第14話 古本
青の湖からの帰り、魔道具店に寄ってみることにした。
帝都でもかなりの品揃えを誇る店に入る。
「凄いね。こんなに色々あるんだね」
目の前には日用品として使う魔道具。
奥には専門家が使うような特別な魔道具は置かれている。
「レン様。ここは帝都でも指折りの魔道店で、信用のおける店です」
色々見てると1人の男性がやってきた。
「この店の店主のトレバスと申します」
「レン・ウィンダーと申します」
「こ・・これはレン・ウィンダー侯爵様でしたか、ようこそおいで下さいました」
「ここは初めての筈だけど」
「帝都では新侯爵様の噂で持ちきりです。幼くして新侯爵として陞爵され、陛下と宰相が後見人となっていることは前代未聞、長い帝国の歴史始まって以来のこと」
「・・・そ・・そうなんですか・・・」
「レン・ウィンダー侯爵様をお迎えできて光栄でございます」
店主はゆっくりと頭を下げた。
「今日は少しお店を覗いてみたかっただけですから、頭を上げてください。困ります」
「承知いたしました。どうそごゆっくりご覧ください。何かお聞きになりたいことがございましたらいつでも声をお掛けください」
「ありがとうございます。少し見させていただきます」
レンはそう言うと、店主から少し離れて店内を見始めた。
火おこしの魔道具。
水を出す魔道具。
建物の中に設置する照明の魔道具。
いずれも複雑な魔法陣を使われている。
「この袋は」
「これはダンジョンで手に入れることができる魔法袋でございます。袋の容量を大きく上回るものを収納できるものです。袋により収納量違ったりします。中には経過時間遅延が付いたものもございます。しかし、滅多に手に入らないため容量が少ないものでも高価なものになります」
威力の高いものはそれだけ高額になる。
店の片隅に置いてある本が目に止まった。
レンはその本のところに近づいて本を手に取ってみる。
タイトルは全く読めない。
みたことも無い文字だ。
レンはこの世界の文字はある程度わかっている。
だが、この世界の言語、転生前の世界の言語。どれとも似ていない。
中を開いてみても全くわからない文字の羅列。
「店主。これはなんですか」
「最近偶然手に入れたのですが、いくら調べてもなんの本なのか全く分からないので困り果てていたのです」
「確かに、僕もみたことが文字です」
「仕方ないので、店の飾りにしております」
「この本も売っているのですか」
「金貨1枚にしております。用途がわかればもっと高くつけるのですが、用途がわからなければこれ以上つけようがありません」
「なら僕が買います。勉強してぜひ解読してみたいです」
「えっ・・よろしいのですか」
「将来、学園に通うようになったぜひ挑戦してみたいですから、僕が買います」
レンが財布から金貨1枚を出して店主に支払う。
「ありがとうございます」
レンはその本を小脇に抱えて店をでた。
ーーーーー
館に戻り夕食が終わった後ベットの上で購入した本を開き、最初のページから目を通していく。
さっぱり意味が分からない。
意味が分からないまま最後のページまでいくと一つの魔法陣があった。
とても複雑で意味不明の文字が多く書き込まれている。
その魔法陣を見ていたら、急に意識が遠のいていった。
レンは気がつくと自分自身が暗闇の中に浮いていた。
「帝都の館で眠っていたはずなのにここは一体・・・」
周囲には何も見えずただ闇の中に浮いている浮遊感だけがあった。
「これは夢なのか・・・」
危険性や恐怖は全く感じない。
なぜか分からないが不思議な安心感に心が満たされているようだ。
動きようも無いためそのまま漂うに任せてみることにした。
やがて暗闇の中に一つの白い光が浮かぶ。
その光がこぶし程の大きさになったと思ったら、その光が一気に分裂して小さな光の粒が溢れて暗闇の空間に飛び散っていく。
所々には光の渦巻きも見える。
光の粒はいつの間にか色とりどりの光に変わっている。
白、紫、青、緑、黄、橙、赤。
光の渦も色々な色に輝き始めて、さまざまな形に変化を始めている。
光の渦と渦がぶつかるもの。
円形や楕円の形をしたもの。
花の花びらを想像させるもの。
自分はその光の粒と渦巻きの中を漂い続けている。
やがて、緑色の光の渦の中に吸い込まれていく。
青い光の粒が見える。
青い光の粒からはさまざまな思いが流れてくる。
苦しさ、怒り、罵る、嘆き悲しむ心。
流れてくるさまざまな思いの苦しさに息が詰まりそうになる。
しばらくすると別の想いが流れてくる。
嬉しさ、人を愛おしく思う心、歓喜。
そして、気がつくと一面どこまでも広がる緑の草原にいた。
そこに空から何かが降り始めていた。
手ひらを上に向けて広げる。
手のひらに光の砂粒が降ってきた。
手のひらに光る砂粒が少しづつ溜まっていく。
よく見ると形が色々ある。
三角錐、立方体、星の形、六角形。
形もさまざま、色もさまざまだ。
光の砂粒は手のひらからレンの体の中に取り込まれていく。
ゆっくり、ゆっくり、ただひたすらゆっくりと光の砂粒はレンの体に入っていく。
まるでレンの体の細胞ひとつひとつが光の砂粒に変わるかのように体の中に吸収されていく。
やがてレンの体から光の砂粒が溢れかえる。
そして光の砂粒は草原を染め上げていく。
見渡す限りの草原が全て光の砂粒に染まる。
その瞬間、意識が途切れた。
レンが目を覚ますと朝になっていた。
窓からは柔らかい朝の光が差し込んできている。
レンはゆっくりと体を起こす。
「あれは夢なのか・・あまりにもリアルすぎる・・・もしかして」
レンは自分を神眼で見る。
氏名:レン・ウィンダー
年齢:7歳
種族:ヒューマン
職業:ウィンダー侯爵家当主
神像職人
状態:良好
スキル:
木 Lv5
・木製品製作 【Ⅴ】
・魔力吸収 【Ⅲ】
・木と森の恵み【Ⅲ】
・ウッドゴーレム
・神像作成
生活魔法
身体強化Lv3
魔力操作Lv3
水魔法Lv 1
氷魔法Lv 1
レアスキル:
神眼(隠蔽中)
剣聖Lv3(隠蔽中)
全魔法適正(隠蔽中)
魔力回復量UP Lv3(隠蔽中)
全状態異常耐性Lv3(隠蔽中)
隠蔽Lv2(隠蔽中)
神聖魔法Lv3(隠蔽中)
時空魔法Lv1(NEW)
称号:
地母神アーテルの使徒
ククノチの加護
木と森の精霊たちの寵愛
地母神アーテルの神像職人
水の大精霊ウィンの加護
補足事項:(神眼保持者のみ閲覧可能)
時空魔法
Lvが上がるに従って時空魔法スキルを習得できるようになる
レンは瞬間的に分かった。
購入した本に書かれていた意味不明な文字は、神々の文字であり人には分からないもの。
本には神々の文字で伝説の時空魔法と神聖魔法の上位魔法について書かれていたのだ。
あの本は二千年前の地母神アーテル様の使徒が書き、保存の魔法をかけ鑑定や天眼などの魔眼では分からないように強力な隠蔽を施したのだ。
おそらく次に現れる使徒に向けて書き残していたのだろう。
そして精霊が本を守っていて、次の使徒に自然に渡るようにしていたのだ。
上位の神聖魔法と時空魔法は使徒以外のものが使うことは非常に危険を伴う。
また、悪用された場合の危険性も非常に高いため、このような方法が行われたようだ。
特に神聖魔法には使徒だけが使うことを許されている魔法が数多くあった。
今あの本が丸ごと魂の中にある。
手元の本を開くと全てのページが白紙に変わっていた。
本記載されていた全ての文字と魔法陣が綺麗に消えて、全てがレンの魂に刻み込まれたのであった。
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