れ込んでいる。

慈母神アーテル様の神像と水の大精霊ウィンの像周囲だけ、まるで水が避けたようになっている。

さらに庭も水浸しにしていた。

綺麗な芝生の庭が水没している箇所もある。

今屋敷の使用人達が総出で後片付けをしている。

全員で生活魔法のドライ、もしくは風魔法で乾かすように動いている。

見ていると風魔法に少し火魔法の魔力を感じる。

風魔法に火魔法を加えて風の温度を少し上げて、早く乾くようにしているようだ。

ずぶ濡れの場所がどんどん乾いていく。


「ごめんなさい」


ハワードとルナに素直に謝るレン。

するとハワードとルナは2人でレンを抱きしめる。


「流石は儂の孫じゃ」

「素晴らしい!流石は私の孫よ」


2人は大興奮状態だった。


「エッ・・・・」

「この程度のことは気にせんでいい」

「そうです。水魔法なら私が得意ですから教えてあげましょう」

「エッ・・・大丈夫なの・・お部屋とお庭を水浸しにしてしまったけど」

「ハワードのやったことに比べたら大したことじゃないわよ。学園に通っていた頃のハワードは本当に酷かったんだから」

「えっ・・・ルナ。それは今ここで言わなくとも・・・」


ハワードは焦った表情をする。


「お爺さまのやったこと・・・?」

「帝都学園時代にハワードと今の宰相閣下と前皇帝陛下の3人で学園にある広大な広さの魔法練習場を完全に破壊したのよ。ハワードが中心になって新しい殲滅魔法の実験をしたらしいのよね。今でも覚えている。あの巨大な建物が瓦礫の山になっているのは衝撃的でした。そこから、付いた二つ名が帝都の魔王。その日から、帝都の人々から帝都の魔王と呼ばれるようになったのよ」


驚いてハワードを見ると目を逸らされた。


「形あるものはいつか壊れる。壊れることが早いか、遅いかだけじゃ・・・少し・ほんの少しだけ壊れる時期が早かっただけだ」

「あんな場所で魔法実験をしなくてもよかったでしょ」

「思い付いたら試さなくては、インスピレーションが逃げてしまう。進歩には犠牲はつきもの」


お爺さまは遠くを見るような目をしていた。


「あの時は、ハワードのお父様。レンの曽祖父になる方が大激怒されて大変だったのよ。それに比べれば大したことないわよ」


そこにウィンの笑い声が念話で聞こえてくる。


『ププププ・・・君のおじいちゃんはあの帝都の魔王だったとは・・・君のやらかし体質はおじいちゃんからきているのか・・・学園に入ったら帝都の魔王2世と呼ばれることは確定だね』

『ウィン。僕は絶対そんなことにはならないからね。でも、ウィンはお爺さまを知っているの』

『若かりし頃は、引退した前皇帝と宰相と3人であちらこちらで暴れていて、見ていてとても面白かったよ。建物破壊やスラムを牛耳る裏社会の連中との抗争は日常茶飯事。3人は悪戯で僕の青の湖に火魔法を打ち込んできたこともある』

『え〜』

『当然、僕が許すはずも無く、水魔法で水の牢獄に閉じ込めて3人を溺れ死ぬ寸前にしてやったけどね』

『マジか・・・3人で何やってんだよ』

『ハハハハ・・・帝都学園の同級生たちや聖女が必死に謝罪してきたし、レンのお婆さんが水魔法の使い手で、僕のお気に入りだったこともあり最後は許してあげたけどね。まあ、がんばってね帝都の魔王2世君。君ならおじいさんを超える黒歴史を作ってくれると期待しているよ』


言うだけ言ってウィンからの念話は切れた。


「でもどうして急に水魔法が使えるようになったのかしら」


ルナが疑問を口にする。


「お婆さま、恐らくですけど青の湖を訪れたためかもしれない」


青の湖と聞いてハワードの顔が引き攣るのが見えた。


「青の湖・・・水の精霊様がいると言われている青の湖のことかしら」

「うん。サイラスたちと立ち寄った時に急に湖の輝きがとても強くなった時があったんだ。もしかしたらその時に水魔法を貰えたのかもしれない」

「それは素晴らしいことよ。きっと水の精霊様がハワードを許してくれたから水魔法を授かったのかもしれないわ」

「水の精霊様が許されたのですか・・・」

「学園時代にハワード達3人は、青の湖に面白半分で火魔法の広範囲殲滅魔法【超爆炎(スーパーエクスプローション)】を打ち込んだのよ」

「【超爆炎】ですか・・・」


驚いてお爺さまを見ると再び目を逸らされた。

水の大精霊ウィンがお爺さまが火魔法を湖に撃ち込んだと言っていたからファイヤーボール程度と考えていたら、殲滅魔法【超爆炎】ですか。

一瞬で周辺を焼き尽くして焼土と化す【超爆炎】魔法を帝都の中で使う、それも青の湖に向かって使う。

そりゃ〜水の大精霊ウィンも怒るよ、納得だ。


「あ・・あれは若気の至りというやつだ。まさか本当に水の精霊がいるとは思っていなかったんだよ・・・」

「ハワード何を言っているの、精霊様がいなくても帝都の中ですよ。そんところで殲滅魔法を放つ人がいますか。そんなことをするから皆が呆れるのですよ。しかも【超爆炎】魔法。燃え広がれば帝都が火の海になりますよ」


レンの目には、いつも大きく見える祖父が、ルナの言葉で心なしか小さく見えた。


「青の湖から立ち上る殲滅魔法【超爆炎】の炎を見て、学園のみんなであわてて青の湖に行ったら、水の大精霊様が怒って3人が水の牢獄の中に閉じ込められてしまい。3人が溺れ死ぬ寸前だったの。その時は同級生に聖女のシンシアがいたから、水の大精霊様が怒っていることが分かったの。みんなで必死に水の精霊に謝罪したら水の牢獄は解除され、3人は助かったのよ」

「お婆さまは、お爺さまの命の恩人と言うことですね」

「フフフフ・・・そうなるわね。その後、それぞれのお父様たちが当然のように大激怒。3人は1ヶ月間の強制無料奉仕活動をさせられたのよ」

「強制無料奉仕活動とは・・・」

「強制無料奉仕活動と言うのはね、帝都内の下水道やドブ掃除と外壁拡張工事のお手伝いが主な活動になるのよ。その間は、宿泊は兵舎の最下級の部屋。食事も一般兵と同じものになります。周辺にいるものたちが特別扱いして待遇を良くしたら、その者たちにも罰則が及び、本人たちの罰則も延長されます。これは悪さをする貴族の子弟に対する罰則になります。殺害や悪辣な違法行為については法律が適用され貴族であっても裁かれます」


流石に水の大精霊ウィンが話していた裏社会の連中との抗争については怖くて聞けない。

そもそもなぜ知っていると聞かれたら答えられない。

この話は後でこっそりとウィンに聞いてみることにした。

若かりし頃の黒歴史を暴露され、お爺さまはガックリと項垂れていた。

そんなお爺さまの背中がやけに煤けて見えるのであった。

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